第106話 そういや叔母上もヤッホイ冒険記を持っていた
俺達は海と森の中間くらいを歩くことにし、サハギン狩りを再開した。
といっても、リーシャが完全に飽きてしまったため、リーシャには索敵とマリアの護衛を任せ、サハギン狩りは主に俺の魔法でやることとなった。
その後もサハギンが森や海から現れているが、問題なく倒していっている。
先程の海からの奇襲は脅威ではあったが、海から離れていれば怖くないのだ。
サハギンは陸に上がればそんなに強くないし、俺の魔法で次々と倒し、魔石を回収していった。
「こんなもんかな……」
洞窟までの往復で30匹以上のサハギンを倒している。
討伐の依頼としては十分だろう。
「そうね。戻りましょう」
「そうしましょう。砂が気持ち悪いです」
俺達は仕事を終えることにし、まっすぐ船まで戻ることにした。
船がある桟橋近くまで戻ると、桟橋の前にはいくつものテントが設営され、それらを囲うような簡易な柵を兵士達が作っているところだった。
俺達はそんな兵士達を見守っている叔母上のもとに近づく。
「叔母上、戻りました」
「おー、ロイド。どうだった?」
叔母上が成果を聞いてくる。
「30匹以上は狩りましたよ」
「うーん、やはり多いな…………まあ、お疲れさん。ベースキャンプの設営ももうすぐで終わる」
「あんなもんでいいんですか?」
俺は簡易な柵を見ながら聞く。
「あんなもんでいい。サハギンは夜に活動しないモンスターなんだ。夜に来るとしたらゴブリンだし、ゴブリン相手にはあの程度で十分だ。まあ、見張りの兵士も配置するし、安心しろ」
サハギンも夜は寝ているのかな?
「ふーん、あ、成果を確認します?」
俺はカバンから魔石を取り出そうとする。
「いらん。別に嘘をついているとは思わんし、嘘をつく意味もないからな」
まあね。
「嘘なんかつきませんよ」
「そうだな。私達は嘘をつかない」
そうそう。
本当のことを言わないだけ。
それが貴族であり、王族だ。
「それと叔母上、例の洞窟も見ましたよ」
「例の洞窟? 隠れ家か?」
「ですね」
「ほーん、どうだった…………って、ブランドンだ」
俺と叔母上が話していると、ブランドンが森の方から一人で出てくるのが見えた。
ブランドンは周囲をキョロキョロと見渡していたが、俺達を見つけると、こちらに向かって歩いてくる。
「どうした、ブランドン?」
叔母上が近づいてきたブランドンに聞く。
「船長、森の中はサハギンだらけです」
あんなのがうじゃうじゃいるのかな?
キモいなー。
「うーん、町のギルドや漁師からサハギンが多いとかそういう報告はあるか?」
「例年より多いという報告は上がっていますが、それでもこの島のサハギンは多いです。もしかしたらこの島はサハギンの繁殖の島ではないでしょうか? 小さい個体もチラホラ見かけます」
サハギンってどうやって子供を産むんだろうか?
卵かね?
「これから爆発的に増えて、漁師の被害が大きくなる可能性があるな……」
「だと思います。ですので、もう少し、兵をお貸しください。本格的に討伐した方が良いかと…………」
「そうだな。海でのサハギンの討伐は面倒だし、今のうちに叩いておくか…………ブランドン、兵士をもう半分使って、サハギンを一掃しろ。こっちはもう柵を立てるだけだし、最小限でいい」
「かしこまりました…………そちらはどうでした?」
ブランドンが俺を見てくる。
「海岸沿いを歩いて30匹以上を討伐した」
「そんなに!」
ブランドンがびっくりしたようなリアクションをした。
「そんなに強くなかったからな。ただ、ほとんどのサハギンは森から出てきたし、森の中が住処だと思う」
海岸や海から出てきたサハギンもいたが、大抵は森から出てきていた。
「やはりですか…………」
ブランドンが何かを考え始める。
「あー、そうだ。話の途中だったが、洞窟はどうだったんだ?」
叔母上は考えだしたブランドンを放っておき、俺との話を再開した。
「ん? 洞窟?」
ブランドンが首を傾げる。
「海岸沿いを歩いていたら例の隠れ家っぽい洞窟を見つけたんだとさ」
叔母上が要領を得ないブランドンに説明した。
「え!? 隠れ家を見つけたんですか!?」
ブランドンが驚く。
「その話をしていた時にお前が来たんだ…………で? どうだったんだ?」
叔母上が俺に確認してきた。
「かなり大きな洞窟でしたね」
「ふーん、それかもな…………」
「ロイド殿、あっちの方向ですか?」
ブランドンが俺達が向かった方向の海岸を指差す。
「そうだな。そっちの方を海岸沿いに歩いていたら見つけた」
「多分、それですね。以前、私達が捜索した洞窟もあっちの方向の海岸沿いでしたし……中には入られましたか?」
「いや、暗かったし、どうせ明日行くわけだから引き返してきた」
「そうですか…………いや、それがいいでしょう。罠もありますし、この様子だと洞窟の中までサハギンがいるかもしれませんしね」
ふーん…………
「ブランドン、サハギンの討伐は今日中に終わるか?」
叔母上がブランドンに確認する。
「ある程度はできるでしょう。ですが、今後のことを考えると、明日、明後日くらいはサハギン討伐を継続させてもいいと思います。どうせ、私達が隠れ家の捜索をする際には兵士達もここで船を守っているだけですし、その間に討伐をさせるのはどうでしょう?」
「うん、それがいいな…………よし! ブランドン、適当に部隊を編成し、ローテーションを組ませて、サハギンを討伐しろ」
「はっ!」
ブランドンは敬礼をすると、森の方に駆けていった。
「働き者だなー」
俺は走っていくブランドンを眺めながらつぶやく。
「まあな。優秀な男だよ。優秀すぎるくらいだ…………」
「叔母上の人徳ですかね? あ、俺にも優秀な部下がいますよ」
俺は自慢することにした。
「嫌味か? 優秀な部下って何だ? お前にそんなもんはいないだろう」
「テールでスカウトしたんですよ。ジャック・ヤッホイっていうんです」
「ふーん…………は? ジャック・ヤッホイ? Aランクの? 冒険記の?」
叔母上が驚いた表情をする。
「ですねー。冒険記の最終巻を書いたら俺に仕えてくれるって」
「Aランクも耄碌したか? 泥船だろうに……」
誰が泥船だ!
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