第016話 装備を整える
森を出た俺達はジャックを先頭にして村に向かった。
村に近づけば近づくほど、村のショボさが際立ってくる。
「ほら、あそこが入口だ。しゃべるなよ」
ジャックがそう言うと、確かに村への入口らしき門が見える。
まあ、門というか、ただのショボい木製の扉だ。
そして、そんな門の前には薄汚い男が1人で槍を持って立っていた。
「よう、ベック」
ジャックが手を上げて門番に話しかける。
「あ、ジャックさん。依頼は終わったんですか……って、誰です?」
「ああ、言ってなかったが、別の依頼があったんだよ。リリスの町の商人のガキが森に入ったから捜索してほしいってな。それでジャイアントベアの討伐ついでに回収してきた」
そういうことにするわけね。
「商人のガキ? なんでパニャの大森林なんかに?」
「ユニコーンを探しにいったんだと」
ユニコーン?
伝説の生き物じゃん。
いるのか?
「ユニコーン? そんなものいるわけないじゃないですか」
いないんかい……
「リリスではそういう噂が流行ってんだよ」
「バカだなー……しかし、よく無事でしたね?」
「実力はあるんだよ。じゃなきゃ、こんなバカはしない。通っていいか? 少し休ませてからリリスに送る」
「了解っす。どうぞ!」
門番はジャックの言うことをあっさり信じ、門を通してくれた。
「バカはあいつだろ。よくあんなホラを信じるな……」
俺は門番に聞こえない距離まで歩くと、ジャックに言う。
「お前らが田舎者をバカにするように田舎者も都会の人間をバカにするんだよ」
俺はそんなもんかねーと思いながら田舎者を見る。
「わ、私は思っていませんよ! 王都に憧れてましたし、都会の領地に嫁ぎたいと思ってました!」
「だってさ」
「女子は違うのかもな…………悪いが、女はわからん……そんなことより、まずは服屋と防具屋に行くぞ。まあ、同じところなんだがな」
こんな田舎村では店を兼ねているわな。
「先にギルドじゃないのか? 換金しないと金がないぞ」
「立て替えてやる。ギルドはギルドのネットワークがあるから余計な情報を入れない方が良い」
「ふーん、じゃあ、まあ、そうするか。俺はともかく、リーシャとマリアは人前に出したくない格好だしな」
服のあちこちに穴が開き、ボロボロだ。
微妙に煽情的だし、さっきの門番もちょっといやらしい目でリーシャとマリアを見ていた。
貞操観念がガチガチの2人には辛かっただろう。
というか、リーシャが首を刎ねなくて良かったわ。
「この村の人間には刺激が強いだろうな。生涯、お目にかかれない上玉だ」
まあ、絶世のリーシャと可愛らしいマリアだからな。
こんな田舎にはいないだろ。
「村娘の格好でもいいから着替えた方が良いな」
「そうだな…………あそこだ」
ジャックの目線の先には普通の家が見える。
「民家だろ」
「小さい村だし、客は皆、知り合いだから看板なんかいらないんだろ」
適当だなー。
俺達はジャックを先頭に服屋らしい民家に入っていった。
「…………いらっしゃい」
店に入ると、外観とは裏腹に内装は店っぽく、あちこちに武器や防具が置いてあった。
正直、予想以上に品ぞろえが良い。
そして、カウンターにはひげ面をした不愛想の男が座っている。
「店主、こいつらの服や装備を買いたいんだが、いいか?」
不愛想な店主は俺をじーっと見た後にリーシャとマリアをじろじろと見る。
正直、嫌な感じだ。
「…………ちょっと待ってろ」
おっさんは立ち上がると、店の奥に消えていった。
しばらく待っていると、おっさんが恰幅の良いおばさんを連れて戻ってくる。
「あらまあ! その格好はどうしたんだい!?」
おばさんがリーシャとマリアを見て驚く。
「遭難者だよ。悪いが、服を頼む」
俺達の代わりにジャックが説明した。
「そうなのかい!? 珍しいね! さあさあ、こっちにおいで!」
おばさんは2人のもとに行くと、腕を引っ張って奥へと入っていった。
「お前さんも行くかい?」
ジャックが笑いながら聞いてくる。
「女の買い物なんかに付き合えるか。ましてや、服選びは最悪だぞ」
ろくなことがない。
特に絶世の見た目と下水の性格の女は最悪。
「ふーん、意外だ。あの嬢ちゃんはあんまり自己主張するようには見えなかったんだが」
いや、自己主張の塊だよ。
しゃべるのを俺に任せてたからそう思うだけで下水の名は伊達ではない。
「あいつらのことはどうでもいい。それよりも俺も服が欲しいわ」
「まあ、お前さんもかなりボロボロだしな。店主、男物の服はあるか?」
ジャックが店主に聞く。
「ああ。どんなのがいい?」
どんなのって言われても服なんて何でもいいわ。
「安いやつでいいぞ。どうせ、女は高いのを買う」
「無駄金を使うなって言っても無駄か?」
ジャックが茶化しながら聞いてくる。
「女はうるせーんだよ」
特に貴族の女は……
父である陛下に教わったことで一番役に立ったことは女のこだわりには口を出すな、だ。
「大変だねー。俺は一生独り身でいいわ」
それはそれで寂しくないんだろうか?
いや、こいつには別の生きがいがあるんだ。
「安いやつで良いんだな? じゃあ、これでどうだ」
店主はカウンターの下から服を取り出し、カウンターに乗せる。
「それでいいわ。着替えてもいいか?」
「ああ」
俺は店主の許可を得たのでその場で服を脱ぎ、カウンターの上に置かれた服に着替え始める。
服は安物の布でできた服であり、その辺の平民が来ている服にしか見えない。
「まあ、似合うんじゃね?」
全然、嬉しくない。
「こんなもんでいいか?」
「後は外套がいるな。雨が降った時に必要だし、寝る時はそのままくるまればいい」
そう言われると必需品な気がする。
「じゃあ、それも買うか」
「店主、外套もくれ」
「安いやつな」
金はない。
「これでいいだろ。そこそこ良いやつだが、中古だし、安くしとく」
店主がまたもやカウンターの下から黒い外套を取り出し、カウンターに置いた。
「それでいいわ」
俺は外套を手に取ると、服の上に羽織った。
「おー! 冒険者に見えるぞ」
「うっさいわ」
嬉しくないっての。
「お前、武器はどうするんだ?」
「いらね。俺は魔術師だ」
剣が欲しいと言えば欲しいが、金がない。
「魔術師は杖だろ。買っとけ」
「たけーよ。俺は杖がなくても魔法を使えるし、いらん」
「いやー、買った方がいい。お前さんの嫁さんや2号さんを守る意味でも買った方がいい」
どうでもいいけど、マリアが2号さんになってる……
「なんでだ? 輩は無詠唱魔法で瞬殺してやるぞ」
「いらんトラブルはやめとけっての。杖を持っていると絡まれにくくなるから安物でもいいから持った方がいい」
「そうなのか?」
「ああ。お前さんが言ってた通り、冒険者なんてならず者だ。だからお前らみたいな初心者丸出しは絡まれやすい。ましてや、女連れ」
うーん、リーシャに絡んだ男の首が飛ぶ光景が見えるな……
あと、マリアが涙目で俺を盾にする光景。
「杖を持っているとトラブルを回避できるのか?」
「多少はな。剣なんかを使う奴っていうのは見た目で大体強さが想像つくだろ? でかけりゃ強い。だが、魔術師はそうじゃない。ガキだろうがヨボヨボのじいさんだろうが、杖を持ってりゃ得体のしれない魔術師だ。そういうのは絡まれにくい」
うーん、まあ、わからんでもない。
確かに屈強な戦士は見た目でわかるが、魔術師はわからない。
「しかし、安物の杖だとバレるだろ」
「魔術師じゃない奴には杖の良し悪しなんかわかんねーよ」
なるほどねー。
「じゃあ、そうするか。店主、安いやつでいいから杖もくれ」
「あそこにあるやつから選べ。全部、金貨3枚だ」
店主がそう言って指差した先には樽が置いてあり、杖が10個近く立てかけていた。
「ちゃんと管理しろよ…………」
俺は店の隅に行き、杖を1本、1本見ていく。
「これ、全部同じ値段かよ…………」
多分、店主は魔術師じゃないから杖のことを知らないのだろう。
だが、さすがに呆れる。
マジでピンキリだ。
「良いのがあったか?」
ジャックもこちらにやってきて聞いてくる。
「…………この店、大丈夫か? この杖、金貨3枚じゃすまないぞ。多分、3桁はいく」
俺は店主に聞こえないように言う。
「…………マジか。買え、買え。他にも良いのがあれば俺が買い取ってやる。後で大きな町で転売する」
杖を何本も持って動けないし、ジャックに買い取ってもらう方がいいか。
「…………これとこれ。あと、これだな。多分、二桁だ」
「…………さすがは本職のメイジだぜ。よし、買おう…………店主、この4本をくれ」
小声で話していたジャックが店主に告げた。
「4本もか?」
「魔術師様はうるさいんだよ」
「そんなもんか…………4本な。奥の連中と一緒に精算する」
「それでいい…………やったな」
店主に答えたジャックが俺の方を向き、サムズアップしてくる。
確かに儲かったが、この店、マジで大丈夫か?
わからないなら杖なんか仕入れるなよ。
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