第127話 やっぱり冒険者はお仕事だよね
3人で寝た俺達は朝になると、ショボい朝食を食べ、ギルドに向かう。
ギルドに着くと、俺達以外の冒険者はおらず、閑散としていた。
俺達は誰もいないギルドを見渡しながらバルバラのもとに向かう。
「やあ、おはよう」
バルバラが軽快に挨拶をしてきた。
「よう。他の冒険者はいないのか?」
この前も数人しかいなかったし、この町は冒険者が少ないのかね?
「ほとんどが海に行ってるよ。中には漁船に乗っている奴もいる。サハギンが多くてねー」
あー……港町だもんな。
「ギリスでも多いって聞いたな」
「やっぱりかい。今年は魚が豊作だからね。嬉しい悲鳴ってやつだよ。そういうわけで他の冒険者は朝早くから海だね」
「ふーん、まあ、他の冒険者なんかどうでもいいけどな」
むしろ、会いたくないレベル。
「……じゃあ、聞くなよ」
「世間話だ。さて、バルバラ、良い仕事を紹介してくれ」
「んー? 仕事はしないんじゃなかったのかい?」
バルバラが嫌なことを聞いてくる。
「事情が変わった」
「ふーん、お金が尽きたかい?」
「そんなことはない」
まだ金貨30枚もある。
「冒険者風の男女3人が豪遊しているって噂になってたけど、昨日出ていったんだって?」
「顧客情報を漏らすんじゃねーよ」
なんだ、あの宿?
これだから田舎は困る。
「まあ、ギルドは情報収集力が高いからねー。というか、あそこはウチが提携しているところだよ」
あー……アムールのクジラ亭みたいなところだったのか。
「お前に紹介してもらえば良かったわ。今からでも遅くないぞ」
ギルドの金で泊めてくれ。
「嫌だよ。伝える気はなかったけど、ルシルからの伝言その2。私のツケにして贅沢すんな! だってさ」
そんなこともあったね……
「もうしないから紹介しろ」
多分な。
「無理だよ。Bランク冒険者が泊まっている。数日休んで、他国に行くんだとさ」
「高ランクなら自分で出せよ」
「空いてなかったんだから仕方がないだろ」
あ、俺らが泊まっていたからだ。
「今は空いてるだろ」
「途中から金を出せなんて言えるわけないだろ。DランクはDランクらしく、普通の宿屋に泊まりな。というか、この町を出るんじゃなかったのかい?」
「それな。ちょっと軍資金を補充したいから仕事を紹介してくれ。良い感じのやつ。リリスのブレッドもアムールのルシルも紹介してくれた」
良い奴らだったわ。
「あー、なんかルシルにも気にかけてあげてって言われたね。世間知らずのエーデルタルトの傲慢貴族そのものだからって」
そういえば、ルシルは良い奴ではなかったな。
「もうそれでいいから良い感じの仕事をくれ。討伐が得意だぞ。あと、魔法系」
「はいはい。とりあえず、冒険者カードを出してよ」
俺達はそう言われたので冒険者カードを提出する。
「ふむふむ。確かに3人共、Dランクだね」
バルバラが眼鏡をかけ、俺達の冒険者カードを見る。
「別にランクにこだわらなくてもいいぞ。俺の魔法の前には敵などおらん」
「あー、思い出した。ルシルからの伝言その3。なんでギルド前にも火種を置いた!? だそうだよ」
確かに魔法陣を置いたな……
「ギルドへの疑いがかからないようにしただけだよ。どっちみち、建物が燃えない位置に置いたから大丈夫。そう伝えておいてくれ」
「了解。仕事だけど、サハギンの討伐は?」
えー、サハギンー?
「もう散々やった。俺のカバンの中には魔石がいっぱいあるぞ」
「へー、売らないのかい?」
「売るなら内陸部で売れってアドバイスを受けた」
「確かにそうだね。ジャスで売りな。あそこは海がないからここよりかは高く売れるよ」
おー! 叔母上は正しかったようだ。
「そうする。そういうわけでサハギンはパス。地元の冒険者に譲るよ」
「じゃあ、オークでも狩ってくれない? この町は海軍は強いんだけど、陸の兵士がからしきでねー」
オークか……
俺は見たことがないが、リーシャがリリスで狩りまくったはずだ。
危険はない。
「じゃあ、それで。いくら?」
「討伐料が1匹で金貨1枚。魔石は銀貨5枚で買い取るよ」
悪くはないか……
「リリスでもそんなんだったか?」
振り返ると、リーシャとマリアに聞く。
「そうね。そんなものだった気がするわ」
「ですね」
なるほどね。
「じゃあ、それでいい。どこに行けばいいんだ?」
「北門から出た先にある森だよ」
「北? パニャの大森林か? あそこは嫌だぞ」
ロクな思い出がない。
「パニャの大森林はもっと北だよ。そこの森はたいした広さじゃないし、森に入らなくても森から出てくるオークを狩ってもらえればいい」
「オークが森から出てくるのか?」
そう都合良くいくだろうか?
「そういう釣り方法があるんだよ。ほい、これ」
バルバラはそう言って、汚い袋を渡してくる。
「なんだこれ?」
「絶対にここで開けるんじゃないよ。中には特殊な乾燥エサが入っている。森の前に行ったらそのエサに水をかけな。そうすると匂いを発するからそれに釣られてオークが森から出てくる。それを狩るんだ」
へー、すごいな。
「良い方法を考えたなー」
森に入らずにオークを狩れるわけだ。
奇襲を受ける可能性がぐっと減って安心。
「まあね。でも、それは本当に臭いから気を付けなよ」
嫌だな、それ。
とはいえ、森に入るよりかはいいか。
「わかった。じゃあ、行ってくるわ」
「頼んだよ。上手くいったら王都のギルドへの紹介状を書いてあげるから」
紹介状ねー……
「世間知らずのエーデルタルトの傲慢貴族そのものが行くから気を付けて、か?」
「他に何て書くんだい?」
本当にそう書く気だったんかい。
紹介というより、忠告だろ。
「Aランクにふさわしいから最高の宿屋にタダで泊めさせろって書こうぜ」
「……世間知らずのエーデルタルトの傲慢貴族そのものじゃないか」
「じゃあ、安くて良い宿屋を紹介してあげて、でいいわ」
「……わかったよ」
頼むぞ。
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