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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第9章》 いざ死神界へ!?
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レイチェル

デューク・フィレゾーが明かした英星えいせいの出生。

その衝撃の事実に英星は…………。

「あなたの本当の名前は……レイチェル・キルンベルガー…………。死神族の王、アクセル・キルンベルガー様の一人娘です…………!」




 その場にいる誰もが口から発する言葉を失った。


 キ、キルンベルガーの娘…………?


 馬鹿な。…………馬鹿な!!


 ウソだよね!? ウソ! ウソだ!!


 僕は川上英星かわかみえいせい

 主神・川上厳星げんせいの子!


 僕は……僕はお父様の娘!


「キルンベルガーの一人娘って……あんた女だったの…………?」


 いきが青い顔をしてく。


「ち、違うよ! 僕が女なワケ――――!」

「英星お姉さん! 胸を隠して!!」


 王児おうじ咄嗟とっさに僕の胸を指差す。


 濡れた僕の胸には、くっきりとスポブラが透けて見えていた。


「あ、お姉さんじゃなくておにい…………!」

「王児」



 言い直そうとする王児を止める。



「…………紫電しでん。いつ知ったの。僕が女だって」

「…………鉄友山てつゆうざんで……デュークから聞いた。最初は……そんな馬鹿なって……思ってたんだけど………………」


「僕……なんで紫電たちに女だって言わなかったか解る…………?」

「……………………」

「紫電。あんたが男の友達が欲しいって言ってたから。あんたのために。あんたのために。一生懸命に男を演じてきたのよ」


「英星――――」

「それを――知ってた? 知ってたの? 早く……っ早く言いなさいよ…………っ」


 しゃくり上げが抑えられなくなってきた。

 頭が滅茶苦茶になりそう。

 ――涙がとめどなく溢れる。


「姫。死神界へと来て頂けませんか」

「そうよ。姫!」



 虫唾むしずが走った。


 僕が今までどんな思いをして性別を偽ってきたか。

 誰も……誰も……何も言ってくれない!!


 そのうえ僕が死神族? はあ? 何を言っているの?


 僕は川上英星!

 僕は川上英星!!

 僕は川上英星!!!


 それ以上でも以下でもない!!


「ねえレイチェル姫~!」



 肩に手を置くクラリスに腥風せいふうが吹く。


 殺意に満ちた眼でクラリスを見た。



「ひっ!」



 クラリスの短い悲鳴。


 僕はクラリスが置いた右手首を握ると、そのまま握り潰した。



「ぎゃあああああああああああああああああうううううううううう!!」



「クラリス! いかん!!」


 デュークがそう叫んだような気がした。



「僕は川上英星だ!!! レイチェルなんかじゃない!!!」



 更に握り潰したクラリスの腕を胴体から引っこ抜く。華奢きゃしゃな腕はいとも簡単にぷちりと抜け、僕の手からだらしなくぶら下がった。

 クラリスマヌケおんなはその場に卒倒し、茜色あかねいろの海水が更に深紅しんくに染まっていく。



「あはははは! みんな青い顔をしてやがる!! 僕は川上英星!! 見習い神族の川上英星だよ! 神の慈悲で貴様ら全員八つ裂きにしてやるから覚悟しなぁっ!!」


「あなたは……死と殺戮、そして再生を司る女神、レイチェル・キルンベルガー様です! 誰か止めねば! 怒りと悲しみのあまり暴走しておられる!」

「だぁまれ死神風情がぁ!!」


 正拳突きでデュークの腹を貫く。

 下賤げせんな死神は僕の腕をみぞおちに吸い込んだのち、伸びた。


「英星ッ! そこまでだ!!」

「うるせえッ! 小賢こざかしい竜めぇっ!」


 てのひら灼熱しゃくねつの火球を創り出し、投げつける。

 地獄の炎が小竜の翼を焼いた。

 ちっ! 生意気にも致命傷を回避したか。


「きゃあああああああああ! え、英星の……おでこの紋章! 何あれ! 真っ赤よ!?」

「貴様もうるさい! 季節外れのひまわりが!!」


 開花期を間違えた愚かなひまわりの首根っこをひっつかみ、海に沈める。


「英星! いけない!!」


 紫電が駆けてきた。ひまわりを助けようと腕にみつくが、硬質化した僕の腕は紫電のエナメル質を弾き返す。


「がふっ……! 英星! 目を覚ましてよお!!」

「ぐああああああああああ!! 僕は神族だッ!!」


 粋は初めこそ手足をばしゃばしゃと動かし、獲れたての魚のように水しぶきを立てていたが、もはや力なく肢体をゆらゆらさせて沈むのみ。


「う、うわ……うわあああああああ!!」


 砂浜で凍り付いていた王児が思い出したように崩れる。

 その股下が濡れていた。

 へっ、こいつちびりやがったぞ。


「王児! かわいげのない貴様は僕が手足をもいで――――」

「英星!!」


 紫電が横っ飛びで抱きついてきた。


「ごめん! ごめんね!! つらいね! 悲しいね!! でも…………! ボクは優しい英星が好きだ!!!」





「…………は」


 僕は電池が切れたように膝から血の海にへたり込んだ。



 紫電が血の海に腰まで法衣を浸して僕を抱きしめる。


 少年の薄い胸板に身を預けて。僕は。


「ねぇ……僕に神様を返して…………! 僕の女の子を……返してよぉ…………!」


 その薄い胸板をただただ力なく叩くのだった。



―――



「粋! 気が付いたか!」


 お兄ちゃんの対応が早くて助かった。

 小さな竜の人工呼吸に粋は「ガホッ」と海水を吐き出し、苦しそうにしながらも意識を取り戻す。

 死神族――認めたくないけどすなわち同族・・のお2人さんは僕が再生の力で治療した。



「なんで……言ってくれなかったの」


 まだショックが収まらない僕を紫電がぎゅっと抱きしめる。


「ごめん。あまり混乱させたくなかったんだ。英星が使える再生の力はカース。おでこに輝くコウモリの紋章はキルンベルガーの一族に伝わる紋章だよ」


 僕は今回のMVPの胸に顔をうずめて泣き散らす。


 夕焼けの空を黒い鳥の群れが飛んでいた。



大混乱した英星だったが、なんとかみんな無事!

凄まじい死線でござった。


次回もお楽しみに!

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