ワクワク洞窟探検!
英星たちは荒波家の家宝を求め、洞窟に潜入する!
「……あんなにぎゃんぎゃん泣いたの、赤ちゃんの頃以来かも」
ヌンに書かれた額の『アホ』の2文字を紫電に借りたハンカチで消しながら。
僕らは階段を下りた先の、薄暗い洞窟に足を踏み入れていた。
「英星にも赤ちゃんの頃ってあったんだ」
「そりゃあ最初からこんなに大きく生まれるわけないじゃん。神様だって成長するの」
「頭が全然成長してねえけどな」
「ぷっ……」
「ちょっとソラどういう意味? 紫電も笑わないの! 頭ぐらい成長してるもん!」
「洗濯板もどうにかした方がいいよな~♪」
「なっ……! ぼ、僕だって! このまま順調に発育したらボンキュッボンのイケイケな体形になるんだもん!」
「洗濯板? ボンキュッボン? 英星は男の子でしょ?」
「あぐっ! そ、そうだった! あはは」
危ない危ない、紫電を傷つけるところだった。しっかし……。
「紫電、洗濯板はともかく、ボンキュッボンの意味がその年で解るなんてマセすぎだぞ。さすがエロ本所持者」
あ、そうそう。それを言おうとしたんだよ。
「う、ううううるさいうるさい! ソラだって竜族のエロ本とか読んだことぐらいあるでしょ! それぐらいはしてるだろ!」
「いえいえお代官様ほどではございません」
「き――――――ッ! ていうか英星もなんでそんな言葉知ってるんだよっ!」
――僕に弾が飛んできたけど、もうほっとこう。
ホントこいつらうるせえ。洞窟の壁に声が反響して余計にうるさく感じる。
まあでも……お陰で気持ちも楽になって来たかな。
それにしてもジメジメしてるなあ。キノコでも生えてそう。
「あっ! 見て見て! 倒木にキノコが生えてるよ!」
「おっ! マジじゃん。結構たくさん生えてんな」
――ホントに生えてた!
「スマホで写真撮っとこうかなあ」
「おいしそう」
「ハハハ! 食うなよ英星」
「ふぇ……? ダメなの? 結構おいしいよ」
「………………」
「どしたの2人とも、青い顔して……?」
「わ――――――――――ッ!!」 「ウソだろ――――――――――ッ!?」
「大きな声出さないでよ! あんまり騒ぐとあげないから!」
「いらねーよ!!」
「英星! 吐き出して! 今すぐ!!」
「なんで? やだ! おいしいから絶対吐き出さない!」
口を閉じたままそっぽを向く。
「いいから吐き出して!」
紫電が上下の唇に指をかけてきた。
女の子になんてことするの! 口を固く閉じて必死に抵抗する。
「ふぎぎぎぎぎ……! 英星……! 開~け~な~さ~い~……っ!」
「お前は飼い主にオモチャを取られたくない犬か!」
「……ぶはああああああああ!」
ついに口をこじ開けられ、キノコを大量に吐き出してしまった。……もうお嫁に行けないかも。
「ま、まさか飲み込んでないよね?」
「……の、飲み込んだけど……結構……」
すると紫電が口の中に指を突っ込んできた。喉の奥まで突っ込まれる。
「むぐっ! や、やめふぇ! や、やめ……!」
―――
「ふぅ――――、これで全部出たな多分」
「一応この神界の薬草を飲ませとくか。……これで薬草は最後だぞ」
「うわあああああん! 苦しかったああああああ! 2人とも酷いいいいいい!」
「うるさい! お前恐らく死にかけたんだぞ!」
「なんで? あんなにおいしいのに!」
「……英星、今は他にすることなかった?」
「あ、そうだ! 紫電ちの家宝を探しにレッツゴー! ほら、早くしないと置いてくよ!」
「……ソラ、英星ってたまに疲れるよね」
「ああ。あいつはケージかどっかに入れといた方がいいかもしれん」
洞窟を進んでいると、だんだん太陽の光が差し込まなくなってきた。とたんに空気がひんやりとしてくる。
「しょうがないなあ」
ダルボワ文字の綴りを刻む。
「え、英星? こんなとこで魔法はヤバい……! 生き埋めになるうううううう!」
「黙らっしゃい!」
紫電に構わずスペルを発動させる。
僕が使ったのは、補助スペル《サーチライト》。指先に現れた小さな光球が、洞窟の壁面を優しく照らしだした。
「……え? そんな魔法あったんだ。……しかもなんかあったかい」
「攻撃するだけがスペルじゃないのよ。こういうスペルもあるの」
「いいなあ英星は魔法が使えてさ。ボクも使ってみたい! ねえねえ、教えて!」
「絶対無理。諦めな。そもそもスペルを魔法って呼ぶ時点でダメ」
「ゲームだったら魔法じゃん。神族って細かいところにこだわりすぎだよ」
「うぐ。ま、あんたにスペルが使えないことに変わりはないけどねー」
「……やってみなきゃ分かんないじゃん!」
紫電はそう言って、僕のポケットからヌンが落としていったメモをスッと取り出すと、集中してダルボワ文字の綴りを宙に刻む。……なんか綴りを刻む姿って傍から見たらただの中二病だなー。
普段僕もこんな風に見えていたのは少しショックだ。
眺めているこっちが惨めな気持ちになってくる。
「や――っ!」
紫電が痛すぎる声を出す。
これが2、3歳児だったらかわいかったんだろうな。
「……え?」
現れた風の刃によって切られた僕の前髪が、少しだけはらはらと舞い落ちる。そのまませり出している岩の塊にばしんと当たり、消えた。
「ウソ……使えた? やった! 使えた――――ッ!」
えっと……これは何かの間違いですよね?
「ばんざーい! ばんざ――いッ! 生まれて初めてだよ! 英星見た? ボク魔法使えた!」
「そんなあ! 神族だけの特技じゃなかったんか――い!」
落ち込む僕を尻目にますます喜ぶ紫電。紫電くんにはたまたま素養があったのでしょうか?
――ヌンの落としたスペルは風属性か。また何かの機会に僕も使ってみよう。
「紫電、とりあえず……オメデト」
「ありがとおおおおおお英星いいいいいい!」
放心状態の僕を紫電ががくがく揺すり、
「うるせえええええ!」
とソラにひっぱたかれていた。
いいぞ、もっとひっぱたけ。やっちまえ。
紫電もスペルが使えた!
次回もお楽しみに!