第157話 北へ
俺達は北門を抜けると、西に向かって進んでいく。
すると、俺の身長を超える大きな岩が見えてきた。
「あれだ。あそこの近くで止まってくれ」
「はいよ」
馬車はさらに進んでいくと、岩の前で止まる。
「ひとまずは待機だ」
「それで何があったんだい?」
馬車が止まると、婆さんが聞いてくる。
「やはりジャス側にもエイミルと同じことが起きていた。そして、コンラートに手紙を渡したんだが、お前の教え子はコンラートと会うために国境の町に向かったんだとさ」
「え? オリヴィア様が?」
婆さんが驚く。
「他におらんだろ。手紙にそう書いてあったらしい。とにかく、コンラートと共にあいつらが密会してた町に向かう」
「なんてこったい…………言い出したら聞かない子だとは思っていたけど、ここまでとは……」
さすがに状況がわかっている婆さんはそれがどういうことになるのか理解し、俯いた。
「すでに殺されている可能性は?」
心無い女が空気を読まずに聞いてくる。
「多分、捕らえたとしても生かしてはいると思う。殺すにしてもジャス側がやったことにしないといけないからな。まあ、まだ無事という可能性も十分にある」
「それもそうね。とりあえずは無事を祈りましょう。それで、こんなところで待ち合わせている理由は?」
「ここに城からの抜け道があるんだと」
「抜け道……」
リーシャとマリアが不自然な大岩を見る。
「ちなみに、ウチの城の抜け道はとある貴族の屋敷に繋がっているぞ」
「そうなの? 当たり前だけど、知らなかったわ」
「言っていいんですかね?」
「お前らも王族予定だろうが。叔母上への誓いを忘れたか?」
誓ったのはマリアだけだけど。
「まあ、そうだけど……その貴族って信用できるの?」
リーシャがちょっと頬を染めながら聞いてきた。
「俺の婆さんの家だ」
「あー、イーストン公爵の……なるほど……チッ」
リーシャは納得したものの舌打ちをする。
まあ、同じ公爵家であるスミュール家とは仲が悪い家なのだ。
「しかし、他所の国の抜け道を知っても良いんですかねー?」
馬車から降りたマリアが岩を手でぽんぽんと叩きながら聞いてくる。
「らしいぞ。これで侵入し放題だ」
「ですねー」
「そんなことをしなくてもこんな町、簡単に落とせるでしょ」
まあね。
「とりあえず、今はコンラートが来るのを待とう。すぐには来ないと思うからしばらく待機な」
「わかった。おやすみ」
リーシャは馬車の中でころんと横になった。
そんなリーシャをマリアが呆れた目で見る。
「相変わらず、早い……」
リーシャはもう寝息を立てていた。
「ホントにな」
「この人、簡単に暗殺されそうです」
マリアが物騒なことを言う。
「こいつ、誰かが来たらすぐに起きるぞ。この前の襲撃の時は起きてすぐに剣を持ってテントの外に出ていったし」
あと、触ると起きる。
それが何の時かは言わないけど。
「戦士ですね。軍人さんになるべきです」
リーシャに軍を任せたらとんでもない軍隊ができそうだわ。
「あんたらも話してないで休みな。コンラート王子が来たらすぐに出発するからね。休める時に休むのも冒険者の心得だよ」
俺達は婆さんにそう言われたのでコンラートが来るまで休むことにした。
マリアは横になったものの、俺は寝る気にはなれなかったので2人に送る文の内容の整理をしながら時間が過ぎるのを待った。
そして、しばらく待っていると、大岩の後ろからコンラートが顔を出す。
「待たせたね」
コンラートが声をかけてくると、リーシャとマリアが起き上がった。
「宰相は撒いたか?」
「かなり問い詰められたけどね。明日また話すっていうことで寝室に逃げたよ」
明日、城はパニックだろうな。
「俺達に迷惑をかけないようにしろよ」
「大丈夫。書置きはしておいたから」
それなら誘拐と思われることはないか。
「乗れ。ラウラ、出発しよう」
「そうだね」
コンラートが馬車に乗り込むと、馬車が動き出した。
「コンラート、まずはお前らが落ち合う予定だった町に行ってみよう。どっちだ?」
まだ今回の事態を引き起こした犯人が単独犯の可能性もある。
その場合は襲撃犯が俺達の方に来ているのだからオリヴィアが無事ということも考えられるだろう。
「このまま北に行ってもらえばいい」
「北か……どのくらいで着く?」
「このまま行けば朝のうちには着くと思う」
「だそうだ」
俺は婆さんを見る。
「はいよ。ここからはいつ襲撃があってもおかしくない。注意しな」
「わかってる。とはいえ、コンラート、お前は寝ておけ」
「それは助かるけど、君は?」
「俺は夜更かしには慣れている。いつもだったし」
魔法の研究に熱が入り、寝ないことなんていくらでもあった。
メイドや執事に怒られたけど……
「私は寝る。おやすみ」
リーシャはまたもや横になった。
「マリア、お前も寝ておけ」
「え? でも……」
「いいから寝ろ」
というか、お前が起きててもどうしようもないだろ。
「はーい」
マリアはリーシャの隣で横になる。
「私への気遣いはないのかい?」
婆さんが不満そうに聞いてきた。
「この中で御者ができるのはお前だけだ。頑張れ」
「そんなに難しいもんじゃないし、教えようか?」
「俺は考え事があるから忙しいんだ」
リーシャとマリアへの文を考えないといけない。
「若いもんが揃いも揃って老人虐待か……世知辛いねー」
「お前、そうやって老人ごっこしていると、本当に身も心も婆さんになるぞ。魔法を使っても魔法に捕らわれるなって魔術師なら最初に習っただろ」
「よーし! 私、頑張るぞー!」
急にキャラを変えるな。
声色まで変えるな。
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