第015話 あいらぶ太陽
熊の肉や毛皮といった素材をジャックのカバンに収納すると、俺達は森を抜けるために出発した。
俺達はジャックから冒険者としての心得や知識を教えてもらいながら歩いている。
道中にゴブリンやウルフといったモンスターも出てきたが、すべて先頭を歩くジャックが鉈のような武器で払っただけで終わった。
「ジャックの武器って剣とか槍じゃなかった?」
リーシャがゴブリンを払ったばかりのジャックに聞く。
俺も冒険記や伝記を読んでいるが、そう記憶している。
「この森に出てくる程度のモンスターにそんな大層な武器は使わねーよ」
「ジャイアントベアも?」
「まあな。俺はドラゴンすら倒したドラゴンスレイヤーだぞ」
確かに冒険記にそういう話があった。
とある町を襲ったドラゴンを冒険者の仲間と協力して討伐した、と。
「すごいわねー。私とどっちが強い?」
リーシャが挑発っぽいことを言う。
「よしてくれ。俺はモンスター専門だし、あんたの剣は対人用だ。負けるとは言わんが、勝てるとも言えん。それに貴族の女子で、しかも、既婚者とは戦えない」
というか、そうなる前に俺が止める。
絶対にやめてほしい。
「傭兵みたいなことはしないのか?」
「そういう仕事もあるが、俺は絶対に受けない。ロクなことがないからな。それに子供達に人気の俺が戦争なんかに参加できるか」
確かにがっかりする気がする。
「傭兵の仕事は儲かるか?」
「時と場合による。だが、お前らは絶対に参加するな。身元がバレる可能性が高いし、女連れは絶対にダメだ。戦時中は皆、たがが外れる」
うーん、ないな。
「じゃあ、モンスター専門にしとくか」
「そうだな。お前らに採取や護衛ができるとも思えんし、それが一番安全で確実だ」
採取は知識がない。
護衛はわがままな依頼者だったら俺かリーシャのどちらかがキレそうだな。
温厚なマリアはともかく、俺もリーシャも我慢強い人間ではない。
「お前、知り合いに魔法のカバンにしてもらったって言ったな? 誰だ? 魔法を教えてもらいたいんだが」
「無理だ。同じ冒険者だが、どこにいるのかも知らないし、生きているのかもすら知らない。もう何年も会ってないからな」
「そういうもんか?」
魔法のカバンを作ってもらったってことは結構仲が良いと思うんだが……
「一ヶ所に留まる冒険者だったらそこに行けば会えるが、俺やあいつみたいな旅する冒険者は一度きりということが多い。あんたらも別れたら二度と会わないかもな」
そういうもんかねー?
「次に会ったら酒でも奢ってやるよ。金を持ってたらだけど」
悲しい王子になったもんだぜ。
「期待しないで待っておくよ。まあ、俺がくたばってるかもだけどな」
「伝説の冒険者が弱気なことを言うなよ」
「俺も歳だからな」
40歳を超えていると言ってたし、ベテランなんだろうな。
「引退しねーの?」
「もう少し冒険記を書きたい…………というか、完結が書けない。伝説の最後にふさわしい冒険を書きたいんだ」
冒険の目的が本になってるし。
「それでいいのか?」
「正直に言えば、残りの人生を何もせずに過ごせるだけの蓄えはあるんだ。後は俺の人生の楽しみだよ。子供達が楽しいと思う本を書きたい。さっきの嬢ちゃんみたいにサインをせがまれたいんだ」
思ったより、俗っぽい理由だった。
「俺らのことも書くか?」
「つまんねーよ。バカ貴族が狼を食ってたって書けば庶民にはウケるかもだが、貴族に睨まれる」
「国によって内容を変えろよ。ウチの国に出す時はテールの貴族って書いて、この国で出す時はエーデルタルトの貴族って書くんだ」
あいつら、アホだなーって笑うだろう。
まあ、当人である俺らは笑えんが。
「ふむ…………悪くないな。情勢が変わることがあるから貴族の話はやめた方が良いが、国や地方によって話の内容を変える案は良い」
そうだろう、そうだろう。
「良い本を出せよ。読むから」
「まさか貴族様から良い案を教えてもらうとはな……本当に人生は何があるかわからない……っと、ほら、森の出口が見えてきたぜ」
ジャックがそう言って、前を向くと、確かに森の先に明かりが見えている。
「ようやくだな……」
「今日はベッドで寝たいわ……」
「疲れましたー……」
俺達はゴールが見えると、疲れからかその場で立ち止まり、ほっとしたようにつぶやいた。
「お疲れさん。貴族様には辛かっただろうが、もうすぐだ」
ジャックがそう言って進んでいったので俺達も続く。
そして、森を抜けると、明るい草原が俺達を待っていた。
「おー!」
「広いっていいわねー」
「草原ですぅ! 太陽ですぅ! 風が気持ちいいです!」
俺達はテンションマックスで自然いっぱいの草原を満喫する。
森も自然いっぱいだが、暗いし、ちょっと怖いし、木は飽きたのだ。
「ほれ、あそこが例の村だ」
ジャックが苦笑しながら指差した方向には確かに集落が見えている。
「なるほど……村だな」
「ジャックが町と言わなかった理由がわかったわ。あれは村ね」
「私の実家より村ですー」
俺の目に映っているのは数十軒しかない建物とそんな建物を囲むショボい柵だ。
「ここは辺境もいいところだからな。とはいえ、間違っても村人にそんな態度をとるなよ。怒られるぞ」
ジャックが俺達に釘を刺してくる。
「そんなもんか? ド田舎はド田舎じゃん」
「住んでる当人達は良い気がしないだろ」
俺はそんなもんかねーと思いながら田舎をバカにされていたマリアを見る。
「ウチにはぶどうがあります! ロイドさん達が飲んでいたワインはウチの物です!」
ぶどう令嬢にはぶどうへの誇りがあるらしい。
「ふーん、まあ、気を付けるわ」
「そうしてくれ。変なトラブルは勘弁だぞ」
まあ、伝説の冒険者に従っておこう。
「わかった。お前らも気を付けろよ」
「そうね」
「私はそんなことはしません」
どうだか……
勝ったって顔に書いてあるぞ。
「あと、お前らは服をどうにかするまではしゃべるな。俺がしゃべる」
「うむ! よきにはからえ!」
「そういうのをやめろって言ってんだよ…………」
だから冗談だっての。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!