第011話 もう木は見飽きた
俺とマリアは洞窟に入ると、リーシャを起こし、洞窟を出た。
「この森って、こんな大きい熊もいるのね…………」
事情を聞いたリーシャが横たわる熊を見ながらつぶやく。
「寿命が縮んだわ」
「私もです」
起きたら目の前に熊がいるって怖すぎる。
「起こしてくれれば私が仕留めたのに」
とても頼もしいことを言っているが、俺の叫びと熊の咆哮を聞いて起きなかった奴に言われてもね……
「とにかく、出発しよう」
「そうね。ロイド、飛べる?」
「すまん。熊相手に魔法を使いすぎた」
フレア2発が大きかった。
連続で撃ったし、杖もなかったため、魔力消費が大きい。
「それは仕方がないわ。じゃあ、あっちね」
俺達はさっさとこの場から離れることにし、歩き出した。
「正直、あまり疲れが取れてません…………」
歩き出すと、マリアが愚痴をこぼした。
「俺もだよ。地面で寝るのはきついな」
「ですよね。軍の方はすごいです」
軍人は鎧を着たまま、地面に寝るという。
すごいわ。
「私達はロイドの保温魔法があったからまだ良い方でしょうね。普通に風邪を引くわよ」
今の時期はまだ寒いというわけではないが、夜はさすがに冷える。
「今日はベッドで寝たいです……」
「そのためには歩かないとね……」
「だなー」
俺達は愚痴や不満を言いながら歩き続ける。
しばらく歩いていると、リーシャが足を止め、俺達を手で制してきた。
「どうした?」
「伏せて」
リーシャがそう言って、伏せたため、俺とマリアもその場に伏せた。
「どうしたんだよ?」
俺はリーシャの行動が気になったため、再度、聞く。
「ロイド、遠見の魔法は使える?」
「ああ、あれはたいした魔力を使わんからな」
「じゃあ、ずっと先を見てみて」
俺はリーシャにそう言われたので立ち上がると、遠見の魔法を使い、進行方向を見る。
すると、一瞬、大きなカバンを背負った人間が見えた。
俺はすぐに伏せると、リーシャを見る。
「人だな」
「でしょう?」
「お前、よく見えたな」
遠すぎて魔法を使わんかったら見えなかった。
「私は目が良いからね。それより、どうする?」
どうする、か…………
「助けを求めたいが、野盗の可能性もあるか?」
「そうね。一人しか見えなかったけど、仲間がいるかもしれない。相手の実力もわからない。もし、私達より強かった場合、何をされるかわからないわ」
安全面を考えれば、スルーか、奇襲で徴発だな。
「普通に冒険者では? 助けを求めるべきですし、最悪でも情報を仕入れるべきだと思います」
マリアは助けを求めたいらしい。
払えるものはないが、森を抜ける最短ルートだけでも教えてほしいのは確かだ。
「俺一人ならそうするんだが…………」
見目麗しいリーシャとマリアがいるのがマズい。
野盗だろうが、冒険者だろうがこんなところで会わせたくはない。
「だったら私達はここにいるからロイドが一人で接触するのはどう?」
「殿下御一人ですか? それはマズいですよ。危険です!」
「それもそうね」
さて、どうするべきか…………
「――おい、お前ら、こんなところで何をしているんだ?」
急に声がした。
俺はすぐに立ち上がると、声がした方向に手を掲げる。
リーシャもまた、立ち上がり、剣を向けた。
「物騒だな、おい……」
その場にいたのはさっき遠見の魔法で見た男だった。
おいおい…………
かなりの距離があったはずだぞ。
いつの間に近づいてきたんだ?
「何者だ!」
「いや、それは俺のセリフ…………こっちはお前らを害す気はない。武器と手を下ろせ。これ以上は敵対行為になるぞ」
俺とリーシャはそう言われて、ゆっくりと剣と手を下ろした。
とはいえ、俺はいつでも魔法を放てるようにしてある。
「ふぅ……遭難者かと思って声をかけたらいきなり攻撃態勢に入られるとは思わなかったぜ」
謎の男が息を吐いた。
すると、リーシャが俺を見てくる。
俺が話せということらしい。
「お前は何者だ?」
「俺? しがない冒険者だよ。依頼のためにこの森に入ったんだが、急に魔力を感じたんで確かめに来たらあんたらがいた」
魔力を感じた?
俺の遠見の魔法か?
そんな微量な魔力を感じることができるのは相当の魔術師なはずだ。
「依頼と言ったな? 何の依頼だ?」
まさか、俺らの捜索ではないだろうな?
「まあまあ。落ち着けって。あんたらこそ何者だ? 冒険者には見えないし、ボロボロだが、貴族様と教会の修道女に見えるんだが…………」
さて、どうする?
正直に言うべきか、適当に誤魔化すか…………
「お前の言う通り、俺達は貴族だ。実は飛空艇に乗っていたのだが、空賊に襲われてな。この森に不時着したのだ」
まあ、これくらいは言ってもいいだろう。
というか、貴族ではないと言っても信じないだろうし。
「へー…………そりゃ、ツイてないなー……あ、悪いが、俺は下賤の生まれなんで敬語は使えない」
「いい。冒険者にそんなものは期待しない」
冒険者はいわゆる何でも屋だ。
モンスターを狩ったり、素材を採ってきたりする便利屋であり、時には傭兵として戦争に参加したりもする。
なので、身分や学力がいらないため、平民はもちろん、卑しい生まれや孤児の者も多い。
「悪いね。しかし、お貴族様がよくこんな森で生きられるな。ここはモンスターが出るんだが」
「白々しい……俺は魔法が使えるし、こっちは剣も使える。モンスターごときに後れはとらん」
俺の魔法を感知したわけだから知っているだろうに。
「へー……それはすごい。どこの国の貴族かは聞かないが、たいしたものだ」
「そんなことはどうでもいい。それよりもここはどこだ?」
「ここはパニャの大森林だな」
パニャの大森林、だと……!
「ひえ、パニャの大森林! テール……」
マリアが反応してしまった。
パニャの大森林はテール王国の領土にある森である。
そして、テール王国は俺達のエーデルタルトの敵国でもある。
「あちゃー、エーデルタルトの貴族様だったか……」
どうやらマリアの反応でバレたようだ。
殺すか…………
「やめろっての……あんたもそっちのお嬢様もすぐに戦闘態勢に入るな。マジでこっちは何もする気はねーから。俺みたいなしがない冒険者はお貴族様や国同士の争いに巻き込まれたくないんだ」
「どうだか…………」
冒険者なんか信用できない。
金のためなら何でもするような奴らだ。
「俺はそもそもこの国の出身じゃないし、興味ねーよ」
「どこの出身なんだ?」
「北東のエリアンだ」
エリアン……
雪と氷の国か……
「お前、名は何という?」
「俺はジャック。ジャック・ヤッホイだ」
ジャック・ヤッホイ?
……え!?
「ジャック・ヤッホイだと……?」
「え? ホント!? ヤッホイ冒険記のジャック・ヤッホイ!?」
リーシャが食いついた。
「そうだ。俺の本を知ってくれたか……」
「マジ? すげー! 伝説の冒険者じゃん!」
「握手、握手してください!」
「俺も、俺も!」
俺とリーシャはジャックに握手を求める。
「いや、誰です? 有名人?」
どうやらマリアは知らないらしい。
色恋の物語ばっかりじゃなくて、冒険記も読めっての。
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