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第167話 川


 俺達がジャスの国を発ってから10日が経とうとしていた。

 その間、ジャスの隣国であるアダム王国を通っているが、平和そのものである。

 モンスターがそこそこ出てくるものの盗賊なんかはいないし、ジャス王がアダム王に俺達が通ることを伝えてくれたおかげで町でのトラブルもない。


 俺達は今、ラウラの操縦する馬車に乗って、順調にウォルターに向かっている。

 そして、ついにアダムでの最後の町を発ち、ウォルターとの国境に向かって出発した。


「ようやくだなー」

「空賊に襲われ、墜落。治安の悪い町に行き、攫われて奴隷落ち寸前。漂流して餓死寸前からの無人島。そして、妙な戦争に巻き込まれそうになった…………色々ありましたけど、ようやくこの長い旅も終わります」


 本当に色々あったなー…………特にマリアは。

 でも、墜落はしていない。

 不時着な。


「私的には町がモンスターに襲われる的なものとかドラゴン退治がしたかったけどね」


 俺はそのどちらもごめんだわ。

 本当に好戦的な女……


「そういうのを経験しているけど、ロクに風呂も入れないどころか下手をすると、トイレにも行けないよ」

「やっぱりいいわ……」


 婆さんの経験を聞いたリーシャのテンションが下がった。


「そんな汚い話よりもウォルターってどういうところなんです?」

「汚い……」


 マリアの物言いに婆さんがちょっとへこむ。


「水の都って呼ばれているのは知っていると思うが、本当に水の都だ。大きな川と海に面した国で観光名所だな。その一方で北に教国があり、東にミレーっていう国がある。このミレーとは仲が悪い」

「戦争ですか?」

「そこまではいってないし、貿易もしている。だが、ことあるごとに外交で争っているな」


 まあ、隣国なんかは普通こうなる。

 エイミルとジャスが特殊なのだ。


「じゃあ、問題事はなしですね!」


 うーん、どうだろ?


「シルヴィの早く行けという言葉が気になるんだよなー。好意的に捉えると、早く式を挙げたらー? なのかもしれん」

「もう、殿下ったらぁー…………そんなわけないでしょ」


 マリアが幸せいっぱいの顔から暗い顔に変わった。


「まあ、そう思う。とはいえ、こればっかりは行ってみないとわからん」

「そうですねー。何もありませんように、何もありませんように、何もありませんように」


 なんでだろう?

 お前は祈るなって言いたい。

 可哀想だから言わないけど。


「あなたの伯父であるウォルター王はどんな方なの?」


 今度はリーシャが聞いてくる。


「どんなって言われてもなー。明るいおっさん」

「他にないの?」

「ない。おこづかいをくれる優しい伯父さんだ」


 内緒だよって言って、よく金貨やお菓子をくれた。


「普通ね」

「まあ、伯父なんてそんなもんだろ。これが親なら厳しくするんだろうが……」


 なんだかんだで叔母上だって優しかった。


「親戚なんてそんなもんよね」


 この辺は貴族であろうと平民であろうと変わらないだろう。


「まあな。ラウラ、ウォルターについては何か知らないか?」


 婆さんは冒険者だし、俺達が知らないことを知っているかもしれない。


「さあ? ここ数年はウォルターには行ってないからねー。何か変わったことがあればギルドが知っていると思うよ。でも、そんな話は聞いていないね」


 うーん、あるとしたら仲の悪いミレー関係かエイミル、ジャスであった教国関係だと思ったが、ギルドは把握していないのか。


「ウォルターにギルドは?」

「そりゃあるよ。でも、あんたらは行かない方がいいよ」


 俺を知っている奴がいるかもしれんか……


「お前はウォルターに着いたらすぐに帰るのか?」

「いや、数日は滞在する予定。観光したら帰る」


 数日って早いな。


「そんなにウォルターが嫌か?」

「嫌なのは教国と私の故郷があるミレーだよ。近づきたくないって言っただろ」


 こいつはこいつで変わり者だなー。

 故郷くらい別にいいじゃん。


「ふーん、麺料理は美味いから食っていけよ」

「ほぼそれ目的だよ。あれはワインと合うし、美味い」

「酒癖が悪いんだからあまり飲むなよ」


 王様というか元王子様の頭を瓶で殴るほどの酒癖の悪さだろ。


「わかってるよ。酒で失敗したことが多いからね。自重する」


 大丈夫かねー?


「殿下、麺料理って何ですか?」


 マリアが興味津々に聞いてくる。


「小麦粉を何かしたやつを何かのソースに絡めたやつ。美味いぞ」

「何かが多すぎてわかりません……」


 そう言われても俺も知らんし。


「どこでも食べられるから行ったら食べよう。他にも海産物もあるし、料理は充実してたと思う」

「おー! それはいいですねー」

「楽しみね」


 エイミルもジャスもアダムも特産物もなく、普通の肉料理ばっかりだった。

 別に不満はないが、旅の楽しみの一つがその土地ならではの料理だったりするのだ。

 おかげで叔母上にもらった缶詰の半分はすでになくなっている。


「さて、あんたら、国境が見えてきたよ」


 婆さんがそう言ったので俺達は馬車から顔を出し、前方を見てみる。

 そこには海のように大きい川と大きな船が並んでいた。


「この川がアダムとウォルターの国境だよ」


 ようやくここまで来たか……


 俺は長かったなーと思いながら国境の川を見続けた。


お読み頂き、ありがとうございます。

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