ひとまずの決着
ぎゃあああああああああああ!!
剣が喋ったああああ!!
僕はこれまでの人生で一度たりとも喋る剣とは出合ったことはない。
もしそんなことがあるとするならば、夢の中か何かの創作物だ。
しかし今。僕はあまりのカルチャーショックに目の玉が飛び出そうになっている。
――――その喋る剣が目の前にあるのだから。
その喋る剣――荒波の剣の刀身――から青白い武士の上半身が姿を現した。
その顔は面具に包まれ、表情は窺い知ることが出来ない。
上半身もがっちりと甲冑に覆われており、「これから戦ですか?」と訊いたら「おう! 明日には帰るわ。風呂沸かしといてくれよな!」という会話が成立しそうだ。
『キルンベルガー。久しいな…………』
「ほう……? その姿は…………昴か」
え? え? なになに?
どゆこと?
「あのー。お侍さんが……昴さん?」
僕は勇気を持って訊いてみた。
『そだよー』
お侍さんが答える。
何この人めっちゃ軽い。
昴は隣を見るや、苦しみもがくワイズマンを発見する。
『ふん! 雑魚死神が!』
お侍さんは刀の上から雷を帯びた剣を振るい、瞬く間にワイズマンは焼き尽くされる――――!
「ぐぎゃああああああああああああああああ――――――――!!」
「ダメっ!!」
僕は暗黒の魔法陣を展開。
ワイズマンの傷を塞いだ。
「あああああああああああ――――――…………あ?」
図体ばかりでかかった死神は、昴の炎が消える頃には元のサイズに戻っていた。
ワイズマンは怒りの眼でこちらを睨めつける。
「何故助けたのです!? 敵に情けをかけるなど! そのような甘さでは貴公はいずれ死ぬでしょう!」
「そこは素直に『ありがとうございます』って言いましょうよ」
王児がもっともな感想を言ってきた。
全くだ。
「それよりこのお侍さんは……キルンベルガーと因縁があるの?」
粋が疑問を投げかける。
するとキルンベルガーが口を開いた。
「昴は400年前、私に致命傷を与え、封印した武士だ」
「400年前…………」
「今の私は完全体ではない。今回は退いてやる」
「待てっ! 逃がさない!」
自らの周囲に暗黒の魔法陣を展開したキルンベルガーを僕らのスペルが追うが、ワイズマンにはたき落とされてしまった。くそっ…………!
「逃げられちゃうね……英星…………」
紫電が呟く。
「英星…………それが今のお前の名前のようだな。さらばだ…………また逢おう………………レイチェル」
それだけ言い残し、キルンベルガーとワイズマンは魔法陣とともにかき消えた。
「…………勝った…………の………………?」
僕はその場に力なくへたり込んだ。
「逃がしちゃったけど……勝ちは勝ち?」
紫電もその場にへたり込む。
「勝ったのよ……! あたしたち………………!」
粋もその場にへたり込んで言う。
「勝利です。でしょ…………?」
王児までその場にへたり込んでしまった。
『おめでとう』
荒波の剣の昴が言った。
「ぃぃぃぃいいいいやっっっったああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕らは全身を使って飛びあがり、お互いにハイタッチ。
抱擁を交わす。
勝った! 勝ったよ! あのキルンベルガーに勝った!!
これで厳星お父様も僕を見直すはず!
そこへお兄ちゃんがやって来た。
「お前たちのチームワークの勝利だな。よくやったぞ」
「ありがどう! ありがどうお兄ぢゃん!!」
僕は鳥の胸でむせび泣く。
お兄ちゃんはまだ半分思いつめた顔をしている。キルンベルガーに何か言われたのかな?
…………まあ今はいいか! 僕らは更に抱きあった。
しばらくして紫電は僕に心臓を一突きにされて絶命した紫電少年の元へ歩んでいく。
「ボクが死んでる…………。なんか自分が死んでるの見るのってすごいや…………」
「ごめんなさい………………」
僕は表情をに影を落とす。
愛する人を………………自分の手で殺めてしまった。
紫電は優しく首を横に振って。
「こうして転生できたし……もうよくない?」
ポンと僕の肩に手を置いて言った。
「なにそれ? 紫電らしいわ」
粋が笑う。
すると王児が気になることを訊いてきた。
「あの時紫電お兄さんは、なんで英星お兄さんのナイフをかわさなかったのでしょうか」
「ええ! そんな……かわさなかったって…………?」
紫電は困ったように頬を搔いた。
「うーん、なんというか……英星の気持ちを受け止めたかったんだよ。だいぶ荒れてたし」
そうだったんだ……紫電は僕が……その……刺した時、かわさなかったんだ…………。
でも……その理由がなんだか嬉しい。
…………ホントは嬉しいなんて思っちゃダメなんだけど。
そこは百も承知だけど。
僕らは人間のほうの紫電を手厚く埋葬した。
「はあ……紫電本当にごめんなさい…………」
「いいよいいよもう。操られてたんだしさ」
あれれ? そういえば視界が明るいなあ。
「ねえ? あのコウモリの紋章はどうなったのかな? 光を感じないけど」
「あ、もう消えてますよ?」
「マジで!」
何だったんだろう。絶対に諦めないぞって思った途端に出てきたけど、よく解んないや。
「で? お前らどうやって帰る?」
「え?」
僕らは顔を見合わせる。
次の瞬間、みんなで涙目になった。…………紫電を除いて。
「ねえ。実はさ、ドラッグストアでアイス食べる前に、おしっこに行ったんだけど」
「それがどうかしたの!?」
「その時おしっこが横に飛んじゃってさ。そこにワープすれば簡単に帰れるはず」
わーお紫電お手柄! いや、汚手柄!
しかしすかさず粋が訊く。
「それ男子用の小さいほうのトイレでしょ?」
「そうだけど?」
「それで横に外すってあんたどんだけコントロール悪いの!」
「紫電お兄さんもかなり曲がっているようですね」
紫電は焦る。
「違うよっ! ボクはストレート! 英星と一緒にしないでよ!」
なんだかスゴい会話になってきた。
ストレートだろうがカーブだろうが、そもそも無かろうが別にいいだろう。
帰ろうみんな。
僕らの世界へ!!
勝った勝った――――っ!!
あのキルンベルガーに勝った――――っ!!
しかし、これから英星は過酷な運命に巻き込まれていくことに――――――――!?




