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第163話 カトリナ


「カ、カトリナ! あんた、何をしているんだい!?」


 ラウラが動揺を隠しきれずに尋ねる。


「あー、ラウラさん、私は本物のカトリナさんではないですよ。本物のカトリナさんはユルゲンの屋敷に監禁されていますね。早く助けてあげてください」

「くっ! ギルドと提携する宿屋に偽物がいるとは……」

「ザルでしたよー。もうちょっと頑張った方が良いです」


 カトリナがフフっと笑う。


「カトリナ、話の邪魔だからラウラを挑発するな」

「ごめんねー」


 軽いな。

 いや、カトリナがこういう女だから合わせているだけか。


「お前の顔や姿を見ると、殺意が薄れていくな」

「ふふっ。本当に私がお好きなんですねー。殿下の好みがよくわかります…………ところで、なんでわかったんです?」


 カトリナが営業スマイルを絶やさずに聞いてくる。


「今回の事態を引き起こした奴は事情を知りすぎていた。オリヴィアとコンラートの情事、俺達がエーデルタルトの王族であること、そして、オリヴィアが俺達に手紙を託したこと……今回の犯人が外部の者だろうが、内部の者だろうが知りすぎている。だがな、一人だけ知っている奴がいる。あの時に俺達の会話を扉越しに盗み聞きしていたお前だ」


 消去法でこいつしかいない。


「あははー。盗み聞きしてたの知っていたんだ! でも、それだけ? このおっさんも知っているかもしれないじゃん」


 カトリナがユルゲンをバカにしたような顔で見る。


「いや、そいつは手紙のことを知ることはできん。それどころか多分、オリヴィアがコンラートと繋がっていることすら知らんな」

「殿下って本当に賢いんですねー。すごいです」

「それとお前、ラウラとオリヴィアが来た時に俺達を起こしただろ。あんな夜更けに貴族を起こすなど万死に値するぞ」

「それはー、起こさないとマズい相手が来たって言ったじゃないですかー」


 カトリナがすっとぼける。


「起こさないといけない相手って誰だ? ラウラか? こいつがどんな高ランクだろうが、俺達を起こすほどの人間ではないぞ」


 Bランクだろうが、元Aランクだろうが、庶民だ。


「違いますよー。もちろん、オリヴィア様のことです。王女様ですよ?」

「外套を着て、フードを被っていた者を見て、よくオリヴィアとわかったな?」


 体格的に女だということは予想がつくが、顔も見えないのにわかるわけがない。


「だって、ラウラさんが一緒にいるんですよ? ちょっと考えればわかるじゃないですか」

「俺にはわからん。なんでだ?」

「えー。だって、ラウラさんってオリヴィア様の家庭教師でしょ? わかりますよー」


 ほら、墓穴を掘った。


「残念ながらそれを知っている人間はギルドの者と城に務めている者だけなんだよ。それなのに何故、一宿屋の娘のお前が知っている?」

「………………チッ。ちゃんと調べるべきでしたか」


 カトリナから笑みが消えた。


「お前は知りすぎだ。だからミスをする」

「ふふっ、言い訳をすると、他にやることがあって、時間がなかったんですよ。それなのにこのバカがあれこれうるさくてねー」


 まあ、そんな感じはする。

 どう見ても自分勝手な男だったし。


「完全にユルゲンは足手まといだったな」

「本当ですよー。もう嫌。やっぱりバカは嫌いです」

「ちゃんとした男を選べよ」

「そうですねー。殿下、私をもらってくれません? 今ならこの顔でしてあげますから」


 リーシャがいなくて良かったわ。


「本当の姿を見せない女は信用できんな。それに俺達を襲った時点で死罪だ」

「えー! それはちょっと異議ありです。私、何もしてなくないですか? ちょっと幻術をかけただけであとは警告しただけです。むしろ、攻撃したのはそっちでしょ。あのあたおか女は恐ろしい剣技で斬りかかってくるし、殿下は一人の私相手に対軍魔法を使ってくるし」


 そういやこいつ、逃げるだけで攻撃してこなかったな。


「幻術だけで死罪には十分だ」

「怖いなー。少しは許す心を持たないと立派な王様にはなれませんよ」


 なれんだろうし、そんな弱い王になる気もない。


「ふん。敵対の意志はないと?」

「そうですね。殿下、私はあなたの味方です」

「とてもそうは思えんが……」

「いえいえ、今は思えないでしょうが、近い将来、必ず、私を生かしておいて良かったと思います」


 こいつ、何かを知ってるな……


「教国の人間が俺の味方をするとは思えんぞ?」

「いえいえ、教国も一枚岩では…………ないんです」


 こいつが教国の人間であることが確定した。


「キャラに合わないことをするもんではないな。頭までカトリナになっているぞ」

「……よくわかりましたね。普通はテールって思うでしょ」

「テールは大国だ。こんな国はいらんし、もし、本当に手に入れようと思ったとしても、その場合は軍が北に向かった時点で動いている。戦争を知らない人間は考え方が甘いな」


 王が王都にいないなんて愚行を犯している今が開戦の絶好のチャンスなのだ。


「ですかー……戦争は専門ではないんですよー……」

「だろうな。さて、殺すか」


 俺は剣をカトリナに向ける。


「わ、わかりました。取引をしましょう」

「取引? 言ってみろ 俺は寛大なエーデルタルトの王族だから聞いてやらんこともないぞ」

「では、殿下、こんなところで油を売ってないでさっさとウォルターに行くべきです。カジノで遊ぶのもやめましょう」


 カジノもダメなのか?

 ちょっと遊ぶ気だったんだけど……


「なんでだ?」

「ウォルターに行けばわかります。これ以上は言えませんね。私は殿下の忠実なしもべですが、言えないものは言えません」


 いつの間にかしもべになっているし。


「ふーん……ゆっくり行くつもりだったが、急ぐか」

「そうしてください。それと私をご利用な時はいつでも呼んでください。ただ、夜伽を命じられる際は絶対にあのあたおか女にバレないようにお願いします」


 カトリナはそう言いながら姿が希薄になっていく。


「ふん。逃げようと思えば、いつでも逃げられたくせに」

「殿下は私と話すのがお好きなようでしたのでねー」

「チッ! まあいい。この国のことは俺が関わることでもないし、真犯人を捕まえるのも俺の仕事ではない」


 オリヴィアを救出しただけで十分だろう。


「そうですよ、そうですよ。いやー、殿下が寛大で良かった。そして、この女に化けて良かった。殿下って、顔さえ良ければ何でもいいんですね」

「いいから失せろ…………あー、待て。名前を聞いておこう」


 カトリナはこいつの名前ではない。


「私に名前なんかありませんよ。隠密にそういうものは不要です」

「カトリナと呼びたくないんだ。適当に考えろ」


 カトリナは宿屋の娘の名前であって、こいつのものではない。


「では、シルヴィとお呼びください」


 普通だな。

 もっとスカルみたいな名前を言うかと思ってた。

 しかし、シルヴィねー……すごく聞いたことがある名だ。


「本当に適当だな。もっと良い名にしろよ」

「もう使ってないですが、本名です……名付けたウチの親がすみません」


 名前なんかないって言ってたくせにあるんかい。


「良い名だと思うぞ」

「どうも…………ハァ……さようなら」


 カトリナ改めシルヴィはちょっと悲しい顔をしながら消えていった。


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