第129話 世間知らずのエーデルタルトの傲慢貴族っと……
オーク討伐依頼を終えた俺達は町に戻ると、昼を回っていたため、その辺の屋台に寄り、昼食を食べることにした。
「あの串肉を食べてみたい。私、ああいうのを食べたことがないし、昔、ロイドが自慢してたことを思い出した」
リーシャがとある屋台を見ながら言う。
「そんなことあったか?」
記憶にない。
「城を抜け出して、町で食べたって言ってた。そんなに美味くはなかったけど、外で食べると風情があって良いって言ってた」
記憶にない……記憶にないが、城を抜け出して屋台で肉を食べたことは覚えている。
まあ、美味かった。
「マリアはあるか?」
「小さい頃に地元のお祭りで食べたような気がします…………あ、妹にタックルされて落としたから食べてなかったです」
…………可哀想な子。
「じゃあ、買って食べよう」
俺達は屋台で串肉を買うと、近くのベンチに座り、町を眺めながら串肉を食べる。
「まあまあね」
「そうだな」
「最近、実は御二人が料理の良し悪しをわかってなくて、適当に言ってる気がしてきました」
まあ、そんなにグルメというわけではないから間違ってはいない。
ジャックも言っていたが、大抵の肉は塩コショウをかければ食えるのだ。
「それにしても、お父様やお母様には見せられない姿ね」
貴族令嬢が町中で串肉を頬張るのはさすがにダメだろうな。
「そもそも冒険自体がダメだな」
「それもそうね。お母様に狼を食べたって言ったら卒倒しそう」
上品なおばさんだったもんなー。
いつも無表情で怖かったけど。
そういやリーシャの仏頂面は母親に似たんだな。
「マリア、美味いか?」
「美味しいですね。ちなみに、ウチは多分、怒られません」
「緩いん?」
「さすがに王都ではやりませんけど、ウチの地元は田舎ですからねー。公の場でもない限り、いちいち目くじらは立てないですよ」
まあ、そんなもんかねー?
「じゃあ、俺も言うけど、ウチも怒られないぞ」
「いや、怒られるでしょ」
「さすがにダメですよ」
そんなこともない。
「うるさい侍女やガミガミ言う宰相は怒るだろうけど、陛下は怒らない。実際、王都で祭りがあった時に城を抜け出して、立ち食いした所を同じく城を抜け出していた陛下と目が合ったが、怒られなかった」
気まずかったー。
なんか若い女に声をかけてたし。
「そりゃ怒らないわね……というか、怒るに怒れない」
「陛下は何をしているんですか……」
「祭りくらいは楽しみたいだろ。ずっと城はきついって」
まあ、昔の話だ。
俺達は話をしながら串肉を食べ終えると、依頼の成果を報告するためにギルドに向かう。
ギルドに着くと、朝と同様に他の冒険者はおらず、バルバラが隣の若い受付嬢と話をしていた。
「終わったぞー」
俺は受付まで行き、バルバラに声をかける。
「どうだった?」
「22匹だな」
「ご苦労さん。魔石を出しな」
そう言われたのでカバンから魔石を取り出し、並べていく。
「めっちゃ臭かったわ」
「そうなんだよね。あれはウチの町が作ったもので他所に売ろうかと思ったんだけど、匂いがネックで無理だったんだ」
臭いもんなー。
運ぶのも嫌だわ。
「あれなんなん?」
「討伐したサハギンを粉々にして特殊な製法で乾燥させて固めたものだよ。ウチは海に面しているからサハギンが多くてねー。倒したサハギンは海に捨てて、魚のエサにするんだけど、海流の関係で海岸に流れてくるんだよ。それを狙ったオークが増えて困ってたから有効活用しようと思って開発したんだ」
なるほど。
上手く考えたものだ。
「効果はすごかったんだけどな。俺は魔術師だから問題ないけど、前衛は無理」
「地元の連中は鼻に詰め物をしているよ」
ウチの絶世さんの鼻に詰め物なんか詰められるか!
「頑張れとしか言えんな……ほら、魔石が22個だぞ」
「確かに。魔石は全部買取でいいかい?」
「頼むわ」
「じゃあ、討伐料が金貨22枚で魔石代が金貨11枚だ。ほら、合計の金貨33枚だよ」
バルバラが金貨を受付に置いたのでそれを取り、カバンに入れる。
「こんなもんでいいか?」
俺は後ろの2人に聞く。
「そうね。午後から買い物に行って、明日に出発しましょう」
「そうしましょう」
2人も異論はないようだ。
「バルバラ、そういうわけだから明日に出る」
「そうかい。気を付けてな。ちなみに、歩くつもりかい?」
「馬車は他の客が面倒だ」
「まあ、あんたらはトラブルを起こしそうだしね」
そこは認める。
「まあ、10日で着くんだろ? 地道に行くさ」
英気は養ったしな。
「ふーん、なあ、仕事をする気はないかい?」
「町を出るって言ってんだろ」
「ちょうどいいのがあるんだよ。明日、ウチから塩漬けの魚を王都に輸送するんだけど、護衛をしてくれないか? ちょっと人手が足りなくてねー。もちろん、依頼料は出すし、あんたらも馬車に乗れるからいいだろ」
悪くないな。
荷物の輸送なら商人はいるだろうが、他の人間はいないわけだし。
「いくら?」
「金貨5枚であとは歩合」
「歩合?」
「モンスターや盗賊が出たら上がる」
仕事をしたら上がるってことね。
「モンスターはわかるけど、盗賊も出るのか?」
「出ないよ。そもそもここから王都も平地だから盗賊が隠れるような場所がないんだ。もしもの話。もっと言えば、モンスターもあんまり出ない」
平和だねー。
「悪くないと思うが、どうする?」
リーシャとマリアにも確認しておかないといけない。
「うーん、バルバラさん、商人はどんな方です?」
マリアがバルバラに聞く。
「ラウラっていう婆さんだよ」
ババアかよ。
「それ、大丈夫か? 途中でポックリ逝かない?」
「元気な婆さんだから大丈夫だよ」
「うーん……まあ、男よりかはいいか……」
「男だったら勧めてないよ。あんたら、めんどくさいし」
悪かったな。
「ロイド、私は良いと思うわ。10日も歩くのは面倒だし、馬車に乗れてお金ももらえるなら渡りに船よ」
リーシャは賛成のようだ。
「私も賛成です。お婆さんなら問題ないですし、万が一の時は私がなんとかします」
マリアも賛成らしい。
「その万が一って婆さんが倒れた時か?」
「はい。ヒールで延命です」
良い護衛で良かったな、ラウラ婆さん。
「じゃあ、その依頼を受けるわ」
「わかった。ラウラ婆さんにはこちらから伝えておくから明日の早朝に東門に行ってくれ。まあ、東門に行けばどの馬車かはわかるだろ」
そりゃな。
「ん。世話になったな」
「こちらこそ。あ、これが例の紹介状。絶対に中身は見るなよ」
バルバラがそう言って、封筒を渡してくる。
「悪口書いてるだろ」
受け取った封筒をカバンにしまいながら言う。
「書いてないよ。私は正直を美徳にしているからね」
書いてんな……
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