第199話 偉大なる金
俺達はティーナを先頭に歩いているが、ジャックが先頭だった時より苦労していた。
何故なら、ティーナは枝や草を刈ってくれないからだ。
ティーナは枝を見つけてもひょいっと躱し、道まで伸びている草もぴょんとジャンプして避けている。
おかげで俺達はそういった枝や草を切りながら進んでいってるため、時間がかかっていた。
「ティーナ、まだ着かないのか?」
「あとちょっとだよ」
ホントかよ……
俺達はその後も進んでいく。
「ティーナ、まだ着かないの?」
今度はリーシャがティーナに聞いた。
「もうちょっとだから……」
こいつ、本当にわかってるか?
俺達はさらに進んでいく。
「ティーナさん――」
「もうちょっとだってば」
まだマリアが名前を呼んだだけなのにティーナが遮るように答えた。
「お前、場所を把握してないだろ」
「道沿いに行けばすぐってヴィリーさんが言ってたもん」
それ、木の上をものすごいスピードで移動するエルフの感覚で言ってないか?
「ティーナ、ちょっと木に登って見てこい」
「無理を言わないでよ。走るのは得意だけど、木登りなんて無理」
「お前の身体能力ならいけるだろ」
「犬は木に登らないの! 猫じゃないんだから!」
自分で犬って言うかね?
「仕方がないなー……ティーナ、じっとしてろ」
俺はティーナに杖を向ける。
「え? 何? 折檻!? 私、何もしてないよ!?」
「折檻なんてするか。いいから黙ってろ」
俺はティーナを黙らせると、杖に魔力を込めた。
「いくぞー……フライ!」
俺が魔法を使うと、ティーナが少し浮く。
「わっ! 何これ!? 上手く動けない!?」
「魔力を消費するから動くな。じゃあ、ちょっと見てこい」
俺はティーナを一気に上空にまで飛ばした。
「――ちょっ! 勢いっ!! あーー!」
ティーナは木のちょっと上まで飛ぶと、落下し始める。
だが、器用に身体を動かし、木のてっぺんの枝を掴むと、そこでぶら下がった。
「何すんのよ!?」
ティーナが枝にぶら下がったまま文句を言ってくる。
「何か見えるかー?」
俺はティーナの文句を無視した。
「ひどい男だよ……えーっと、すぐ近くに山が見えるー。やっぱり合ってるよー。このまま行けば洞窟だと思う」
思ったより、近かったわけか……
「わかったー。降りてこーい」
「どうやってー?」
「ジャンプ!」
「ええ……無茶苦茶言うし」
ティーナはそう言いながら枝から手を離し、段階的に下の枝を掴みながら落ちてきた。
実に器用であり、さすがはティーナと思った。
俺には無理。
「ひどい目にあった……自分で行けばいいじゃん」
地面に到達したティーナが俯きながら文句を言ってくる。
「俺は高いところがダメなんだ」
少しでも浮きたくない。
「せめて、もうちょっとゆっくり上げてよね……」
「ゆっくり上げるのは魔力を食うんだよ。楽しい空の旅を提供してやっただろ」
正直なことを言えば、久しぶりに使ったから加減を間違えただけだったりする。
「まあ、楽しかったような気もするわね。攻撃された感は拭えないけど」
「ふむふむ。上に飛ばして、落下のダメージを与える魔法にするか……」
森では使えないが、平地では使えそうだ。
「攻撃魔法じゃん……やっぱりあなたの家のメイドになるのはやめておくわ。奥さんにはボコボコにされ、旦那さんには魔法の実験に付き合わされそう」
とんでもない職場だな、それ。
そんなことせんわ。
「私のヒールで治せますよー」
「それでまた働けって? マリア、それは拷問って言うのよ……奴隷以下じゃないの」
確かに……
「…………ティーナはダメそうね。ララにする?」
「…………手紙でも書くか。金を積めばいいだろ」
「…………アットホームな職場をアピールしましょうよ」
それがいいな。
「コソコソと人の妹を地獄に連れていこうとする相談をすんな!」
こいつ、耳が良いな。
「今なら金貨300枚で買うぞ」
「いや、売らないわよ!」
まあ、そうだわな。
やはり手紙を送った方が良いな。
給料が良かったら尻尾を振って来るだろ。
「まあいい。その辺は後でじっくり話そう。ほれ、氷の洞窟に行くぞ」
俺はティーナの肩を掴んで前を向かせると、押す。
「絶対に渡さないわよ」
ティーナは俺に押されて歩きながらも顔をこちらに向け、念入りに拒否してきた。
「給金として、月に金貨50枚出そうかと思っている」
「50!? 月で!? ちょっと待ってね………………私の給料とは段違いだ…………うーん、私が行くか?」
ティーナは歩きながら考え込み始めた。
やはり金の力は偉大である。
俺達は再び、道を歩き出すと、徐々にだが、木に混じって石や岩が増えてくる。
「ねえ、ねえ。メイドって何するの?」
金に惹かれたティーナが歩きながら聞いてきた。
「掃除とか色々だな。まあ、リーシャが求めているのは御付きのメイドだ」
「何それ?」
「身の回りの世話をする専属のメイド」
「お茶を淹れればいいの?」
まあ、そんな感じかね?
俺専属の侍女は城を抜け出すために買収済みで遊んでばかりだからよくわからんな。
「そういうのだと思う。出かける時についてきて荷物持ちしたり、布団から出てこない奴を無理やり起こしたりする感じ」
一番大変なのは起こすこと。
全然、起きないし。
「なんか楽そうだね」
「どうかねー? 教養や礼儀もあるし、色々覚えることは多いと思うな」
リーシャはうるさいからなー。
俺はまったく気にしないんだが……
だからカトリナ……いや、シルヴィか? あれでもいい。
「ふーん、なるほどねー。そもそもの疑問なんだけど、獣人族がなれるものなの?」
「知らん。ウチの国には獣人族もエルフもいないからな。まあ、気にする客の前には出さなければいいだけだし、それでも文句を言う奴は首を刎ねるだけだ」
「こわっ……あー、でもそうか……エーデルタルトには人族しかいないもんねー。あなた達ってエーデルタルトに帰るの?」
「まだ決まってない。俺達は逃げてきたからな。でも、当分はウォルターだと思う」
ヒラリーが適当な身分と役職をくれるだろ。
「ふーん……悪くないな……別に夜のお世話はしなくてもいいんでしょ?」
「その時はお前はリーシャに殺されるな」
さようなら。
俺はお前に誘惑されたって言う。
「そういえばそうだった……そうか……だからリーシャ様の御付きなのか」
「そもそも別にお前なんかいらん」
尻尾を触ってみたいと思うくらいだ。
「傷つく……」
「まあ、考えておけ。別に急いでないし、国に帰ってから考えればいい」
「考えてみる…………」
まあ、こいつの中ではほぼ決まっているんだろうな。
すでにリーシャ様って呼んでるし……
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