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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第1章》 紫電の旅立ち
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傷だらけの旅立ち

リュックに荷物を詰め「出ていく」発言をした紫電。

紫電の糞親父はどう応じる?

 リビングに下りると、紫電の両親がダイニングテーブルに座っていた。メイドさんたちが朝食の準備をするべく、忙しく動いている。紫電のお母さんは、息子のリュック姿を見て、目を丸くした。


「どうしたの紫電ちゃん、リュックなんて背負って……」

「……出ていきます」


 メイドさんたちの動きが止まった。……というより、リビングの時が止まった。紫電のお母さんの顔から血の気が感じられない。停止した時間の中で、1人の若いメイドさんが脇に持っていた銀のトレイだけが、乾いた音を立てて床に落ちた。


「紫電ちゃん……本気で言ってるの……?」


 今にも泡を吹きだして卒倒しそうなお母さんをよそに、糞親父は顔色一つ変える気配がない。


「……父上……母上。…………さよなら!!」


 紫電が駆け出す。

 すぐに後を追おうとしたが、紫電は立ち止まり、背中を向けたまま糞親父に語りかける。


「……どうして? パパどうして? どうして止めてくれないの?」

「………………」

「ボク……本気だよ? もう帰ってこないよ……?」


 紫電が鼻水をすする。


「元気……でな……、元気……さえ……あれば…………」


 糞親父がやっとこさ口を開いたが……、


「……っ! あなたの……あなたの息子に生まれた私が愚かでした!!」


 紫電はそれを決別の意に受け取ったらしい。

 今度こそ泣き叫んで駆け出した。勢いよく玄関ドアを開け、あっという間に見えなくなる。急いで後を追う僕とソラ。

 スニーカーを踏んづけるように履いた時だった。


「英星くん!」


 背後から紫電のお母さんが慌ただしく走ってきた。


「よかった、間に合った。裏山に変な文字が書いてある石畳があって、その近くに……荒波家に代々伝わる家宝があるらしいの。それが何かまではおばちゃん知らないんだけど……、もしあなたたちの役に立つのなら、遠慮なく使って」


 裏山にある石畳ってことは、あのダルボワ文字の石畳か。


「あ……ありがとうございます!」

「泣き虫の息子を……、紫電をよろしく頼むわね! 英星ちゃん!」

「はい……! って、え、英星ちゃん?」

「本当は女の子なんでしょ? なんとなくわかっちゃった。あなたたち、結構お似合いよ」


 顔を赤くしてどぎまぎする僕に、紫電のお母さんは得意げにウインクして微笑んだ。



―――



「しでーん! しーでーん!」

「ううっ……! うううううっ……!」


 ――この泣き声は。

 とある公園の一角に差し掛かった時、聞き覚えのある泣き声が聞こえてきた。

 そちらに目を向けてみると、カラフルなトンネル型滑り台の出口の1つに、大きな浅葱色のリュックが置いてある。

 まったく、頭隠さず尻も隠さず。ホントによく泣くよ。

 僕は泣き声が聞こえるトンネルの中を覗き込む。

 見たことのある赤い髪の少年が背を向けて座っている。

 しゃくりあげとともに、身体が小さく揺れていた。


「紫電?」

「わ! え、英星! どうしてここが……?」


 誰でもわかるわ。


「英星……うわ――――――――ん! 英星ぃ――――――――っ!!」


 こともあろうに紫電は、僕の胸に顔をうずめてきた。


「ぎゃあああああああああああ!!」


 僕は必死に引き剝がそうとするが、紫電の腕力が強すぎる。


「パパが……パパが――――――――ッ!」

「いいから放しやがれ――――――――ッ!」

「よかったな英星」


 ――鳥め。後で焼却してくれる。


 ……数分間わいせつ行為に及んだあと、紫電はやっと僕を解き放った。


「うっく……ありがとう英星……」


 そこはごめんなさいだろう! こいつ刑罰を受けてしかるべき。

 ああもう、僕の小さくてかわいい胸(洗濯板)が涙と鼻水でぐしょぐしょだ。

 でも今どつくのはさすがに可哀想だしなあ。

 しばらく復讐の方法を思案する。うーん…………、そうだ!


「ねえ、最初僕らが出会った場所に行きたいんだけど?」

「そこに何かあるの?」

「うん。これから僕の見学で使えそうな物があるみたい。行こ」

「りょーかい!」

「でさあ、途中にコンビニある?」



―――



 人通りの多い交差点に僕らは来ていた。時刻は朝の10時頃。


「はい! 英星とソラのソフトクリーム」

「ありがと――!」

「うまそ――!」


 ふふふ、男にソフト奢らせたぜ。チョロすぎるぞ紫電!


「慰めてくれたお礼って本当にこんなんでよかったの?」

「いいのいいの! 親友じゃん!」


 親友という言葉を伝家の宝刀のように振り回す。


「…………」


 紫電が沈黙してうつむく。しまった、ちょいと調子に乗りすぎたか。


「ど、どしたの? ほーら笑って! べろべろばー!」

「あのさ……」

「う、うん……」


 紫電が身体を震わせる。

 ヤバイ、怒らせちゃったなこりゃ。


「親友に奢るのっていいね……! ボクなんだかゾクゾクしてきたよ……!」


 紫電が燦然さんぜんと目を輝かせて顔を上げた。

 ……あのー、これは何フェチに分類されるんですかね。この世間知らずは使い勝手がよすぎる。

 金の湧く壺の如き男よ。


 ――あれ? ここで疑問が1つ。


「紫電、そういえばお金どうやって払った?」

「え? これで」


 紫電は黒光りする手のひらサイズの薄い板を見せる。


「ぶっ!!」


 僕はソフトのクリームを吹き出した。


「なんで小6のガキがブラックカード持ってんねん! おかしいだろ!」

「え? これは黒いだけのプリペイドカードだよ? 年齢的にボクがブラックなんて持てるわけないじゃん」

「そっか。そだよね」

「最高金額まで入れてるんだけど、ちょっとしか入らなくて。……これからが心配だなあ」

「ちょっとしか入ってないの? 大丈夫?」

「うん……100万円ぐらいしか入ってないんだ……」

「げほっ! げほごほっ!」


 今度はコーンの欠片かけらが横に入った。


「あははっ! 英星こそ大丈夫ー? 手裏剣みたいにして投げたらよく飛ぶから、ボクいつも投げて遊んでるんだー。そういえば今日少し暑いなあ……」


 雑踏の中で、100万入ったカードをぱたぱたと団扇うちわ代わりにする紫電を、僕の突っ込みが容赦なく襲う。


「『あははっ!』じゃねえ――――ッ! それはとんでもなく大事なものなの! 団扇にするな! しまっとけ!」

「ちぇー」


 紫電が友達いないって言っていた理由が、少し解った気がした。将来が心配だよ。


「紫電、お前少しアホだな」

「あん?」


 会話に下手くそな割り込み方をしてきた鳥を、僕が目で刺す。


 ――このコンビニへの寄り道が、僕らの命を救うことになる。



ソフトクリームうまーい(ソラ談)

次回もお楽しみに!

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