第105話 海からこんにちは
俺達はその後も海岸沿いを歩いていた。
海岸を歩いていると、やはりサハギンに遭遇するが、絶世のリーシャの剣術と俺の魔法の前になすすべもなく倒れている。
「人っぽいサハギンを斬れるのは楽しいけど、弱すぎるのが不満ね」
リーシャがハッキリと人斬り発言をする。
「お前さー、人を斬るのがそんなに楽しいか?」
「ん? ……あ、モンスターね。人類の脅威を倒す正義の意識からよ」
おせーよ。
「昔、あなたは身体が柔らかいわねって言われて、身体を撫でられたことがあるんですけど、急に怖くなってきました……」
なんだその百合イベントは?
「肉の感触を確かめていたわけだな」
怖いねー。
「違うわよ。単純にそう思っただけ」
「お前も柔らかいだろ」
「………………」
リーシャが無言で頬を染める。
「何を思い出してるんですかねー、この淫乱は?」
「殿下がお前の――」
「言わなくていいです! あの時、聞いてましたし! ララさんと目が合いましたし!」
いや、聞くな。
あと、あいつも起きてたんかい……
「お前、そういうのに興味津々だよな」
こいつの方が淫乱な気がする。
「調査ですよ! 私は相手の好みに染まるタイプなんです!」
なんだそのタイプ……
「マリアの変態具合はどうでもいいけど、もしかして、あれが例の隠れ家じゃない?」
「私は変態じゃないです!」
マリアが抗議するが、リーシャは無視して、俺達の進行方向を指差している。
「確かにそれっぽいな……」
目の前には大きな洞窟が見えている。
「殿下ー、私は清楚ですよー。なんたって庶民の聖女ですから」
こいつ、本当にそのフレーズが好きだな……
「俺は淫乱のほうがいいな」
「あ、実は私、エッチなんです」
ダメだ、こいつ……
本当に相手に染まるタイプだ。
「アホなことを言ってないで洞窟を見てみるぞ」
「そうね」
「というか、大きすぎじゃないです?」
確かに大きい。
俺達が乗ってきた大型船が入りそうな大きさだ。
「覗いてみるか…………」
俺達は洞窟まで歩いていくと、中を覗いてみる。
洞窟の中は広く、地面は途中までは砂浜と同じ砂だが、少し先は岩盤に変わっていた。
だが、その先は暗くて見えない。
「先が見えないわね…………」
「真っ暗ですー」
うーん、これだけ広くて暗いのはちょっと怖いな。
「ロイド、どうする?」
リーシャが聞いてくる。
「明日、行くわけだしなー……叔母上とブランドンと一緒に行った方がいいだろ」
「そうね……道案内のブランドンがいないと不安だし」
罠があるらしいしなー。
「引き返しますか?」
マリアが俺を見上げながら聞いてくる。
「そうだな……引き返してサハギン狩りを再開しよう」
「そうね。私はそっちの方が良いわ」
お前はそうだろうよ。
俺達は船まで引き返すことにし、再度、砂浜を歩きだす。
すると、やはりサハギンが森から現れてきたため、リーシャが突っ込んでいき、一刀両断で瞬殺した。
「さすがに飽きてきた」
サハギンを一撃で倒したリーシャは剣の血を振って落とすと、決めゼリフもかっこつけもせずに剣を鞘に納め、戻ってくる。
「サハギンは工夫もなく突っ込んでくるだけだからなー」
特別、足が速いわけでもないし、力が強いわけでもない。
「ゴブリンと変わらないわね」
さすがに子供サイズしかないゴブリンよりかは強いと思うが、リーシャからしたらたいして変わらないのだろう。
「飽きたなら休んでいいぞ。あとは俺の魔法でやるから」
俺はそう言うと、リーシャが倒したサハギンを解体するために森の方に行く。
そして、腰を下ろし、魔石を取り出すためにナイフを取り出した。
「解体も慣れたもんだなー……」
俺は自分も蛮族の王子様だなーと思いながらサハギンの胴体にナイフを滑らせる。
「――ロイド!!」
「ん?」
俺はリーシャの叫び声に反応し、後ろを振り向く。
すると、海の方から5匹のサハギンが顔を出していた。
「リーシャ! マリアを連れて、こっちに来い!」
俺がそう指示をすると、リーシャがマリアを脇に抱え、こっちに走ってくる。
それと同時に顔を出していたサハギン達が勢いよく、海から砂浜に飛び出してきた。
サハギン達は背を向けるリーシャに狙いを定めたらしく、一斉に襲いかかる。
「リーシャ様ー! 来てます! 来てます!」
リーシャに抱えられたマリアが涙声で叫ぶ。
「チッ! リーシャ! 伏せろ!」
俺がそう指示をすると、リーシャがその場に伏せた。
「ブリザード!」
俺が魔法を放つと、伏せたリーシャを襲おうとしていたサハギン達に吹雪が襲いかかる。
「寒いー!」
「夏から真冬にー!」
吹雪を浴びたサハギン達は徐々に動きが遅くなり、ついには動きが完全に停止する。
そして、足元から砕け、雪が積もる砂浜に崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
俺はサハギン達を倒すと、微妙に雪が積もっているリーシャとマリアのもとに行く。
「寒い」
「顔に砂で頭に雪ですー」
リーシャがマリアを抱えたまま伏せたため、マリアは顔面から砂浜に突っ込んでいた。
「火魔法よりかはいいだろ。お前らの美しい髪が燃えたらどうする」
風魔法も事故が怖いし、氷魔法ならちょっと寒いだけだ。
「そうですけど、寒いですー。しかも、服の中に砂が入って気持ち悪いですー」
「帰ったら風呂を入れてやるから入れ」
「そうします」
まあ、どうせ俺も風呂に入りたいしな。
海で手を洗っているし、魔法で汚れは取れるとはいえ、解体ばっかりで微妙に嫌な感じがする。
「それにしても海から襲ってくるのは脅威ね」
リーシャが立ち上がりながら言う。
「これがDランクの脅威だろう」
サハギンは陸だと雑魚だが、海は得意なんだろう。
実際、海から飛び出してきた勢いはすごかった。
「ちょっと海から離れて歩きましょう」
「そうだな…………海と森の中間くらいを歩こう」
俺とリーシャが頷いていると、立ち上がったマリアが服についた砂をはたき落とし始めた。
「それがいいですー。砂浜にダイブは嫌です」
「ほら、髪にもついているわよ」
リーシャがマリアの髪を手櫛ですく。
「リーシャ様は全然、砂がついてませんね」
「そうね」
リーシャは外套を羽織ってるからなー。
「一緒に砂浜にダイブしたのに不公平…………」
うーん、マリアってなんで不運な目に遭うのが似合うんだろ?
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