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第159話 色々見えてきた


 俺達が馬車の中で待っていると、馬車が止まった。


「おー! やはりラウラ殿か!」


 荷台の方から男の声が聞こえてくる。


「ユルゲン、こんなところで何をしているんだい?」

「すまぬ。何者かに襲われて、姫様が攫われてしまった」


 やっぱりか。


「攫われたって……状況を詳しく説明しな」

「私達は陛下の命で北に向かうところだったのです」


 陛下の命?


「陛下がオリヴィア様に北に来いって言ったのかい?」

「さようです。大事な話があるからとかで……」


 大事な話ねー……


「ふーん……それで?」

「姫様はすぐに了承され、我ら親衛隊を率いて陛下のもとに向かわれました。ところが、姫様が途中で休憩したいと言われたのでサラスの町で休むことにしたのです」


 俺はユルゲンの話を聞いて、コンラートを見る。

 すると、コンラートが頷いた。


 サラスの町とやらがこいつらが密会していた町か……

 オリヴィアは王の命を聞いて、これでサラスに行けると思い、飛びついたんだな。


「つまりサラスで襲われたということかい?」

「いえ、サラスに行くまでの道中です。夜になったので野営をし、休むことにしたのですが、警護をしていたら急に視界がぼやけ、身体が動かなくなったのです。そして、気付いた時には姫様の姿はなく、部下もいませんでした」


 幻術か……

 俺達を襲ってきた時に使った魔法だな。


「魔法だね。親衛隊に魔法を使える者はいなかったのかい?」

「いえ、いたはずですが……」


 対処できるほどの魔術師ではなかったわけか。


「姫様はどこに?」

「馬車の跡が残っていました。方向的にはローンの村かと……」


 ローン?


「ローン……今は廃村だっけ?」

「ですな。ジャスの軍勢に襲われ、住めなくなったので生き残った住民は王都近くの村に退避しています」


 あー、襲われたっていう村ね。


「監禁場所としてはうってつけなわけだね」

「はい。私もそう思いました。おそらく、ジャス側の謀略でしょう」


 ジャス側ねー……

 ジャス側の犯行ならそんなエイミル側の廃村ではなく、自国に連れ帰ると思うけど……


「なるほどねー。あんたは何をしているんだい?」

「私は姫様を救わねばなりません。そのためにサラスに向かう途中でした。そうしていたらラウラ殿の馬車を見つけたのです」

「まあ、私もサラスに向かう途中だったね」


 両者ともにサラスに向かう途中だったから運良く会えたわけね。

 そういうこともあるだろう。


「おー! そうですか! 申し訳ございませんが、乗せてもらえないでしょうか? 急ぎ陛下に報告をし、サラスで兵を借りねばなりません」

「ちょっと待ちな。私も客を乗せている」

「客?」

「そこで待ってな」


 婆さんがそう言うと、馬車の中に入ってきた。


「プルーフ」


 婆さんが防音の魔法を使った。

 これは周囲に音が漏れないようにする魔法だ。

 俺がアムールで奴隷共を救う時に使った魔法である。


「どう思う?」


 婆さんはユルゲンに声が聞こえないようにすると、聞いてくる。


「とりあえず、ユルゲンが言う王に報告と兵士を借りるという案はない」

「なんでだい?」

「王に報告すれば、王が判断に迷い、軍が乱れる。一触即発の状況でこれはマズい。それに兵士を借りて救出って言うが、人質がいる状況でどうする気だよ。こういう場合は隠密行動で救出に向かうのが一番だ」

「私もそう思うよ。敵は幻術使いだし、兵がいくらいても無駄だろうからね」


 兵士なんか足手まといにしかならない。

 それどころか同士打ちすら起きるかもしれない。


「二手に分かれよう」

「二手?」

「まずだが、コンラートをこのまま連れていくのはない。コンラートにはジャス王のもとに行ってもらわなければならないからな」


 もとよりそのつもりだったし、ジャスの王太子がエイミル領をうろつくのは極力避けたい。


「それはそうだね。まずはそっちの説得が大事だ」

「だからコンラートをジャス王のもとに連れていく組とオリヴィアを救う組に分かれよう」

「まあ、それが一番だが、どう分かれる?」

「俺とお前とユルゲンがオリヴィア救出組。リーシャとマリアがコンラートと共にジャス王のもとに行く」


 これがベストだ。


「奥さんとわかれてもいいのかい?」

「仕方がない。お前は絶対に救出組に入ってもらわないといけないんだ」


 婆さんはオリヴィアの家庭教師でエイミル王の元仲間だから俺達とは信用が違う。


「私一人でもやるよ」


 一人ねー……


「相手は例の魔術師だ。お前でも対応できるだろうが、歳を考えな。腰がダメなんだろ」

「あー、本当に歳を取りたくないねー」

「だから俺も行く。そうなると、コンラートと一緒に行くのはリーシャとマリアだ」


 必然的にそうなってしまう。


「そっち側に敵が行く可能性は?」

「ない。今回の事態を引き起こしている奴は単独犯ではないだろうが、少数だ。そして、ジャス側にはいない」

「なんでそう思うんだい?」

「例の魔術師が動きすぎだから。俺達を襲った後にオリヴィアを襲っている。距離もあるのにいくらなんでも働きすぎ。それにジャスにいる間は一切、動きがなかった」


 いつでも俺達を襲えるタイミングはあった。

 だが、これまで動きがまるでなかったのはそういうことだろう。


「そうかい……あんたがそれでいいならいいさ。ユルゲンに話してくるよ」


 婆さんはそう言って、荷台に戻っていく。


「そういうわけだからお前らもそのつもりで」

「まあ、こうなると思っていたから別にいいわよ。あー、つまんない」


 リーシャは戦いがなくて不満そうだ。

 一方でマリアは不安そうな顔をしている。


「殿下ー……」

「マリア、絶対にリーシャから離れるなよ……コンラート、頼むぞ」


 俺は不安そうなマリアの頭を撫でながらコンラートを見る。


「わかってる。君の方もオリヴィアを頼むよ。本当は私が行きたいが、私だって自分の役割をわかっている」


 こいつは女関係以外はちゃんと王太子らしく物事を考えられるな……

 その女関係が致命的だけど。


お読み頂き、ありがとうございます。

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