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第139話 かつての仲間


 俺達は2人が帰ると、もう一度、お風呂に入り、就寝した。

 そして、例によって駄々をこねるリーシャを無理やり起こし、朝食を食べるためにカトリナを呼ぶ。

 カトリナに朝食を頼むと、眠そうな顔をしたカトリナが朝食を持ってきた。


「眠そうだな」

「昨日は眠れませんでした」


 王女様がやってきて他国の王子と会っていたんだもんな。


「適当な時にでも寝ろよ」

「そうします……あのー、エーデルタルトの王子様って本当ですか?」

「本当。サインでもやろうか?」

「いらないです。エーデルタルトの時計台って本当に大きいんです?」


 しょうもないことを聞いてくるなー。


「大きいぞ。それだけだがな」

「へー。一度、見たかったんですよー」


 あんなもんをねー。


「この王都にはそういう観光名所はないのか?」

「ないです。王都だけでなく、この国には特別見るようなところがないんですよ」


 これは依頼がなくてもさっさとおさらばだな。


「ふーん、まあいい。昨日のことは誰にも言うなよ」

「言いませんし、言えませんよ。首が飛んじゃいそうです」

「お前、昨日の婆さんを知っているか?」

「ラウラさんですか? この国で活躍するBランク冒険者ですよ。元Aランクという噂もあるすごい人です」


 なるほどねー。

 レイルでバルバラが言っていたBランク冒険者こそがラウラか。


『無理だよ。Bランク冒険者が泊まっている。数日休んで、他国に行くんだとさ』


 俺がレイルでギルドの金で宿屋に泊まらせろと言ったらバルバラはこう返してきた。

 何がすごいって正直を美徳にするバルバラは本当に嘘を言っていないことだ。

 ただのおばちゃんではなく、ギルマスということだろう。


「参考になった。お礼にこの人参のソテーをやろう」

「私もあげる」

「私はサラダについているトマトをあげましょう」

「好き嫌いはダメですよー。ちゃんと食べましょう」


 やだ!




 ◆◇◆




 俺達は朝食を食べ終えると、準備をし、宿屋を出た。

 そして、婆さんと待ち合わせている東門に向かう。

 町を歩いていると、多くの人々とすれ違うが、皆、笑顔で戦争を感じることはない。


 俺達がそのまま歩いて東門に向かうと、門近くに見覚えのある馬車が置いてあり、婆さんが座って待っていた。


「来たかい……そっちの子は相変わらず朝に弱いんだね」


 婆さんが眠そうなリーシャを見る。


「昔からだ」


 遅刻の常習魔でメイドを困らせる令嬢。


「そうかい。まあ、乗りな。さっさと出発しよう」


 俺達が前回と同じように馬車に乗り込むと、馬車が動き出し、門を抜けた。

 そして、のどかな道を進んでいく。


「ラウラ、護衛料は出るか?」

「貴族らしい嫌味だねー。どうせ何も出やしないから別にいいだろ。タダで馬車に乗せてやっているんだ」


 まあいいか。

 それよりも……


「お前、Bランクなんだって?」

「カトリナの嬢ちゃんに聞いたかい? そうだよ」

「元Aランク?」

「何十年も前だけどね。第一線から退いたからBランクに落としてもらったんだよ」


 だいぶ前だな。


「なんで退いたんだ? それだけの魔力があるならAランクのままでいいじゃん」

「魔法は衰えてないよ。むしろ、年々冴えわたるくらいさ。問題は体力。仲間と山に登ったことがあったんだけど、腰をやってしまってね。自分の半分も生きていないガキにおぶられて戻った時に退くことを決めたよ」


 屈辱だなー。


「それからはこの国で活動か?」

「そうだね。適当にやるには良い国さ。見ればわかる通り、平地ばっかりで移動も楽だし」

「森に帰らないのか? エルフだろ」


 地元に帰るもんじゃないのかね?


「あいつら、嫌いなんだよ。傲慢でムカつく。それに比べて、この国の人は穏やかで差別もしてこないしねー。断然こっちがいいよ」

「エーデルタルトも差別はないぞ」

「あんたらの国は世界で一番の差別国家だよ。種族や人種じゃない。身分で差別する。封建国家すぎなんだ。だから他種族が近づかないんだよ」


 似たようなことを獣人族の連中も言ってたなー。


「別に身分は関係ないぞ。優秀な者が出世する」

「それだよ、それ。あんたらの国は強者しか認めない。それが強みなんだろうが、弱者はまず近づかないね」


 うーん、優しくしてやるか。

 弱者には税を納めるという大事な仕事があるし。


「どこに行っても評判が悪い理由がわかったわ」

「まあ、一番は……いや、これはいいか」


 イカレ女だろうな。

 下は4歳から上はこんなババアにすら嫉妬するんだもん。


「お前さ、空間魔法を使える?」

「使えるよ。それがどうした?」

「魔法のカバンを作って、誰かにあげたことはあるか?」

「あるよ。一度だけだけどね」


 ふーん。


「ジャックか?」

「よくわかったね」

「恩を忘れるなって、えらく強調してきたからな。あれはジャックの言葉だ」


 以前、ジャックに助けられた時も絶対に忘れるなよって強調してきた。


「あいつから何十年ぶりに手紙が来たよ」

「ジャックはどこにいるかわからないって言っていたが?」


 前にそう言っていた。


「ギルドに聞けばいいんだよ。普通は無理だが、ギルドだって私とあいつが元パーティーメンバーなことは知っているからね」


 同じパーティーだったのか。


「ふーん、おぶったのはジャックか?」

「違うよ。ジャックは俺は荷物を持たないといけないからって拒否した。私を背負ったのは別の男さ」


 そいつもAランクなんだろうなー。

 まあ、何十年も前の話らしいから今はどうかはわからない。


「それで手紙には何て書いてあったんだ?」

「助けてやれってさ。あんた、えらく気に入られてたね」

「そりゃ、引退後の職を保証してやったからな」

「…………なあ? あいつって、やっぱり密偵なのか?」


 知らなかったらしい。

 いや、勘付いてはいたが、確信がなかったって感じだ。


「そうだよ。本を書くついでみたいだ」

「ふーん、まあ、昔から本は書いていたからね。文字を教えてやったことを覚えているよ」


 こいつが教えたんか。

 多分、文字だけでなく、魔法も教えたんだろうな。


「一つ聞いていいか?」

「いいよ」

「ヤッホイ冒険記に出てくる仲間の若くて美人な魔法使いってお前?」

「そうだよ。そういう風に添削させた」


 えー……


「あの作品ってどこまで本当なんだ?」

「ほぼそのまんまだよ。私を変えさせたのはエルフって書いてほしくなかったからだ。あと、そっちの方がウケがいいよってアドバイスしたから」

「意外とまともなアドバイスだった」

「皆、応援してたんだよ。冒険記を書くなんてすごいじゃないか。しかも、本当に出して、それが売れに売れたんだからあいつは本当にすごい奴だよ」


 婆さんは昔を思い出すように笑い、しみじみと頷いた。


「…………婆さん、なんか死にそうだな」

「私の中のエーデルタルトの評価がまた落ちたよ」


 だって、そういう雰囲気だったもん。


本作の書籍1巻が今週の金曜日(3/8)に発売致します。

予約してもらえるとありがたいですが、店頭で見かけた際にはお手に取ってもらえると幸いです。(↓のリンク先に書影あり)


それと、発売を記念しまして本日から3/10まで毎日更新します。

そういうわけで明日は17時に更新します。


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヤッホイ冒険記って、響きがちょっとぬけた感じだけど、逆にそのほうが子供から大人まで読めるって感じが出て、いいのかなー。 ジャックはほんとにすごいヤツだ。
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