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第165話 手紙


「ロイド王子、ロイド王子」


 んー?


「……何だ?」


 俺は目をこすりながらベッドから起き上がった。


「おはようございます。陛下がお呼びです」


 テントの外から兵士の声が聞こえている。


「わかった。すぐに行く」


 俺はベッドから降り、体を伸ばすと、テントを出る。

 すでに朝になっていたらしく、テントの外は明るい。


「おはよう。朝か?」

「はい。眠れましたか?」

「ああ。熟睡だった」


 簡易なテントで寝心地は微妙だったが、馬車の中よりはマシだし、疲れからか一度も目覚めることはなかった。


「それは良かったです。では、こちらへ。陛下が話があるそうです」

「わかった」


 俺は兵士についていくと、とある幕営の前までやってきた。


「どうぞ。中で陛下とラウラ殿がお待ちです」

「ん」


 俺がテントの中に入ると、そこにはテーブルに置かれた地図を座りながら見ているエイミル王と婆さんがいた。


「ロイド王子、来たか……」

「おはよう」


 2人が声をかけてくる。


「どうも」


 俺は2人がいるテーブルまで近づくと空いている椅子に座った。


「話はラウラから聞いた。この度はウチの娘が迷惑をかけ、すまなかった」


 エイミル王が謝ってくる。


「仕事をしただけだ。ちゃんと報酬はもらっている。それよりも話を聞いてどう思った?」

「うむ。余としてもこの度のことは第三者の介入があるのではないかと思っていた。だが、まさか教国とはな…………」


 やはりエイミル王もきな臭いとは思っていたようだが、おそらく、テールを予想していたのだろう。


「戦争が始まったら取りなして、恩を売る気だったんだろう。前にもあったんだろ?」

「ああ、あった。その時もテールの介入が予想されていた。だが、こうなってくると、その時も怪しいな」

「教国としてはあんたらとテールで争ってほしいんだろう。そうすれば、エーデルタルトも動く。邪魔な存在が争ってくれるわけだ」


 教国としては言うことを聞かないテールとエーデルタルトが邪魔なんだろう。

 エイミル、ジャスはその火種に過ぎない。


「最近、教国は良くない噂が流れているし、注視せねばならんな」

「シルヴィも一枚岩ではないと言っていたし、何かあるんだろう」

「だと思う」


 シルヴィは急いでウォルターに向かえと言っていたし、何かが起きる予感がする。


「まあ、それは後のことだ。それよりも今は目の前のジャス軍だ」


 今やらなければならないのは戦争の阻止だ。

 教国云々はその後。


「そうなるな。確認なんだが、コンラート王子がジャス陣営に向かったのはまことか?」

「ああ、ウチのリーシャとマリアと共に向かったはずだ。時間的にはとっくの前に着いているだろう」

「だが、動きがないな……」

「オリヴィア王女のことがあるからだろう。オリヴィア王女に何かあったことを考えると、向こうからは動けない」


 第三者からの介入がありますって言っても、オリヴィアが死んでいたらエイミルはジャスを疑う。


「こちらからコンタクトを取る必要があるわけだな?」

「だと思う。おそらく、向こうはこっちの動き待ちだ」

「では、軍使を送る必要があるな…………」


 そうなるね。


「俺が行ってやろうか? お前らの争いに一番関係ないし」

「行ってくれるか?」


 というか、それを頼むために呼んだんだろ。


「任せておけ。陛下は手紙を書いてほしい。状況説明とオリヴィア王女が無事だったこと。そして、一時的な停戦と早急に話し合いの場を設けることだ。あんたとジャス王が直接話せ」

「直接か?」

「オリヴィアとコンラートのことがあるだろ。それにさっさと軍を引き上げさせろ。テールはすでに勘付いているだろうし、そろそろ国民も勘付くぞ。問題を大きくする前に終わらせた方が良い。早くしないとバカな貴族が動く」


 テールが裏切り工作に動くかもしれないし、不安に駆られたバカ貴族が保身に走ることもあり得るのだ。


「わかった。すぐに手紙を書こう……誰か、文を持て!」


 エイミル王が兵士を呼ぶと、兵士がすぐに紙とペンを持ってくる。

 そして、エイミル王が手紙を書き始めた。


「手紙を書きながらでいいんだが、聞いてもいいか?」


 俺は手紙を書いているエイミル王に聞く。


「なんだ?」

「あんた、冒険者だったんだろ? Aランク?」

「いや、Bランクだ」


 おー! すげー!


「ラウラのことが好きだったん?」

「あんた、本当に色恋が好きだね……」


 婆さんが呆れる。


「最初見た時はこんな女がいるのかと思ったな。妻にしたいと思ったこともある。だが、酒に酔って瓶で頭を殴られた時に死ねと思った」

「酒癖悪いなー」


 普通に死ぬぞ、それ。


「うるさい! 昔のことだ!」


 婆さんが逆ギレする。


「なんでラウラを呼んだんだ?」

「まあ、優秀だったし、博識だったからな。それにどうせ暇しているんだろうなーって思って呼んだ」

「暇じゃないよ。魔法の研究とか色々やることはあるんだ」


 暇してそうだな……


「まあ、余が懐かしかったこともある。他の連中はどこにいるかも知らんし、訪ねてもこん。あいつら、薄情なんだ」

「自由人だからねー」


 まあ、ジャックを見る限り、そんな感じはするな……


「さて、書けたぞ。ロイド王子、これを頼む」


 エイミル王が手紙を折ると、渡してくる。


「わかった。馬と白旗を貸してくれ」

「うむ。わかった」


 俺達はテントから出ると、陣の前まで歩いていった。

 陣の前まで来ると、視界の先にはジャス陣営と思わしき、敵陣が見えている。


「うーん……お、リーシャとマリアを発見!」


 俺が遠見の魔法で敵陣を見ていると、敵陣の中央付近でリーシャが手を振っていた。


「絶世の嬢ちゃんはなんで見えるんだろ……」


 実際、めちゃくちゃ距離がある。


「知らん。あいつのことは何も考えるな」


 考えても無駄だ。


「ロイド王子、馬と白旗だ」


 王がそう言うと、兵士が白旗を持ちながら馬を引き連れてきた。


「じゃあ、行ってくる」


 俺は馬にまたがると、兵士から白旗を受け取る。


「気を付けてな」


 婆さんが馬に乗った俺を見上げる。


「問題ない。白旗を持った単騎を攻撃してくるクズ共がいたら俺の対軍魔法で燃やしてやる」

「心配だよ……」


 どっちがだ?


「大丈夫だよ。じゃあ、届けてくる」


 俺は馬を走らせると、何もない広野を進んでいく。

 そして、ちょうどお互いの陣の真ん中くらいまで来ると、馬を止めた。


「エーデルタルトの第一王子、ロイド・ロンズデールである! エイミル王より手紙を預かってきた! ジャス王に取り次いでもらいたい!」


 俺がそう叫ぶと、すぐに馬に乗っている一人の男が駆けてくる。


「んー?」


 あれはコンラートじゃん……

 王太子が自ら来たか。


「ジャス王国のコンラートである。使者殿、手紙を」


 コンラートがそう言ってきたのでコンラートに近づき、手紙を渡した。


「確かに…………オリヴィアは?」


 手紙を受けとったコンラートが聞いてくる。


「無事に救出した。そっちは?」

「こちらも父に説明してある。すぐに返事を出すだろう」

「そうか…………あ、剣も返すわ。ユルゲンを斬るのに役に立ったぞ」


 俺は腰の剣を鞘ごと抜き、コンラートに返す。


「やはりあれは敵だったか……」


 コンラートもさすがに気づいていたらしい。

 まあ、分かれる時に挨拶もしなかったからそうだろうなとは思っていた。


「そういうことだ。では、手紙を頼んだぞ。あと、リーシャとマリアもよろしく」

「わかった」


 コンラートは頷くと、自分の陣に戻っていったので俺も引き返し、エイミル陣に戻った。


お読み頂き、ありがとうございます。

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