第019話 初心者
晴れて王子様や貴族令嬢から冒険者にランクダウンした俺達はギルドを出た。
「ジャック、ここから近い大きな町ってどこだ?」
俺は移籍することにしたので詳しそうなジャックに聞いてみる。
こんな田舎は嫌なのだ。
「近いのはリリスの町だな。そこそこ大きいぞ」
リリス?
どっかで聞いたことがある名前だな……
あ、俺はそこの町の商人のバカ息子の設定だったわ。
確か、ジャックがユニコーンがどうたらこうたらって嘘八百な話を門番にしていた。
「じゃあ、そこか……リーシャ、マリア、そこでいいか?」
「私はどこであろうと、あなたについていくだけね」
「私もです」
良い嫁と臣下を持ったなー。
まあ、正式に言うと、嫁でもないし、臣下でもないけど。
「ジャック、俺らはリリスに行くわ。お前はどうするんだ?」
「俺も途中まではついていってやる、別の仕事があるから道中でお別れだな」
リリスまではついてこないか…………
まあ、伝説の冒険者は伝説を作らないといけないから忙しいのだろう。
「わかった。じゃあ、行こうぜ」
「あ、待った。お前らは先に門のところ…………いや、門の先で待ってろ。俺はちょっと準備がある」
準備ねー。
そういや、さっきの店で物を買ったのは俺達だけだったな。
こいつも準備がいるか。
「わかった。じゃあ、先に行ってるわ」
「ああ。そんなに時間はかからないから嫁達と駄弁ってな」
うーん、もう嫁ってことにした方が良いかもしれんな。
その方がまだ悪い虫がリーシャやマリアにつかないかもしれない。
「はいはい。じゃあ、また後でな」
俺達はジャックと別れると、3人で門に向かった。
門に向かうと、さっきもいた門番が暇そうにしており、俺達、というか、リーシャやマリアをジロジロと見てくる。
ジャックが門の先って言い直したのはこういうことね……
俺はなるほどなーと思いながらリーシャとマリアを連れて、門を抜けると、少し距離を置き、ちょうどいい木陰ができている木の下で立ち止まった。
「さて、ここまでは非常に順調だな」
俺は立ち止まり、振り向くと、2人に告げる。
「ええ、そうね。徴発もせずに済んだわ」
「えー…………本当にする気だったんですかー」
しなきゃ飢え死にだっただろ。
まあ、俺の睡眠魔法で眠らせて、こっそり盗む程度で終わらせるつもりではあった。
「ジャックに会えたのは幸運だったな」
「ですねー。私の運も良くなったのかな?」
マリアがそう言うが、お前が指差した方向にはジャックはいなかっただろ。
「マリアの運はどうでもいいけど、このままジャックにリリスまで連れていってもらえると、良かったんだけどね」
「まあ、さすがにそれは頼りすぎだろう。ここまででも十分だ」
「あの、ところで、ジャックさんって信用できるんですか?」
こいつは何を言っているんだ。
「ジャック・ヤッホイだぞ?」
「伝説の冒険者よ?」
な?
「いや、私は存じ上げない方なもんで…………確かに本は面白いですけど」
「さっきギルドの受付嬢が言ってただろ。Aランクはそれだけで信用があるって」
しかも、本まで出している伝説の冒険者だ。
「言ってましたね…………殿下がそう言うなら私はこれ以上、何も言いません」
そうしなさい。
「まあ、怪しい点もあったけど、スルーね」
「怪しい点……ですか?」
絶世の嬢ちゃんね。
「まあいいだろ。助けてもらって色々と教えてもらったわけだ。恩人を疑うな」
「わかりましたー」
マリアは納得したようだ。
「それよりもマリア、悪いが、お前は2号さんということにしてくれ」
「それはまあ、いいですけど、なんでです?」
「別の冒険者とやらに絡まれそうだ。リーシャは俺の婚約者だとしてもお前はフリーなわけだろ? 変なのにナンパされるかもしれん」
マリアは対抗手段がないからちょっと危ない。
「というか、ナンパで済めばいいわね」
リーシャが脅す。
「た、確かに! では、私は殿下の2号さんということで!」
「良い人とやらが見つかったら言えよ。俺やリーシャがちゃんと説明してやるから」
王子様とその婚約者が証明したら大丈夫だろ。
多分。
「お願いします!」
マリアが頷いたところで村の門を抜けるジャックが見えた。
ジャックは俺達を見つけると、すぐにやってくる。
「待たせたな」
「いや、たいして待ってない。早かったな」
「たいした準備じゃないからな。じゃあ、行こう。今からだったら明日の日が暮れる前には着けるだろう」
一泊は野宿か。
「ちなみにだが、歩きか? 馬車とかないのか?」
「定期便の乗合馬車があるが、この村は10日に1回だな。馬車が良いなら数日はここに滞在だ」
「歩こう。こんなところに何日も滞在する気はない」
やることねーし、つまんねーわ。
「だろ? 行こうぜ」
俺達はリリスに向けて出発することにした。
俺達は舗装はされていないが、そんなに荒れていない道を歩いていく。
「森の中よりかは何倍もマシだな」
「そりゃな。よくあんな格好で森を歩けたもんだ」
「もう森はいい。朝起きたら熊におはようって言われたくない」
あれはマジでビビった。
「そりゃそうだ。まあ、安心しろ。ここからは滅多にモンスターは出ないし、平和なもんだ」
「ここなら出てくれた方が良いがな」
開けているし、俺の魔法を生かせる。
ジャイアントベアでもなんでもいいから金になるモンスターが出てほしい。
「お前らは実力があるからすぐに稼げるよ」
そうだと嬉しいわ。
俺達は平和な道を歩き続け、リリスを目指す。
道中、疲れたりすることもあったが、適度に休んだし、マリアの回復魔法があったため、特にトラブルもなく進んでいった。
そして、そのまま歩いて進んでいくと、空が茜色に変わりだし、辺りが少しずつ暗くなってくる。
「そろそろだな……」
ジャックがふと、つぶやいた。
「何がだ?」
「そろそろ野営の準備だ」
「まだ行けなくないか?」
「暗くなってからの準備では遅いんだ。その前に準備し、ゆっくりするのがセオリーだ」
なるほどね。
軍もそうするが、冒険者もか。
「わかった。どうすればいい?」
「道を少し逸れたところでキャンプだな」
ジャックがそう言って、道から外れた。
俺達はシロウトなので素直にジャックについていく。
「このあたりだな」
「どうすんだ? 焚火でもするのか?」
「だな。お前ら、適当な枝を拾ってこい」
ジャックにそう言われたので俺は周囲を見る。
「木がないが?」
草原ばかりで木があまりない。
あっても数本であり、枝は落ちてなさそうだ。
「な? こういうこともある。お前ら、テントはあるか? 食料はあるか?」
…………ないな。
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