第183話 『いけません旦那様! 旦那様には奥様がいらっしゃいます!』って言うためですね
婆さんから馬車を借りることの了承を得ると、婆さんからジャックの昔話を聞いていた。
すると、コンコンというノックの音が部屋に響く。
「なんだ?」
「旦那様、ヒラリー様がお見えです」
外からシルヴィアの声が聞こえてきた。
俺は立ち上がると、扉まで行き、開ける。
すると、そこにはシルヴィアとヒラリーがいた。
「呼んだか?」
ヒラリーが聞いてくる。
俺は呼んだ覚えがないのでシルヴィアを見る。
「お呼びした方が良いと思いましたので……」
有能な侍女だこと……
「そうか……ヒラリー、入ってくれ。シルヴィア、リーシャとマリアは?」
俺はヒラリーを部屋に入れると、シルヴィアに聞く。
「奥様方はリネット様の部屋で装飾品を選んでおいでです」
なるほどね。
「わかった。2人を呼んできてくれ」
「かしこまりました、旦那様」
シルヴィアは恭しく頭を下げると、歩いていった。
「なあ、ロイド、あのメイド、なんでスカートが短いんだ? お前の趣味か?」
「あれは気にするな。それより、座ってくれ」
俺とヒラリーはテーブルに行き、座った。
「それで用件ってなんだ?」
テーブルにつくと、ヒラリーが聞いてくる。
「ジャックから了承を得た」
「そうか! Aランク冒険者が一緒なら安心だな!」
ヒラリーも俺達のことを案じているのがわかる。
「それで馬車の準備はいい。ラウラから借りる」
「ふむふむ。そうなると、残りの準備は何がいる?」
テントなんかもあるしなー……
「金」
「まあ、それがあればどうとでもなるか……金貨1000枚でいいか?」
1000枚?
「ケチるなー……」
「足りんか?」
「うーん、まあ、それくらいでいいか……」
ジャックもそんなに遠くないって言ってたし。
「じゃあ、準備しておこう」
「頼むわ」
準備はそんなもんかね?
「あんたら、すごいね……」
婆さんが呆れる。
「あ、馬車のレンタル代をラウラに払ってくれ」
「それもそうだな…………いくらくらいだ?」
「さあ? でも、グローリアスは高貴だから色をつけてやってくれ」
「ふむふむ。グローリアスとやらが何かはよくわからんが、わかった」
俺の馬。
「こうやってパンの値段も知らない人間ができるんだね」
銅貨1枚で買えるんだろ。
もう知ってるわ。
「ロイド、出発はいつだ?」
「それをリーシャとマリアが来たら話し合う。早い方がいいだろ」
「そうしてもらえると助かるな……しかし、リーシャとマリアか……リネットが反対せんか?」
伯母上なー……
「絶対にするだろうな。嫁入り前になんで危険なことをするってヒステリーを起こしそう」
「ヒステリーじゃないし、私だってそう思うわ」
ぶっちゃけ、俺もそう思ってる。
でも、一緒に来てくれた方が良いとも思ってる。
リーシャは強いし、マリアは回復魔法を使えるからだ。
あと、1人はちょっと嫌だし、俺とジャックの組み合わせは絶対にエルフが警戒する。
「じゃあ、それをリーシャとマリアに伝えろよ」
「嫌だよ。エーデルタルトの女子は何をするかわからんから怖い」
伯母上もそう思っているだろうが、立場上、言わないといけない立場だからな……
「伯母上には内緒で行くわ」
文句は後で聞こう。
伯父上のためにって言い張れば、強くは責めてこないだろう。
「それがいいかもな……」
ヒラリーが頷くと、部屋にノックの音が響いた。
「シルヴィアか?」
「はい。奥様方が戻られました」
「入ってくれ」
俺がそう言うと、リーシャとマリアが部屋に入ってくる。
「あら? お揃いで」
「何ですかー?」
2人はテーブルまで来ると、座った。
「ラウラが馬車を貸してくれるそうだ。それでいつ出発するか相談しようと思ってな」
「国王陛下のことを考えると早い方がいいですよね?」
マリアが聞いてくる。
「そうだな。ヒラリーが路銀をくれるって言ってるし、ジャックもすぐに出られるだろう。お前達はどうだ?」
「私はいつでもいいわ」
「私も大丈夫です」
いいのか……
「伯母上は? お前ら、何かしてるだろ」
「何かって……ドレスとか装飾品を決めてるのよ」
「殿下、本当に興味がないんですねー」
俺がこれっぽっちも興味がないことに気付いていたらしい。
「俺はそういうのを気にしないんだ。大事なのは中身って言うだろ?」
「ふっ」
リーシャがドヤ顔で髪を払う。
「リーシャ様の中身……腐ってますよ?」
いや、服の中身のこと……
あれ? 変態っぽいぞ。
「どっちみち、俺はその辺のことに詳しくないんだ。お前らで勝手に決めろ。それで、そっち方面は大丈夫か?」
「別に急ぎじゃないでしょ。1ヶ月後に巫女様が戻るのかもしれないけど、別に2ヶ月後だろうが3ヶ月後でもいいし」
まあ、そうなんだけど。
「いいのか?」
「別にいいわよ。私は5年と66日待ったのよ? あと数ヶ月待とうと問題ないわ」
「マリアもいいか?」
「私は本当に問題ないです。あと、日にちを数えてることはスルーですか? ものすごく気にされてますけど……」
スルーというか、無視。
何度も聞いたわ。
「じゃあ、伯母上は無視でいいか……」
「優先順位の問題よ。私達の結婚はいつでもできるけど、国王陛下は時間がない。それに苦しいでしょうし、さっさと治すべきでしょ」
「そうだな…………じゃあ、明日にでも出るか」
急ごう。
「それでいいわよ」
「私も大丈夫です」
「ヒラリー、そういうことだ。金くれ」
俺はヒラリーに路銀を要求する。
「わかった。すぐに準備しよう。頼んだぞ。あと無理はするな」
「わかってる…………シルヴィア!」
俺は扉に向かって、声をかけた。
すると、扉が開かれ、シルヴィアが姿を現す。
「何でしょうか、旦那様」
「ジャックに伝えろ。明日の朝に城の門前に来いってな」
「かしこまりました」
シルヴィアは恭しく頭を下げると、扉を閉めた。
「ラウラ、馬車な」
「わかってるよ」
ラウラが頷く。
「気を付けろよ……ところで、ロイド。あのメイドはなんでお前のことを旦那様って呼ぶんだ? あれ、ウチのメイドだろ」
「知らん」
本人に聞け。
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