第131話 あー、恥ずかし
俺はリーシャの頭を膝の上に置き、頭を撫でている。
リーシャはそんな俺をトロンとした目で見上げていた。
「のどかね」
「そうだな」
平和な平原だ。
「ごめんなさい。本当に嬉しかったからお父様に返したのです。報告をする気ではなかったわ」
「いや、いいんだ。それが女子の憧れなことは知っているしな。それに俺はどうしてもお前が欲しかったんだ。誰にも渡す気はない」
「んもう! マリアが見てますよ」
「見てますよー」
マリアがこちらを見ずにまっすぐ平原を見ながら棒読みで言う。
「仲が良いのは良いことだよ」
婆さんが何か言っている。
「リーシャ、愛してる…………おい、ババア。お前、何かしただろ!」
何かがおかしい。
「わたくしもあなたのことが好き…………そういえば、なんか変な気がする」
だよなー。
「仲が良いのは良いことだよ」
ババアが同じことを言う。
「リーシャ、一生ついてきてくれるか?」
「もちろんです……」
あれー?
絶対に何か変な気がする。
「お前のすべては俺のもの……………ディスペル!」
「はい。わたくしはあなたのもの。すべてを捧げ……あれ?」
トロンとしていたリーシャの目に光が戻った。
「………………」
「………………」
俺、何を言った?
「コホン……夢ね。これは夢。ロイドがあんなことを言うわけないもの」
「おい、ババア。お前、魅了の魔法を使ったな……」
魅了魔法は禁術なはずだ。
「使ってないよ」
「嘘つけ! リーシャが10割増しに見えたわ!」
絶世が超絶世に見えた。
「そうよ! 私もロイドが絵本に出てくる白馬に乗った王子様に見えた」
実際、王子様だけどな。
「そんな危ない魔法を使うわけないだろ。使ったのは正直になる魔法だよ」
…………嘘だー。
「のどかだなー」
「そうねー」
俺とリーシャは遠くを見た。
「「…………マリア、あっ」」
俺とリーシャは同時に口を開き、顔を見合わせる。
リーシャは顔が真っ赤だった。
「仲良しですねー。私は何も見てませんし、何も聞いてませんよー。笑いをこらえてませんよー」
マリアはこっちを見ずにただただ空を見ている。
「リーシャ、愛してる」
俺はマリアの方を見て、さっき言ったセリフを言ってみる。
「………………」
マリアは反応しない。
だが、微妙に震えている気がする。
「私はあなたのもの」
リーシャもマリアを見ながらさっき言ったセリフをつぶやいた。
「…………ふっ、ふふふ……ひひ」
「面白いか?」
「そ、そんなことないです…………ふひっ」
めちゃくちゃ楽しそうだな。
「何が面白かった?」
「陰湿的な黒王子と下水が…………い、いえ、なんでもないです…………ふふふ」
「……頭を何発殴れば忘れるかしら?」
リーシャが無表情で聞いてくる。
「やめてください。死んじゃいます。もう笑いませんから……でも、ケンカしてた人が急にいちゃつきだしたら笑っちゃいますよ」
「あ、それだよ、それ! おい、ババア! 何をしてくれてんだ!?」
俺はババアに文句を言う。
「あんたらが護衛の仕事を無視して、痴話喧嘩をするからだろ。しかも、聞くに堪えない内容だったし」
その通りだけども!
「お前、ロクな死に方せんぞ」
「この歳まで生きたんだから十分だよ」
ああ言えばこう言うババアだ。
年の功ってやつかね?
「ふん。真面目にやってるわ。リーシャ、周囲に敵は?」
「いないわね。平和そのもの」
魔力も感じない。
「問題ない」
「そうかい……じゃあ、まあいいよ。平和なところだけど、仕事は忘れずにね」
「わかってる」
俺達は気を引き締め直し、護衛という名の馬車に揺られて座るだけの仕事をし続けた。
そして、特に何もなく進んでいき、辺りが茜色に染まり始める。
「ラウラ、そろそろ暗くなるぞー」
俺は荷台にいる婆さんに声をかける。
「そうだねー。今日はこの辺にしておくか」
婆さんがそう言うと、馬車が止まった。
「よいしょっと」
馬車が止まったので荷台から降り、腕を伸ばした。
リーシャとマリアも同じように身体を伸ばしている。
「すまんが、手を貸してくれんか? この歳になると、荷台から降りるのも一苦労だ」
婆さんがそう言うので荷台まで行くと、婆さんに手を貸し、荷台から降ろした。
「悪いねー……あー、ずっと座っていると腰が痛いわ」
明日、明後日もあるけど、大丈夫かね?
「マリア、回復魔法をかけてやれ」
「はーい」
マリアは婆さんのもとに行くと、回復魔法を使う。
「おー! ありがとうね。楽になったよ」
「いえいえー」
マリアは貢献できてうれしそうだ。
「ラウラ、寝床はどうするんだ?」
「私は馬車の中で寝るよ。寝る時になったら見張りはいらんから気配を消す魔法をかけておくれ」
自分でかければいいのに。
「わかった。とりあえずは飯だな」
「魚の塩漬けでも食べるかい?」
「商品じゃないのか?」
「多少なら食べても大丈夫だよ」
いいのかねー?
「まあ、お前がそれでいいならいい。どうやって食べるんだ?」
「そのまんまでもいけるけど、焼くと美味いよ。あの町の特産なんだよ」
「へー。じゃあ、準備するかね」
俺は近くに固形燃料を投げ、焚火を作った。
そして、網なんかを準備する。
その間にリーシャとマリアが俺達のテントを立ててくれていた。
「魚の塩漬けはあの町で食べてないな」
「まあ、基本的には保存食だからね。獲れたてが食べられるならそれが一番だよ」
「ふーん、準備できたぞ」
「じゃあ、置くよ」
婆さんは網に魚を置いていく。
すると、すぐに良い匂いがしてきた。
「良い匂いね」
「美味しそうですー」
テントを立て終えたリーシャとマリアも焚火の前にやってきた。
「軽く炙るだけでいいから好きに食べな。ワインもエールもないけどね」
俺は網の上の魚を取り、食べてみる。
すると、多少、塩っ気が強かったが、普通に美味かった。
「美味いが、酒が欲しい」
これ、酒と一緒に食べるやつだわ。
「そうね……ワインが欲しい」
「ですです」
「我慢しな。さすがに護衛の仕事中に飲むもんじゃないよ」
まあ、それはわかる。
それに護衛の仕事じゃなくても夜営の時に酒は飲まない。
「私は食べたら寝るから後は頼むよ」
「はいよ」
俺は夕食を食べ終えると、馬車に婆さんごと気配を消す魔法をかけ、獲れるかはわからないが、ウサギを獲る罠を仕掛けた。
そして、自分達のテントに入って、3人で横になる。
「……あの、なんで私が真ん中なんですか?」
今日は気分を変えて、リーシャ、マリア、俺の並びで横になることにした。
「いいじゃないの。たまには隣同士で寝ましょう」
「そうそう」
「…………昼間のことがあったから恥ずかしいんですね?」
うるさいなー。
「はよ、寝ろ」
明日も仕事なんだぞ!
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!