第134話 顔は好み
ギルドを出た俺達はアヒムに言われた通りに進み、宿屋に入る。
「いらっしゃいませ」
俺達が宿屋に入ると、何故かメイド服を着た若い女が出迎えてくれた。
「何故にメイド? 貴族でも泊まっているのか?」
それにしても俺達に声をかけるのはおかしい。
「あ、そういうコンセプトなんです。貴族気分を味わえる的な?」
くだらないと思うのは俺がいつもメイドに囲まれていた生活を送ってきたからだろうか?
「人気なのか?」
「はい。好評です」
マジか……
メイドなんてガミガミ言ううるさいのしか想像ができない。
何が良いんだ……
俺は町娘っぽい普通の女の方が良いのに。
「そうか。まあ、好評ならいい。しかし、スカートが短すぎんか?」
膝上までしかない。
正直、はしたない。
「好評なんです」
なんとなく客層がわかった気がする。
「理解した。メイド風にして、男に媚びるコンセプトだな」
「身もふたもないですけど、そうでーす。まあ、やってるのは私だけですけどね。あ、でも、いくらそういうコンセプトだからってそういうサービスはないですよ」
「サービス?」
「やめてください、ご主人様ー……的な」
こいつ、メイドや貴族を何だと思っているんだ……
メイドは売春婦じゃないし、貴族もメイドに手を出す奴なんて…………いや、いるかもしれんな。
男女のことだし、普通にあるだろう。
俺だって、子供心にメリッサのことが好きだったし。
「あっそ。そういうサービスはいらん。一泊泊まりたい。ギルドのアヒムの紹介だ」
「アヒムさん? お客さん、お偉いさん?」
「Aランク冒険者とは思わんのか?」
「どちらかというと、お貴族様な気がします」
わかるのかね?
さすがは似非とはいえ、メイドだ。
「まあ、そんなところだ」
「わかりました。では、料金は結構ですので、部屋に案内します。どうぞ、こちらへー」
俺はフランクなメイドだなーと思いながらも女についていく。
「お前、名前は?」
「カトリナです、ご主人様」
「そうか。夫婦の場合は旦那様と呼んだ方がウケると思うぞ」
「そうですか?」
「そういうもんだ」
多分?
殿下やロイド様としか呼ばれたことないけど、そっちの方がしっくりくる。
「へー……あ、こちらになります」
カトリナがそう言って、扉を開けたので部屋に入る。
部屋はそこまで広くはないが、高級感はあった。
「ふーん、まあまあだな」
「ありがとうございます。以前に泊まっていただいた貴族様にアドバイスをいただいたんです」
まあ、アドバイスを送ろうと思うのも頷ける。
カトリナは微妙に指摘したくなるメイドだ。
明るいし、悪気はなさそうなので文句を言うほどでもない微妙な塩梅。
俺達は部屋を眺めながらも備え付けのテーブルに座る。
「あ、お茶を淹れますねー」
カトリナがそう言いながらティーセットが置いてある棚に向かった。
「いらんぞ」
「いらないんですか?」
カトリナがこちらを振り向く。
「お茶は妻が淹れるものだ」
「え? そうなんですか? 以前も淹れてましたけど」
「国によって風習は異なるだけだから気にするな。俺達は遠くから来たんだよ」
「あ、そうなんですか。よかったー……粗相をしたのかと思いました」
粗相ねー。
「あんまり気にしないでいいぞ。多分、貴族は気にしないというか、それを求めていない。それに粗相というのならしゃべり方、歩き方、表情の作り方、どれも不合格だからな」
「え? 本当です?」
「貴族に仕えるっていうのはそういうもんだ。だからといって直す必要はないぞ。お前はメイド風で良いんだ」
こいつの一番の武器は愛嬌だろう。
それを捨てる必要はない。
「そうなんですかね? このままでいけます?」
「いける、いける。貴族には『こいつ、わかってねーなー』って思わせておけばいいんだ」
所詮は庶民がやることだ、って思うだろう。
「なるほどー」
「そうそう。そういうわけでお茶はいらんからワインを持ってこい。一番高いやつな。あ、もちろん、アヒムのツケで頼む」
「ツケですか?」
「宿代とまとめて請求しろ。何か言われたら世間知らずのエーデルタルトの傲慢貴族だったって言え」
「ハァ? わかりました。では、ワインを持ってきますねー」
カトリナが部屋を出ていった。
「従業員の質を保証するってこういうことね。まあ、男が好きそうな子だわ」
「汚らわしい売女の匂いがしますね」
そういうとこだぞ!
「ただの宿屋の娘に何を言っているんだ?」
「私、ああいう媚びる女が大嫌い」
「…………そうですねー」
媚びまくっている女が目を逸らしながら同意する。
「店員が客に媚びるのは当然だろうに」
「関係ないわ。敵ね、敵」
敵ばっかりじゃん。
「刃傷沙汰は勘弁しろよ」
「しないわよ。あー、ムカつく。ねえ、マリア、あなたもそう思うでしょ?」
「え? あ、はい……」
「何よ?」
リーシャがマリアを睨む。
「一昨日、媚び媚びだったなーっと……」
「一昨日? 何のことよ?」
「え?」
マリアが今度は俺を見る。
「一昨日、何かあったか?」
普通に馬車に乗って、何もなかったはずだが?
「あっ……なんでもないです。気のせいでした」
そうかね?
もしかしたら夢か幻でも見たのかもしれんな。
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