死神族の青年
山頂から白煙が!
急げ! 英星!
――辺りに充満する白煙。
息を切らせて辿り着いた想い出の場所は、見るも無残な様相を呈していた。
「そんな…………!」
紫電が力なく呟く。
所々に残る炎がパチパチと音を立て、燻り……。
僕と紫電が出逢った森は、跡形もなく焼失していた。
「うそ…………!」
漆黒の焼け野原を前に、僕はただただ呆然と立ち尽くす。
「誰か――っ! 誰かいませんか――っ!」
「誰かいないか――ッ!」
足場の悪い中、紫電とソラが巻き込まれた人がいないか探し始めた。珍しくソラが空気を読んでいる。
でも――なんでだろう。なんでこんなに悲しいんだろう。
「ほら、英星も探して!」
「……あ、あぁ、……うん!」
紫電の叱咤で、僕は我に返った。人気のない山のなかとはいえ、これだけ広範囲が焼失しているのだ。人が巻き込まれた可能性は排除できない。排除できない以上今僕らがするべきことは、巻き込まれた可能性のある誰かの捜索活動だ。
「……助かった奴はいない。初めから誰もいなかったからな」
――何者。
「本当はお前らが標的になるはずだったんだけどな……運のいい奴らめ」
真っ白なスーツに身を包んだ長身白皙の青年が、すっかり炭化した木の枝の上に直立していた。やけに細身だ。『体脂肪』の『た』の字の最初の1画目もない。
――こいつがやったのか?
僕らが視界に彼を捉え、怒りを込めて睨めつける。
青年は枝から跳び立とうと身をかがめた――
「あ――――――――ッ!」
――瞬間に枝が真っ二つに折れ、情けない悲鳴とともに残り火が揺れる炭だらけの地面へとダイブした。因果応報とはまさにこのことだ。
これは……草としか言いようがない。
「あぢ――――――――ッ!!」
「なんか……忙しそうな人だね……」
紫電が哀れみの視線を向ける。
「うるへ――――ッ! お前らがなかなか来ないから枝の耐久力が下がったんだろうが!」
「あのさ、ある程度はしょうがないよ? 人間生きてりゃ失敗もするし、文句だって言いたくなる。でも、何でも環境のせいにする人って成長しないよ。母上が言ってたもん」
紫電のお母さんはなかなか優れた教育者かも知れない。
「黙れ黙れ! 俺のセリフにクソリプをつけるな! しかしおかしい。偵察のデススライムによる情報ではお前らはもう少し早くここを訪れるはずだったのだが何故……? 我がカースで一網打尽にする作戦がパアだ!」
迷彩柄の目深帽子をかぶったデススライムを青年がスーツの内側から取り出した。『偵察』と書かれたタスキをつけている。いやいや、逆に目立っちゃってるって。つーか、僕らはなんでこの目立つアホスライムに気付かなかったのか。
……しかし危ない。
コンビニ寄ったりしてなかったら死んでたんじゃん。
紫電の奢りに感謝。
「かーす? かーすってなあに?」
「呪いという意味だ」
相変わらずマイペースな質問をしているなあ。奇跡的に一命を取り留めたことに気付いているんだろうか。
「そして俺の名はヌン! 時を『少し』統べる死神族だ!」
「英星聞いた? 名前がヌンだって」
「うん、ダサいよね。親の顔が見てみたい」
「子の将来を考えてなかったんだろ。しかも時を『少し』統べるってなんだ」
「おんのれえええええ! この俺を3人で誹謗中傷したこと、後悔させてやろう!」
空間がぐにゃりと歪み――。
「なんか来るよ!」
そう叫ぶやいなや、少年は上半身だけ裸になった。
「……紫電?」
「なあに? って、えええええっ! なんでボクこんなカッコしてんの?」
「こっちが訊きたいわ――――――ッ!」
ソラが口から炎のブレスを吹いた。お前炎なんて吹けたんだな。
「あっ、熱っ! ちょっと待って! 炎はやめて!」
紫電はデニムパンツについた火をばしばし叩いて消しながら、両手で懸命に上半身を隠す。忙しそうだけど、その恥じらう姿はかなり萌える。
「ふふふ、秘技! 突っ込み誘い!」
ヌンがニヤリと笑う。その手には先ほどまで紫電が着ていたTシャツが握られていた。
「俺はさっきここを爆破した時、魔力をほとんど使ってしまった。しかし俺は時を『少し』統べる。ほんの少し時を止めた瞬間に服を脱がせ、お前らの同士討ちを狙ったのだ!」
「何よその陰湿な攻撃!」
「ひと思いに殴られた方がマシだよ!」
僕らが口々に叫ぶ。
「ええい! 俺は肉弾戦に自信がないのだ!」
――――内心、僕はかなり動揺していた。もしヌンが僕に同じことをしてきたら。
僕はスポブラを着けている。
僕があの攻撃(?)を食らったら、まず間違いなく女の子だとバレるだろう。紫電を傷つけたくない。
それと同時に、女の子だとバレるのが……怖い。
――せっかくここまで仲良くなれたのに。
――やっと……親友ができたのに。
紫電と積み上げた全てが、崩れ去りそうな気がしてしまうんだ。
ふっ! 今回の後書きはこのヌン様だ!!
え? もう出番おしまい? そんなあ!
……次回もお楽しみに!