第160話 姫を救う王子役
「ユルゲン、あんたに話しておかないといけないことがある」
荷台に戻った婆さんがユルゲンに説明し始める。
「何でしょう?」
「まず、私はオリヴィア様の命でジャスに向かった」
「命? 何かあったんですか?」
「ああ、オリヴィア様がジャスのコンラート王子に手紙を送ったんだよ」
どこまで話す気だろ?
「手紙……」
「ああ。まあ、こちらの状況を書いた手紙だね」
さすがに恋仲云々は説明しないか。
「なるほど。それで?」
「ジャスでコンラート王子に会うことができた。そこで話を聞いたんだが、どうやらジャスでもエイミル軍と思わしき者に村が襲われたらしい」
「それは……まことですが?」
「少なくとも向こうは攻められたから軍を出したって認識だね。エイミルと一緒」
「きな臭いですな」
ユルゲンも気付いたようだ。
「そうだね。さらに言うと、私達がジャスに向かう途中で謎の魔術師に襲われた。幻術使いだよ」
「幻術……もしや、あの時の感覚は幻術か…………ラウラ殿、今回のことには第三者がいるのでは?」
「私もそう考えた。だから停戦を持ちかけてもらうために北に向かっていたんだよ」
「なるほど……確かにこの事は陛下の耳に入れた方が良いですな。ですが、ジャス側が応じるでしょうか?」
ジャス側からしたら罠に見えるかもしれないしな。
「客がいるって言っただろ。私達はコンラート王子をジャス王のもとに連れていく仕事を受けた」
「コンラート王子がいるのですか!?」
ユルゲンの驚いた声が聞こえてくる。
「ああ。あと、例のエーデルタルトの連中」
「……なるほど。そうなると、あとはオリヴィア様救出ですな」
「そうなるね。だけど、敵が幻術使いなら兵を率いるのはやめた方がいい。幻術で惑わされると逆に敵に回ることがある」
幻術は厄介だからなー。
「では、どうしますか? 姫様を見捨てることはできませんぞ」
「わかってる。私とロイド王子が救出に向かうからユルゲンもついてきてくれ」
「ロイド王子は大丈夫ですかな?」
それはどういう意味かな?
「問題ない。エーデルタルトは今回のことに関わっていない。それは私が保証する」
「そうですか……い、いえ、そうではなく、エーデルタルトの王子の身に何かあったらマズいでしょう」
俺の身を案じてくれているらしい。
「それも問題ない。超一流の魔術師だよ」
婆さん、良い奴。
「そうですか……わかりました。ならば急ぎましょう」
「そうだね……ちょっと待ってな」
婆さんがそう言うと、覗き込んできた。
「こんな感じでいいかい?」
「問題ない」
「あのー、もしかしなくても私達は歩きですかね?」
マリアが聞いてくる。
「ラウラしか馬車を動かせないんだからそうなるな」
もしかしたらユルゲンも動かせるかもしれないが、ユルゲンも救出組だ。
「えー……」
「ここから西に行くとウチの国の町がある。小さな町だが、馬車ぐらいはあるし、そこで馬車を借りて、御者を雇おうか」
マリアが不満を漏らすと、コンラートが提案してくる。
「大丈夫か?」
「私としても早く行きたいからね。適当に金貨を渡せば大丈夫」
まあ、任せるか。
「じゃあ、それで頼む。リーシャ、マリア、気を付けてな」
「気を付けることなんかないわよ。気を付けるのはむしろ、あなたね」
「殿下、無事に帰ってきてくださいね」
リーシャとマリアがそう言いながら馬車から降りる。
「わかってる。さっさと終わらせてウォルターに行こう。コンラート、頼んだぞ」
「ああ。そっちもね。それとこれを持っていけ」
コンラートはそう言うと、腰の剣を渡してくる。
「剣? 俺は魔術師だぞ」
「一応だ。エーデルタルトの人間なら使えるだろ。こっちは大丈夫だから持っておけ」
「わかった」
「よし、じゃあ、私達は行くよ」
コンラートも馬車を降りると、3人は西に向かって歩いていった。
俺はそれを見届けると、馬車から降り、ユルゲンがいる前方に回る。
「お前がオリヴィアの親衛隊というユルゲンか?」
俺を見て、直立不動になったユルゲンに尋ねる。
「はっ! この度はご協力に感謝します!」
ユルゲンが敬礼をしながら答えた。
「気にするな。それよりも馬車に乗れ。細かい話は動きながらしよう」
「そうですな。ラウラ殿、お願いします。疲れたらおっしゃってください。私も慣れてはいませんが、操縦できると思います」
「大丈夫だよ。いいから乗りな。さっさと出発しよう」
俺とユルゲンが馬車に乗り込むと、馬車が動き出す。
「ロイド王子、王子は今回のことをどう見ますか?」
馬車が動き出すと、ユルゲンが聞いてくる。
「お前らもジャスも戦う理由がないだろ。テールじゃないか?」
「やはりそう思われますか……」
「きっかけがお互いに村を襲ったって言ってたけど、そもそもお互いに村を襲うメリットがないしな」
得る物がまるでない。
ましてや、両国共にたいした物があるわけでもないのは両国共がわかっていることだ。
「そうですなー……うーむ、やはりまずは姫様を救い出し、なんとか停戦に持ち込まないといけませんな」
「そうだな。それとなんだが、エイミル王がオリヴィア王女を呼んだ理由って何だろうか?」
「さあ? しかし、かなり強い言葉ですぐに来るようと手紙に書かれていましたし、何か問題が起きたのでは?」
問題ねー。
普通ならここでオリヴィアとコンラートの仲がエイミル王の耳に入ったって思うんだが……
「それ、本当に王からの手紙か?」
「……偽手紙と? 姫様を外に誘い出すためのものとお考えか?」
「タイミング的にそう見える」
「ふーむ……しかし、手紙を送り届けてきた兵は確かに我が軍の者でしたし、手紙の封に使われた封緘印は王家のものでした」
本物、か?
「まあ、わかった。どちらにせよ、オリヴィア王女を救い出した後はエイミルの王のところに行くわけだからそこで真偽がわかるだろ」
「そうですな。早くお救いしなくては!」
お救いねー……
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