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第010話 おはよう♪


 俺達はこんがりと焼いた肉を頬張っていく。


「固いわね……」

「臭いな……」

「美味しくないですぅ……」


 うーん、味付けがないにしても不味い。


「この前食べたテリーヌが懐かしいわ」

「俺も鴨肉のローストが懐かしい」

「豪勢ですねー。私はパンと豆のスープだけでした」


 教会は清貧だからな。


「不味いが食えないことはない。我慢してさっさと森を抜けよう。町や集落があればまだまともなものが食えるだろ」

「それもそうね」

「お金がないのでは? いえ、徴発という名の略奪でしたね…………」


 そういう案もないわけではないが、外国だし、それは最終手段だろう。


「これを食べたら休みましょうか。そして、朝早くに起きて出発しましょう」

「そうだな」


 疲れたし、起きててもやることがないため、早めに寝た方が良い。


「あのー、そこの洞窟というか、穴で寝るんですか?」


 マリアが奥が見えない洞窟を見る。


「外よりかはマシだろ」

「殿下と同衾かー……」


 貞操観念がガチガチすぎなのも考えものだな。


「同衾ではないだろ。野宿だぞ」

「まあ、そうですよねー……ああ、経歴に傷がつく」


 ホント、めんどくさいわ。

 最初にこんな風習を考えたのは誰だよ。


「軍だって、こんなことはあるが、経歴に傷はつかんから安心しろ。最悪はリーシャに保証してもらえ」

「なるほど。じゃあ、我慢します。私だけ外は嫌ですしね」

「どうせ良いところに嫁げないマリアはどうでもいいけど、見張りはどうする?」


 リーシャが聞いてくるが、マリアがへこんだ。


「そこそこ魔力も戻ったし、気配を消す魔法をかけよう。俺らが見張りをできるとは思えん」


 多分、途中で寝る。


「それもそうね。正直、誰が見張りをしても信用できないし、結局寝られそうにないわ。だったら腹をくくって、皆で寝ましょう」


 まあ、そうなるな。

 マリアに任せてくださいって言われても、一切、信用できない。

 何度も言うが、俺らは温室育ちの王侯貴族様なのだ。


「そうだな。ハァ……腹も膨れたし、寝るか……」


 俺達は焚火を消し、洞窟に入ると、身体を横にする。


「日に日に寝床が悪くなるわね。昨日はぼろ宿で今日は地面」


 お嬢様のリーシャがぶつくさと文句を言う。


「しゃーないだろ。これ以上は下がらないと思おう」

「私、さすがに地面で寝たことがないわ。枕もないし」


 俺もないわ。


「我慢しろ」

「ロイド、腕枕してよ」

「腕がしびれるから嫌だ」

「ダメな男」


 うっさいわ。


「いちゃつかないでくれません? 私がみじめになるんで」


 マリアからクレームが来た。


「お前がリーシャに腕枕してやれよ」

「嫌です。サイズ感が逆です」


 まあ、マリアがリーシャに腕枕をしていたら笑うな。


「それもそうだな」

「ハァ……私もいつか誰かに腕枕をしてもらう日が来るんでしょうか?」

「ここで死ななきゃ来るかもな」

「絶対に生き延びよう!」


 そうしてくれ。


「…………すぅ」


 リーシャから寝息が聞こえてきた。


「もう寝やがった」

「相変わらず、寝入りが早い人ですねー」

「ホントにな。俺らも寝るぞ。さすがに疲れたわ」

「はい。おやすみなさい、殿下…………ん?」

「いいから寝ろ」


 俺らはしゃべるのをやめ、眠ることにした。

 こんなところで眠れるのかなと思ったが、疲れもあって、あっという間に意識が遠くなっていった。




 ◆◇◆




 俺は寝返りをうち、地面の固さが気になって、目が覚めた。

 正直、これまでに何度か起きているし、そのたびに何度も寝ていた。

 だが、今は微妙に明るくなっているし、朝だろうと思い、そろそろ起きることにした。


 そして、上半身を起こそうと思ったのだが、右隣にいるマリアがすでに上半身を起こしていることに気が付く。


「マリア、早い、な…………」


 俺はマリアに声をかけようと思ったのだが、マリアの様子がおかしいことに気が付いた。

 マリアは両目を見開き、完全に固まっている。

 そして、目から涙がこぼれていた。


「どうした、ん……だ」


 俺はマリアが見ている洞窟の入口の方を見ながら聞いたのだが、途中でマリアと同様に固まった。

 何故なら、目の前に大きな熊がいて、こちらを見ていたからだ。


「ギャーー!!」

「グゥオーー!!」


 俺と熊が同時に叫んだ。

 すると、熊が大きな口を開ける。


「――疾風よ!」


 俺はとっさに熊に向かって手をかざし、風魔法を放つ。

 すると、熊に風の衝撃が当たり、熊は洞窟の外に飛んでいった。


「マリア、リーシャを起こせ!」


 俺はマリアにそう言うと、立ち上がり、洞窟の外に出る。

 洞窟の外では俺の魔法を食らったはずの熊がこちらを見ていた。


「チッ! 効いてないか!」


 やはり杖がないと威力が落ちてしまう。


 熊は再び口を開けると、俺に向かって駆けてくる。


「死ね! フレア!」


 一撃必殺の上級魔法を放つと、火の塊が熊に向かって飛んでいった。

 だが、熊は見た目とは裏腹に俊敏な動きを見せ、俺の魔法を躱す。


「わかってるよ! エアカッター!」


 俺はすぐに第二撃の魔法を放った。

 今度の魔法はそこまでレベル高くないが、殺傷能力は十分な魔法だ。


 熊は一度躱したため、油断したのかはわからないが、今度は躱すことができず、俺が放ったエアカッターを受け、前のめりに倒れる。

 エアカッターが熊の右前足に当たり、右前足を切断したのだ。

 だが、それでも熊の闘争心は落ちないらしく、立ち上がろうとしていた。


「今度こそ死ね! フレア!」


 俺はもがいている熊の頭に向け、上級魔法であるフレアを放つ。

 前足を失った熊はこれを躱すことができず、頭に直撃し、爆発して倒れた。


「これで死んだだろ…………」


 俺は動かなくなった熊を見て、その場で腰を下ろす。


「で、で、殿下ー! ご無事ですかー!? もう洞窟から出ても大丈夫ですかー!?」


 後ろからマリアの声が聞こえてくる。


「もう大丈夫だ」


 俺はほっと胸を撫でおろした。


「お怪我はありませんか!?」


 俺が熊を見ながらほっとしていると、マリアが走ってやってくる。


「ケガはない。魔法で片付けた」

「さすがです、殿下!」

「お前、どういう状況だったんだ?」


 なんで熊がいるんだよ。


「わかりません。私も起きて、目の前を見たら熊がいたんで固まってました」

「もしかして、あの洞窟って熊の巣穴だったのか……」

「かもしれません」


 巣穴に戻ってきたわけだ。

 もし、俺が気配を消す魔法を使ってなかったら寝ている間に殺されていたのかもしれない。


「危機一髪だったな…………リーシャは?」

「あ、寝てます。全然、起きてくれません」


 あいつは寝入りが早いが、起きるのは遅いからな……

 学生時代も遅刻魔だった。


「起こすぞ。ここをさっさと離れた方が良い」

「わかりました!」


 俺とマリアはリーシャを起こすことにし、再び、洞窟に入っていった。


お読み頂き、ありがとうございます。

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[一言] 朝から熊とは贅沢な……。
[一言] >おやすみなさい、殿下…………ん? おや?おやおやおやぁ?んもー!殿下ったら素直じゃないですねー!
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