第126話 元に戻る
このレイルの町に滞在して10日が経った。
俺達はこの町一番の宿屋を出て、普通の宿屋の3人部屋に移り、安いワインを飲んでいる。
「ふぅ……まあ、飲めなくはないな」
「そうね。テールのリリスで飲んだワインと同じくらいでしょう」
「ウチのワインの方が美味しいですけど、普通に飲めます」
……………………。
「こんな古臭い部屋でもお前達がいるだけで輝くんだからすごいな」
「そういうのを文に書きなさいって言ってるのよ」
「というか、普通の宿屋ですよ」
うん。
「いやー、甲斐性のない旦那ですまんな」
「別にいいわよ。森の中で寝泊まりした時よりかはずっとマシ」
「私は殿下と一緒ならどこでもいいです。というか、別に普通の宿ですって」
俺達は10日間の豪勢な暮らしで残金が金貨30枚まで減っていた……
あんなにあったのに……
「真面目な話、何が高かったんだ? 部屋の料金も1日で金貨30枚だっただろ」
10日で金貨300枚。
まだ余裕はあるはずだ。
「ワインや料理の追加でしょうねー」
「私の目利きではあのワインは1本で金貨20枚ってところですね」
なるほど……
1日でワインを2、3本は空けていたし、そら、金もなくなるわな。
「俺らって、エーデルタルトにいた時はマジで無駄金を使って生きてたんだなー」
「もう冒険者の感覚に戻っちゃったのね……あなたはエーデルタルトの王太子だったのよ。そりゃ贅沢してるでしょうよ」
お前も公爵令嬢だし、さぞ贅沢をしていたんだろう。
「私は普通ですけどね。まあ、ワインはウチのものを飲んでましたから贅沢でしょうが、料理は今日の肉料理と変わりません」
今日の夕食は肉とパンと塩味しかしないスープだけだった。
「料理ねー……多分、叔母上にもらった缶詰の方が美味いぞ」
「でしょうね」
「缶詰は貴重な旅用の食事ですから無駄に食べちゃダメですよ」
そうなんだよなー。
過酷な徒歩の旅で、しかも、テント暮らしなんだから食事くらいは良いものを食べたい。
「まあ、これまでの生活に戻っただけか……」
「一応、宝石があるけど?」
そういえば、怪盗スカルの隠れ家で見つけた宝石があったな……
「この町に宝石屋があるか?」
「なかったわね。あってもこの程度の町では目利きのできる商人がいるとは思えない」
「となると、売るなら道中にあるとかいう王都だな」
つまりそれまでは赤貧とは言わないが、普通よりちょっと良い程度の冒険者暮らし。
「あのー、この町を出る前に少しお仕事をしていきませんか? 金貨30枚は少なすぎる気がしますし」
マリアが提案してくる。
確かに見知らぬ地へ行くのにこの軍資金では心もとない。
「それもそうだな……バルバラも紹介してくれるって言ってたし、適当な討伐依頼でもこなしてから行くか」
「良いと思うわ。そろそろ身体を動かしたいし」
「じゃあ、そうしましょう!」
俺達は明日の予定を決めると安いワインを飲み干し、ベッドに行く。
ベッドは3つあり、もちろん別々に寝る。
だが、ベッドに入ると、何か寂しかった。
「ずっとお前らと寝てたからいざ一人になると変な気分になるな……」
なんだか嫌な予感がする。
嫌な夢を見そうな気がする。
というか、すでに飛空艇に乗っている自分が頭に浮かんでいる。
「殿下ー、まだ見てない夢が何故か頭に浮かんできましたー」
マリアも同じらしい。
「こっち来い。多少、狭いが、一緒に寝ようぜ」
俺は掛け布団を上げ、マリアを誘う。
すると、マリアが自分のベッドから降り、俺のベッドにやってきた。
「おい…………狭いぞ」
俺はベッドに入ってきたマリアとは逆の方を見る。
そこにはリーシャが寝ころんでいた。
「そういうのは良くないわ」
「いや、さすがに3人は無理だ。落ちるぞ」
一人用のベッドに3人はない。
マリアは小さいし、リーシャも小さい方だが、さすがに3人は無理だ。
「というか、すでに落ちそうでーす」
ベッドの端ギリギリにいるマリアが不満を漏らす。
「ふっ……飛空艇から落ちる前にベッドから落ちたら目が覚めて良いんじゃない?」
リーシャが笑った。
「一つも笑えませーん。リーシャ様はベッドから落ちても起きそうにないからそっちが落ちてくださーい」
「風邪を引くじゃない」
「だったら服を着たらどうです? というか、何故に裸族に戻っているんですか……」
ギリスでは屋敷には小さい子がいたし、船では叔母上の目があったからリーシャは裸族ではなかった。
だが、この町に着いてからはいつものように風呂上りはバスタオル1枚で過ごしている。
「ケンカすんな。リーシャ、マリア、一回どけ。ベッドをくっつけよう」
「なるほど。そうしましょう」
「殿下、賢い! さすがは魔術師様!」
俺達は一度、ベッドから降りると、リーシャがバスタオルを身体に巻くのを待つ。
そして、協力して3つのベッドをくっつけ、1つの大きなベッドにした。
「こんなもんだな」
俺達は大きなベッドができると、横になり、寝ることにする。
「これならベッドから落ちませんし、嫌な夢も見ることもなくて安心ですー」
マリアがそう言って、嬉しそうにくっついてくる。
「そうだな……リーシャ、どんな感じだ?」
「……………………」
横になったリーシャは目を閉じており、まったく反応しない。
「…………おい、こいつ、あんだけ騒いでおいて、もう寝やがったぞ」
どれだけ早いんだよ……
「さすがはいつでもどこでも寝れる人ですねー」
もはや病気なんじゃないかと心配になるわ。
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