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第013話 身分を隠すって難しい


 俺達は熊を解体しているジャックから距離を取り、焚火で休んでいた。


「マリア、あなたはロイドの呼び方に注意しなさい」


 リーシャも気になったらしく、マリアに注意をする。


「す、すみません。ですが、難しくて…………私は貴族学校に入る際に皆様方に粗相がないように徹底した教育を受けましたので」


 田舎の貧乏男爵の令嬢だから不敬を買わないようにしたんだな。

 とはいえ、リーシャのことを下水と呼んでいる。

 まあ、そのくらい仲は良いのだ。


「わかるけど、頑張りなさい。テールの貴族の前で殿下なんて呼んだら最悪よ」

「は、はい。ロイド様、ロイド様…………」


 大丈夫かねー。


「マリア、リーシャにもだが、様付けもやめろ」

「え!? で、では、どうすれば!?」

「普通に呼び捨てにしろよ。あと敬語もやめろ」

「む、無理ですぅー。私は忠実なる臣下ですぅ……」


 忠実かどうかは微妙だが、小心者のマリアには難しいか。


「じゃあ、敬語でもいいから様付けはやめろ」


 俺らのことを偉い人間だと吹聴するようなもんだ。


「えっと、リーシャさんとロイドさん……ですか?」

「そんな感じ」

「まあ、いいんじゃない? そもそも同級生だし、そんなものでしょう」


 学校には身分を持ちこんではいけないという校則があった。

 じゃないと、俺やリーシャみたいな者が先生や先輩に逆らうことができるからだ。

 もっとも、程度があるが……


「リーシャさん、ロイドさん…………えへ、ロイドさんって呼ぶと、本当に……いえ、何でもないです、リーシャ様」


 少し顔を赤らめたマリアはリーシャの顔を見て、すぐに青ざめ、目を逸らした。


「リーシャ、お前は……普通にしゃべっているな」


 お嬢様しゃべりはしていない。


「私は切り替えができるからね」


 上級貴族は違うね。


「設定はどうしようか?」

「設定?」

「貴族という身分を隠すわけだし、旅の設定だよ」


 平民はあまり旅なんかしないだろう。

 しかも、女2人と男1人。


「それこそジャックのように冒険者でいいんじゃない? もしくは、マリアを前に出して、巡礼の聖職者とその御供」

「私を前に出す案は反対でーす」


 確かにマリアには無理だな。


「じゃあ、冒険者か…………冒険者ってどうやってなるんだ? 名乗ればいいのかね?」

「さあ? 後でジャックに聞いてみましょう」


 それがいいか。

 ちょうどいいのが目の前にいるわけだから活用しよう。


「それにしても、よりにもよって、テールに不時着するとはな……」

「墜落…………」

「仕方がないわよ。さっさとテールを出ましょう」

「そうだな」


 俺達は焚火をじっと見る。


「おーい、お前ら、飯は食うかー?」


 熊を解体しているジャックが聞いてきた。


「そういや、朝食を食べてないな」

「そうね」

「お腹が空きました」


 朝はいきなりの出来事で朝食を食べるという頭がなかったが、確かに腹は減っている。

 さすがに昨日の不味い狼肉だけでは足りないのだ。


「食べるー!」

「ちょっと待ってろー」


 どうやらジャックがご馳走してくれるらしい。

 あいつ、良い奴だな。

 いつか褒美をやろう。

 今は無理。


 俺達がその場で待っていると、ジャックが何かの肉の塊を持ってやってきた。


「なんだそれ?」


 俺はジャックが持ってきた肉の塊を指差しながら聞く。


「熊肉だよ。焼いて食う」


 えー……


「美味いのか? 昨日の狼肉は固いし、臭いしで最悪だったぞ」

「あー、狼は筋ばっかりだからな。煮込めばいいんだが、時間がかかる。あと、お前ら、血抜きはしたか?」


 血抜き?

 血を抜くの?


「してない。剣でぶっ刺したからそこから血が出てた程度だ。ほれ」


 俺はその辺に転がっている昨日の残骸を指差す。


「うーん、内臓は食べてないみたいだな? それは良かった。まあ、すぐに食うなら良いんだが、血抜きをしないと臭いし、すぐに傷むぞ」


 へー。


「知らんな」

「だろうな。これはちゃんと処理してあるから大丈夫だよ」


 ジャックはそう言うと、カバンから脚付きの網を取り出し、焚火の上に置いた。

 そして、香辛料っぽいものを振りかけると、俺らに木製の皿を配った。


「汚いな」

「これ、洗ってる?」

「あの、フォークとナイフは?」

「貴族様はホントね……我慢しろ。狼を食ったんだからそのくらい我慢できるだろ」


 まあ、我慢してやろう。


「ちなみに、何をかけたんだ?」

「塩と胡椒だよ」


 普通だな。


「そんなものを持っているんだな」

「冒険者の必需品だよ。たいして嵩張らないし、これをかければ大抵のものは食える」


 まあ、そんな気はする。


「なあ、冒険者ってどうやってなるんだ?」

「ん? 冒険者になるのか?」

「カモフラージュだな。貴族なことがバレたくない」

「うーん、冒険者を装ってもどう見ても平民には見えんが……どこぞの商家の坊ちゃんという設定でいけ」


 商家?

 商人ってことか?


「それでいけるか?」

「商人なら貴族との取引もあるし、言葉遣いや立ち振る舞いが多少、上流階級のものでも不思議ではない。良いところの商家のガキが家出したとかそんなんでいい」


 ふむふむ。


「こいつらはどうする? 女連れの冒険者とかいるのか?」

「普通にいる。護衛、侍女、どっかで意気投合した仲間、奴隷……好きな設定を選べ」

「うーん……」


 どうしよ?


「無理のない設定がいいぞ。変な設定にするとぼろが出やすくなる。お前らの関係は?」

「俺達は同級生だな。これは…………婚約者だ」


 俺はリーシャを指差す。


「妻です」


 いや、まだ結婚してないんだが……


「じゃあ、それでいい。多分、駆け落ちかなんかと思うだろ。冒険者はあまり過去を詮索しないし、適当に邪推する」


 じゃあ、いっか。


「マリアはどう見える?」

「教会の修道女」


 だよな……


「つるんでいて変ではないか?」

「うーん、微妙……まあ、その服はもう処分すべきだし、村で適当に服を買ったらただの仲間か2号さんでいいだろ」


 まあ、周りがどう思おうが関係ないか。

 要は貴族と思われなければいいのだ。


「それで冒険者ってどうやってなるんだ? 名乗ればいいのか?」

「いや、ギルドに登録がいる。お前らの国にもギルドがあるだろ」


 あったか?

 知らんな。


 俺はリーシャとマリアの顔を見るが、2人共、首を傾げており、知らないらしい。


「うーん、知らない」

「あー、エーデルタルトはギルドの数自体が少ないか…………大抵の国では集落に一つはギルドがある。そこで登録しろ」


 ギルドとやらに行けばいいのね。


「何かいるものはあるか? 身分を証明するものとか」

「そんなもんはない。もし、それが必要ならば、孤児で流民である俺は冒険者になれなかった」


 そういや、そんなことが本に書いてあったな。


「じゃあ、俺らがギルドに行けば、普通に登録できるわけだな?」

「そうなる。ついていってやろうか? どうせ、俺もジャイアントベアの報告をしないといけない」


 ふむふむ。

 そうするか。


「よきにはからえ」

「……隠す気あるか?」


 冗談だよ。


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