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第018話 冒険者になった王子と令嬢達


 武器や防具を売っていた店を出た俺達は舗装もされていない道を歩いていると、剣が交差している看板がついている建物の前にやってきた。


「ここがこの村のギルドだ」


 ジャックがそう言って建物を見るが、建物は小さい。

 さっきの店の半分もないだろう。


「小さくないか? その辺の民家より小さいぞ」

「ギルドはギルドだが、出張所だよ。こんな辺境な地にギルドを置いても儲かりはせん。とはいえ、大森林が近いし、一応、設置しておかないと万が一のことがあった時に対応が遅れる」


 対応?

 山火事か何かか?

 こんな村がつぶれてもたいした被害はないと思うけどねー。


「ふーん。暇そうな職場だな」

「だろうな。とはいえ、依頼もできるし、冒険者の登録もできる…………入るぞ。あ、余計なことをしゃべるなよ」

「わかってるよ」


 俺達はジャックを先頭に建物に入った。

 建物の中は数人程度しか入れそうにない広さであり、ぶっちゃけ、ウチのトイレの方が広い。

 まあ、さすがにこれは言えない。


「よう、暇そうだな」


 ジャックが受付で暇そうにしている若い女性に声をかける。


「あ、ジャックさん、お帰りなさい。もう終わったんですか?」

「まあな」

「さすがはAランクですねー」


 仕留めたのは俺だぞ!


「とりあえず、これが討伐の証だ…………って、渡してたわ。おい、魔石をちょっと貸してくれ」


 ジャックが振り向き、俺に頼んでくる。

 俺はさっきの店で買った肩にかけるカバンからジャイアントベアの魔石を出し、ジャックに渡した。

 ジャックは俺から魔石を受け取ると、すぐにギルドの職員に見せる。


「確かにジャイアントベアの魔石ですね。1頭でした?」

「ああ、巣穴もあったが、つがいではない。それにオスだったし、子供はいないだろう」


 そういうのも確認してたんだなー。

 気付かんかった。


「わかりました。では、依頼はオッケーです」

「ああ。それと肉なんかの素材を買い取ってくれ」

「わかりました。提出をお願いします」


 ギルド職員とジャックが精算を始めたので俺はギルド内を見渡す。

 すると、壁に紙が貼りつけてあったので見てみることにした。


【薬草の採取 銅貨1枚】

【ゴブリンの駆除 銅貨5枚】

【狼の駆除 銀貨1枚】

【ジャイアントベアの駆除 金貨10枚】


 ふーん…………これだけ?


「ジャイアントベアが浮いてるわね」

「ですねー。リーシャさんが何匹かゴブリンや狼を倒しましたし、その分のお金はくれないんですかね?」


 俺が依頼票と思わしき紙を見ていると、リーシャとマリアも覗いてきた。


「多分、討伐証明の魔石がいるんだろ。銅貨5枚や銀貨1枚のためにいちいち解体するのは面倒だわ」


 ここに来るまでにジャックもゴブリンや狼を倒していたが、完全に捨てていた。

 割に合わないのだろう。


「そうなると、薬草も安いですし、ジャイアントベアですかね?」

「もう終わったやつだがな」


 つまりここでやる仕事はないわけだ。

 うん、ここに滞在する理由はないな。


「おい、終わったぞ」


 俺達が依頼票を見ていると、ジャックが俺の肩を触った。


「いくらだ?」

「ほれ、金貨8枚だ」

「そんなもんか?」

「いや、かなり安い。大きな町だったら倍はする。だが、こればっかりは仕方がない」


 まあ、こんな村ではしょうがないのだろう。


「それでいい」

「じゃあ、ほれ」


 ジャックはそう言って、小袋を渡してくる。

 中身を確認すると、確かに金貨が8枚入っていたのでカバンに入れた。


「ん。確かに」


 これでジャイアントベアの魔石が金貨30枚で売れたら金貨38枚だ。

 うーん、貧乏……

 豪遊はやめた方がいいな。

 情けないが質素にいこう。

 甲斐性のない旦那ですまんな、1号さん、2号さん。


「じゃあ、冒険者登録をするぞ」

「ああ」


 依頼票を見ていた俺達3人はジャックと共に受付に向かう。


「こいつらの冒険者登録を頼む」

「はい。ところで、さっきから気になってたんですけど、どちら様です? この村の人じゃないですよね?」


 まあ、聞いてくるわな。


「俺の知り合いのガキだ。詳しくは聞くな。駆け落ちだとよ」

「あー……なるほどー」


 受付嬢が好奇な目で俺達をジロジロと見てくる。

 多分、暇だからこういう話題が嬉しいのだろう。

 女はそんなもんだ。


「最初の手助けくらいはしてやろうと思ってな。そういうわけだから登録を頼む」

「わかりました。では、まずはここに必要事項をご記入ください。文字は…………書けますよね?」


 受付嬢は俺らを見て、文字が書けると判断したようだ。


「書ける。よこせ」


 俺は紙を受け取ると、内容を見てみる。

 リーシャとマリアも俺の後ろに回り、一緒に見だした。

 紙に書かれた内容は名前と年齢、性別に加えて得意分野を書く欄がある程度だ。


「これだけでいいのか?」

「はい。あまり詳しくしても嫌がられる方も多いですし、嘘をつかれることもあります。ですので、その程度にしています」


 ふーん、これだったらマジで犯罪者でも冒険者になれるな。

 そりゃ、ならず者が多いわけだわ。


「得意分野とは?」

「そこを書いていただけると、こちらから仕事を振ることができますし、アドバイスもできます」

「強制依頼はあるか?」


 嫌だぞ。


「非常事態になると、一応、そういうことになりますが、従ってもらえるかは微妙ですね」

「非常事態?」

「災害時の人命救助やモンスターのスタンピードが発生したとかですね。まあ、皆さん、逃げられると思いますけど……」


 信用ないな。

 でも、そうなると思う。

 俺だって、自国なら参加するが、他国とかならどうでもいい。

 この国に至っては滅んだら楽だなとすら思っている。


「まあ、わかった。まとめてでいいか?」

「はい。5名まではまとめて提出が可能です」


 俺はそう言われたので自分の分とリーシャとマリアの分もまとめて書くことにした。

 名前はファミリーネームを書かず、ファーストネームだけ、年齢は普通に18歳と書く。

 そして、得意分野のところで手が止まった。


「ジャック、素直に書いていいものか?」


 俺は先輩にアドバイスを求めることにする。


「いいぞ。お前さんは魔術でいい。あと、ちっちゃい嬢ちゃんは回復魔法って書いとけ。メイジやヒーラーは貴重だからそれだけでギルドからの使い捨てがなくなる」

「使い捨て? そんなのがあるのか?」


 受付嬢が睨んでるぞ。


「言い方を悪くしたが、似たようなもんだ。冒険者は数が多いし、いちいちそれぞれの能力を把握できない。そうなると適当に仕事を振ることもある。だが、貴重な技術を持った奴らはギルドも配慮するんだ。その筆頭がお前らみたいなのだな」


 ふむふむ。

 エーデルタルトではまったく評価されなかった俺の魔術が他国では評価されるわけだ。

 亡命しようかな?


「なるほど……リーシャ、お前の特技はなんだ?」

「ふっ」


 リーシャが手できれいな髪を払った。


「美人って書けばいいのか?」


 確かにエーデルタルトでは絶世の令嬢と評判だが……


「意味のないことを書くな。娼婦にでもなる気か? 絶世の嬢ちゃんは剣術って書け。実際、すごいわけだし」


 どうでもいいが、絶世の嬢ちゃんって笑える。


「じゃあ、そうするか……」


 俺は得意分野の欄にそれぞれ、魔術、剣術、回復魔法と書き、受付嬢に提出した。


「はい、確かに。有望なパーティーですねー。では、これをどうぞ」


 受付嬢は頷くと、3枚のカードを渡してきた。


「何これ?」

「冒険者カードです。後ろに自分の名前を書いておいてくださいね」


 そう言われて裏を見ると、確かに名前を書く欄がある。

 ついでに言うと、Fって書いてある。


「Fランクってことか?」

「ですね。依頼達成を重ねていくと、ランクが上がります。ここで注意です。ランクは別の町のギルドに行っても変わりませんが、依頼の蓄積はクリアになります。ですので、例えばですが、依頼を99個クリアし、あと1個で次のランクになるっていう時に移籍をされると、また1からやり直しになりますので注意が必要です。まあ、多分、そのギルドが忠告はしてくれると思います」


 ふーん。


「ランクが上がると良いことがあるのか?」

「色々あります。まずは信用です。冒険者はロクでなしが多く、信用がありません。ですが、高ランクは信用があり、貴族なんかの大口から仕事が来ることもあるんです」

「それだけ?」


 貴族の仕事はノーだぞ。


「他にもギルドから良い仕事が来やすくなりますし、再就職にも有利です」


 魅力を感じないなー。

 まあ、適当にやるか。


「了解」

「では、頑張ってください。早速、依頼を受けられますか?」

「いや、ロクな依頼がないから別の町に行く」

「早いですねー…………移籍の最速記録です」


 だろうな。


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