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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第4章》 本の少年

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メチャクチャな出陣

いきに追い詰められる英星えいせい

全ての元凶はもちろんアイツ。

 広瀬粋ひろせいき。本名、武久たけひさ粋。

 その仇名は「暴露の武久」。

 あまりにも無慈悲に人の秘密を暴露する、信じられない女だ。


「これからはこのあたしに頭が上がらないわねえ…………?」

「い、いや! やめて……!」

「たまに女みたいな声出すあんたにもちゃんと付いてたんだ~、小さいなりに……カーブしたのが」

「ぷぷーッ! そうそう! カーブな! 変化球ってやつ!」


 この害鳥め! 実兄ならもっと妹の味方につかんかい!


「暴露先はどこがいいかなあ……? 新聞の折込チラシ……? インターネットっていうのもなかなかいいわよねえ……?」

「ぷぷぷーッ! ここはネットだろう!」

「やっぱ今の時代ネットがいいわよねえ?」


 誰か……! 誰かこのスゴい会話を止めてくれ!


「うう~ん。あぁ……よく寝たわ……ちょっと飲みすぎちゃったかしら……」


 この声は王児おうじのお母さんだ。やっと起きてきたのか。


「あらあら。穴が開いてドアが外れてるわね。もう……みんなやんちゃなんだから♪」


 それだけ言い残すと王児のお母さんは台所で朝食の準備をし始めた。

 随分とおおらかなリアクションでよかったなあ。

 なんとか危機を脱した。


「じゃあね~、カーブ系男子の英星えいせい。今に暴露先を手配して全人類、いや、全生物にあんたがカーブ系だって知らしめてやるから」


 ――どうやら危機は完全には去っていなかったらしい。

 粋は「きししっ」と小悪魔っぽく笑うと、台所のほうに歩いて行った。

 紫電しでんは「ドンマイ英星!」と手でサムズアップし、粋に追随ついずいしてテーブルにつく。

 なんだろう。なんだか大切なものを失ったような気がする。

 この全ての元凶は…………!


「お姉さん」


 王児がじゃれついてきた。

 そうだよ! こいつだよっ!!


「王児! あんた!! あんたねえっ!!」


 もはや涙声で怒鳴りつける僕を王児はしばし無表情で眺め、こうささやいた。


「あんまりオレに歯向かうとお姉さんが女だってことが粋お姉さんの耳に入りますよ?」

「ひっ!」


 僕は短い悲鳴をあげる。

 な、なんて恐ろしいガキ!

 すかさずお兄ちゃんが耳打ちしてきた。


「お前、とうとうバレたな」


 ――こういう場合どうすればいいのかなあ。

 王児をっちまえば楽に解決できるんだろうけど、残念ながら僕は慈悲深い女神だ。

 うーむ、どうしたものか。…………そうだ!


「王児、ちょっとちょっと」


 僕はまだ水浸しの浴室に王児を手招きする。


「なんですかお姉さん」

「いいから来い!」

「ひゃあっ!!」


 今度短い悲鳴をあげたのは王児だった。

 カメレオンが舌で獲物を捕食するように、王児の首根っこをつかんで無理やり浴室内に引きずり込む。

 すかさず浴室ドアを閉めた。


「お姉さん痛いですよ。それにまだここ水浸しじゃないですか」

「しーっ。声がでかい。よく聴け王児よ。君は神界に興味はないかい?」

「神界ですか。あります。興味あります。むしろ興味しかないです!」


 お、食いつきがいいな。

 ――ならば!!


「神界の知識を色々語って聞かせてあげよう」

「本当ですか?」


 王児はよだれを垂らして口角を上げた。


「ただし。僕の秘密をバラさないと約束してくれたらの話だ」

「しますします。約束します。これでいいですか?」

「よし、合格だ」

「わあーい。ありがとうお姉さん」


 王児はぺたぺたと僕の胸やおしりを触りながら、


「ありがとう洗濯板のお姉さん! スタイルの悪いお姉さん!」


 と喜んだ。


「いやああああああああああああっ!!」


 王児が浴室ドアを猛烈な勢いで突き破り、45度の角度で壁に突き刺さった。

 許すまじ! セクハラエロガキっ!!

 悲鳴の反響がものすごかったのか、紫電たちがすぐに飛んで来た。


「今度はどうしたの!?」

「きゃああ! また!? 王児! 王児!!」


 一方、王児のお母さんは椅子に座ってお茶を飲んでいた。

 家が穴だらけになっているというのに、どこまでもおおらかな御仁だ……。

 例によって3人がかりで王児を引っこ抜き、今度は抜けた反動で脱衣所のランドリーワゴンをぶっ潰してしまった。

 今更ながら大変申し訳ございません。

 

「何度目だよ……」


 お兄ちゃんが王児を治しながら面倒臭そうに呟く。

 早くキルンベルガー派の動きを摑まにゃならんのに~……!



―――



 朝食を食べさせてもらった僕らは、和室で作戦会議を開いていた。


「こういうものは準備が肝要だ」

「うん。……で、雷星」

「なんだ?」

「あの英星はどうするの?」

「むにゃむにゃ……紫電大好き…………」

「あいつは頭使うのが苦手なんだよ」

「それは解ってるけどさあ…………」

「でも明らかにおかしいわよね。こんな十字のシンボルマーク描かせて」


 僕はガバッと起きた。


「え? お菓子? どこどこ…………? なんだよ~、お菓子なんてないじゃんか~!」

「お兄さん、起きときましょう。話し合いの時間は寝る時間ではありませんよ」

「王児それは違う。人が話したり努力したりしている時間こそ寝る時間なの。覚えときなさい!」

「じゃあ人が遊んでいる時間はどうなるんですか?」

「もちろん頑張ってその人の倍は遊ぶんじゃない。これを『英星の法則』というのよ」

「そんなことをしていい事実はありません。お兄さんって十中八九、底辺ですよね」


 この僕が底辺? そんな事実こそないわ!

 頭にきた!!


「作戦会議は終了! とっとと出発するーッ!」

「あ、おい! ちょっと待て!!」


 いつも通り。平和そのものだ。

 しかしこの平和もこの時までだった。


 この先、まさかあんな奴と戦うことになるなんて――――――。



【警告】

英星の法則は絶対に信用しないで下さい。


次回もお楽しみに!

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