第012話 伝説の冒険者
俺達が遭遇した冒険者は伝説の冒険者であるジャック・ヤッホイだった。
なお、マリアは知らないらしい。
「マリア、ジャック・ヤッホイを知らないの? 伝記とか冒険記とかの本を読まない?」
リーシャがマリアに聞く。
「読まないです」
「恋愛ものやBLばっか読んでないでそういうのも読みなさいよ。知見を広げなさい」
「いや、リーシャ様こそそういう本を読みましょうよ。令嬢は冒険記なんか読みません」
BLはともかく、多分、正しいのはマリアだと思う。
冒険記なんか読んでるから剣を振り回す令嬢になったのだろう。
「まあまあ。嬢ちゃん、良かったら暇な時にでも読んでくれや」
ジャックはそう言うと、背負っているカバンから本を取り出してマリアに渡す。
マリアは本を受け取ると、その場で読みだした。
「持ち歩いているのか?」
「こういう地道な宣伝が大事なんだ」
へー……
そんなものかね?
「しかし、伝説の冒険者がこんな所で何をしてんだ? 依頼って言っていたが……」
「この地には特別な依頼で来たんだがな、それとは別に近くの村でちょっとした依頼を受けたんだ」
近くの村?
「村があるのか?」
「ああ。あっちにまっすぐ行けば小さいが村がある。そこで依頼を受けたんだよ」
マジかよ!
やったぜー!
やっぱりこっちが正解だったな。
マリアが指差した方向に行かなくて良かったわ。
森の奥の方向じゃねーか。
「うむ、案内しろ」
「いや、依頼があるって言っただろ」
貴族に逆らう気か?
「依頼って?」
「この森にジャイアントベアが住みついたらしい。それの駆除だな」
「ジャイアントベア? でっかい熊か?」
「そうそう」
俺が倒したやつじゃないか?
「で、ロイド様が倒した熊ですね!」
本を読んでいたマリアが顔を上げる。
なお、殿下と言いかけたが、すぐに修正した。
「ああ、あれ……確かに熊にしては大きかったしね」
リーシャがうんうんと頷く。
「ジャイアントベアを倒した? あれはCランク以上のモンスターだぞ」
ランクは知らんが、俺はエーデルタルト一の魔術師だぞ。
まあ、魔術師自体がほとんどいないからなんだけど……
「魔法で倒したな。まあ、そういうわけだからお前の依頼は終わり。依頼料を横取りしないから村まで案内しろ」
ジャックの仕事は労せずに終わり。
俺達は村に行ける。
ウィンウィンだろう。
「まあ、待て。その話が本当なら村まで案内してやるが、確認がしたい。討伐の証も必要だ」
引き返すのは面倒だが、仕方がないか。
冒険者としても討伐の証明をしないと依頼料をもらえないのだろう。
詐欺とかあるし、当然と言えば当然だ。
「こっちだ。ついて来てくれ…………マリア、本は後にしろ」
俺は熊の死体がある所まで戻ることにし、本を読みふけっているマリアに言う。
「あ、はい。あの、ジャックさん、ここにサインを書いてくれません?」
「あいよ」
ハマッてるし……
まあ、ヤッホイ冒険記は面白いからな。
ジャックがマリアにあげた本にサインを書き終えると、俺達は来た道を引き返すことにした。
「しかし、おたくらだけか? 他の乗客や乗員はどうした?」
歩いていると、ジャックが聞いてくる。
「多分、死んだな。俺は魔法が使えるから自分とこいつらだけを守った」
ハイジャックしたから俺らしか乗ってないとは言えない。
「ふーん、まあ、まずは自分達の身だわな。ちなみに、おたくら、どういう関係だ?」
探りか?
「貴族を探らん方がいいぞ」
「別に探りじゃなくて世間話なんだがな…………言いたくないのなら別にいい。エーデルタルトの貴族はこえーから」
そうなの?
「怖いか?」
「あそこの国は古い封建制度が染みついた国だからな。まあ、他もたいして変わらんが、エーデルタルトは特にその傾向が強い。冒険者界隈ではあまり近づくなと評判なんだ」
そうなんだ……
よその国はあんまり知らんからな。
「お前は行ったことがあるのか?」
「一度あるが、すぐに帰ったな。貴族に睨まれるわ、賄賂を要求されるわで散々だった。そして、何より、軍隊が強いし、俺らの仕事があまりない」
そういえば、冒険者の話をあまり聞かないな。
少ないのかね?
「ふーん。そういう話を聞くと、外国に来たって感じがするな」
自国にしかいないとそういうのはわからない。
「あ、そうだ。おたくら、わかっていると思うが、村に着いたら身分は隠せよ。エーデルタルトの貴族とバレたらマズいぞ」
それはよくわかっている。
人質で済めばいい方だし。
「マリアはともかく、俺とリーシャは服をどうにかしたいな」
マリアは修道服だし、教会の人間にしか見えない。
「村で服や装備を買え。というか、おたくらの服はボロボロすぎてもう無理だろ。おじさん、目のやり場に困るよ。エーデルタルトの貴族女子は怖いし」
2人共、肌色が増えてきたしな。
しかし、エーデルタルトってうるさい貞操観念まで有名なんだな。
「金がないな」
「貴族様なのに?」
「墜落時にどっかいった」
本当は最初から持ってない。
「ふーん、じゃあ、ジャイアントベアの肉を解体して村で売ろう。おたくらが倒した獲物だし、俺は討伐料だけでいい。売った金で服や装備を整えな」
そうするか。
さすがに外国で徴発は難しい。
俺達がジャックから情報を収集しながら歩いていると、俺達が寝泊まりした洞窟前に到着した。
洞窟の前には変わらず、大きな熊の死体が横たわっている。
「おー! 本当に死んでるな。すげー!」
ジャックが倒れている熊に近づき、感嘆の声をあげる。
「で、ロイド様はすごい魔術師様なんです!」
マリアが誇らしげに言う。
しかし、こいつ、このままだといつか人前で殿下って言いそうだな……
後で徹底させるか。
「ほーん、じゃあ、解体していくわ。お前さん方はそこで休んでな」
ジャックはそう言って、カバンから何かの道具を出し、熊の解体を始める。
俺達は昨日、焚火をした場所に行き、火をつけ、休むことにした。
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