第130話 どっちが悪い?
オーク討伐の依頼を終えた翌日、朝早くに起きると、甘い声で『嫌だぁ、起きたくないぃー』ってごねていたリーシャを無理やり起こし、準備をさせる。
そして、朝食を食べ、宿屋を出ると、東門に向かった。
東門に着くと、数台の馬車が止まっており、商人や冒険者などの人が集まっていた。
俺達はその中でひときわ異彩を放つ老人を見る。
「あれ、子供を食べる魔女じゃない?」
「魔法屋にいそうなババアだな」
「いかにもですねー」
おそらく俺達の依頼人らしき杖を持った婆さんは真っ黒なローブを羽織り、フードで頭を隠していた。
どう見ても怪しい。
「魔力を感じるな……」
俺は婆さんを見て、感じたことをつぶやく。
「魔力? 商人でしょ」
「どう思う?」
「…………依頼を断る?」
どうしよう?
うーん、しかしなー。
「ジャックもギルドは信用しろって言ってたし、バルバラが俺らを騙すと思うか?」
正直が美徳って言ってたが、実際に嘘をつける人間ではない。
「それもそうね。まあ、行きましょう、なんだか怪しすぎて逆に問題ない気がしてきたわ」
「…………殿下の方が怪しいですしね」
「まあね」
え? 俺、そんなに怪しい?
あのババアよりかはマシだろ。
俺は納得いかないなーと思いながらも婆さんの元に向かう。
「ん? あんたらが護衛の冒険者かい?」
婆さんが近づいてきた俺達に気付き、聞いてくる。
「多分な。あんたがラウラか?」
「依頼主には様をつけな」
偏屈ババアみたい、
「残念ながらレディーを様付けする習慣はないのだ」
「なら仕方がないね!」
単純なババア。
「俺はロイド、こっちの金髪がリーシャでこっちの黒髪がマリアだ」
俺が紹介すると、リーシャとマリアが何も言わずに軽く頭を下げる。
「あんたら、偉そうだね。絶対にこういう仕事に向いてないよ」
「偉いんだよ。ラウラ、準備はいいか?」
「すごいね。一瞬で貴族様ってわかったよ……こっちの準備は終わっている。乗りな。さっさと出発しよう」
婆さんがそう言って、荷台に乗った。
「どう乗る?」
3人で荷台には乗れない。
「荷台に乗れるのはあと1人ね」
そうなると、2人は馬車の中か。
「俺か?」
「えー……ロイドがー?」
まさかと思うが、こいつ、婆さんに嫉妬してない?
「じゃあ、お前が乗るか?」
「いや、でも、こういう場合はロイドが乗るべきだし…………」
リーシャが悩みながら俺と婆さんを交互に見る。
「…………3人共、馬車の中に乗りな。何かあったら呼ぶから」
婆さんが呆れたようにそう指示してきた。
「悪いな、ラウラ。ウチのは嫉妬深いんだ。まあ、俺は魔力感知ができるし、リーシャは野生の勘で気配を察知できるから何かあったら対処する」
「いいよ。そんな若くて美人な女に嫉妬されるのは悪い気分じゃないしね。じゃあ、頼んだよ」
俺達は馬車の後ろに回り、乗り込む。
馬車の中は木箱がたくさん積まれていたが、俺達が座るスペースは十分にあった。
「乗ったかい?」
声が聞こえたと思ったら馬車の奥の方の帳が開き、婆さんが覗き込んでいた。
「乗った。王都まで頼む」
「完全にお客様気分だね…………あいよ」
婆さんが返事をすると、馬車がゆっくりと動き出した。
「良い感じですねー。私、この揺れは好きです。落ちても死にませんし」
「だなー。陸って素晴らしい」
「悲しいウチの旦那と2号さんだわ……」
リーシャが呆れる。
「この国は平地ばっかりでたいして揺れないから安心しな」
婆さんが声をかけてきた。
「お婆さん、どれくらいで着くの?」
リーシャが聞く。
「3日ってところかねー?」
「お婆さん、寝る時はテント? 見張りはいる? ウチの夫は気配を消せる魔法を使えるけど?」
こいつ、マジだ……
「…………お婆さんを連呼するんじゃないよ」
「すまんな、ラウラ。ウチのは嫉妬深いんだ」
「さっき聞いたよ。なんでこんな老婆に嫉妬するかねー?」
「してないわよ。ロイドは同じくらいの年齢が良いって言ってたもの。こんなお婆さんや4歳の子に色目を使ったりはしないわ」
…………4歳の子に触れるのはやめようよ。
「ヘレナは違うって。従妹だぞ」
「だから何? 従兄妹同士なんて普通じゃない」
貴族の結婚では普通だけども。
「そんなつもりでネックレスを送ったわけではない。4歳だぞ。女子には父親が最初に装飾品を贈る。お前だって知ってるだろ。トラヴィス殿が亡くなっていたから俺が代わりに贈ったんだ」
「そうね。私もお父様にもらったわ。13歳と245日で返したけど」
何してんだ、こいつ!
あー、国に帰っても義父殿に会いづらくなったわー。
スミュール夫人にはもっと会えない。
「お前はバカか!?」
「バカ!? わたくしは殿下がどうしてもと言うから!」
「言ってないわ! お前がいいよって言ったんだろ!」
「はぁ!? 殿下がわたくしをベッドに押し倒したからでしょうが! そこまでされて何故、断れましょうか!」
嫌だったら断れよ!
「ラウラさん、あの大きい山は何ですか?」
「あれはキリウ山脈と言って、パニャの大森林と同じでテールとこの国を分ける国境みたいなものだよ」
「へー……ちなみになんですけど、この夫婦はウチの国で一番性格が悪いんですよー」
「なんとなくわかるよ……」
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!