逃げたらアカン!!
前回、英星にエロ本を発見された紫電は反撃なるか?
今回も波乱の予感が……?
――で。
何でこんなことに。
僕は紫電と同じベッドで肩を寄せ合って寝ていた。
紫電曰く、ベッドが1つしかないかららしい。
ソラは窓の近くが落ち着くと言って、窓辺で月あかりを浴びながらうとうとしている。
ホント今日は色んなことがあった。神界から人間界に降りてきて、初めて死神族のデススライムきゅんに遭遇して……カッコよかったな紫電。
そのカッコいい少年は文字通り、目と鼻の先ですうすうと寝息をたてている。ああ、無防備だなあ。
この隙に襲っちゃおうかな……ウソウソ。そんなことしないけど、こんなことを考えちゃうなんて僕って危ないかなあ。……なわけないか、きっと気のせいだよね!
ええっと、どこまで思い出したっけ。そうそう、デススライムきゅん倒して、紫電の糞親父にも会って、風呂場で紫電の半裸体見て鼻血出した後、風呂場を少しだけ壊しちゃって優しく注意されたんだっけか。エロ本も見たし。いやー思い出しただけで疲れたな。寝よ。
「ううん……」
僕のまどろみを紫電の声がかき消した。
「待って……待ってよ……」
うなされているらしい。今日は生まれて初めてスペルも見たことだし、しょうがないか。
「行かないで……英星……」
――僕の夢か。
僕は紫電の手を優しく握り、目を閉じた。
――ここで終わっていたらいい話だったんだけど。
紫電はますますうなされ始めた。
「英星、なにしてまんの。もうボクたちの出番やで」
「は?」
紫電が急に関西弁になる。
「英星! 逃げる気なんか? 一緒にここまで頑張ってきたやないか! 逃げたらアカン!!」
「ちょいちょい紫電、どうした?」
「やっぱそうこなアカンわ! さ、気合い入れていくで! 大観衆がボクたちを待ってる!」
「だからどうした!」
ゆっさゆっさと紫電を揺らすが、全く起きない。
「ども~、英星&紫電です――っ!」
「……これどうしよう。やっぱ起こすべきだよなあ」
「いや~、英星さん! 最近、景気が悪うおまんな!」
……聞いてるこっちが恥ずかしくなってきた。
「ねえソラー。なんか漫才が始まったんだけど」
「面白いからほっとこうぜ」
ソラがくすくす笑いながら寄ってきた。
紫電の寝言はますますその勢いを増す。
「風のうわさによると……英星さんって魔法が使えるんやて? ホンマかいな~! え? 使ってくれるん? おおー、見せて見せて!」
お、僕が大観衆の前でスペルを使うのか。何故か緊張してきたぞ。
「おおおおお、英星さんが宙に字を書いて……?」
僕らは固唾を呑んで紫電の寝言に聞き入る。
「……って、すね毛! それすね毛って書いてるやんか~! うわ、英星さんにすね毛が生えた! ホンマや、英星さんホンマに魔法が使えたんや~っ!」
そんなスペル聞いたことねええええええええ‼
こいつ夢の世界でスペルを冒涜してやがる!
てゆーか大観衆の前で僕にすね毛生やしやがって!
……幸せそうに眠る紫電の顔を殴りつけたくなってきた。
「ぎゃはははははは! この寝言漫才、もう最高――ッ! もっと聞かせぐええええええッ!」
1人でウケていた鳥をシメる。
もうやだ。どんな手を使ってでも起こしてやる。
「さあ英星、いよいよ審査結果が発表されるで。もうすぐボクたちの夢が叶う! ボクには解んねん!」
……え? 結果発表? それは少し気になるな。
頑張れ、夢の中の僕ら! その手に栄冠を掴め!
「……やった――っ! 優勝や――っ!」
「やったあ――――――ッ‼」
思わず歓声を上げる僕とソラ。
嬉しすぎて目に涙が浮かぶ。
ソラとハイタッチし、抱き合った。
「やったよー! ソラ、優勝だよ――っ! 嬉しい――っ!」
「ハハハハハ! お前のすね毛が効いたな!」
……忘れてた。僕は再び鳥をシメる。
いや~、優勝で締めくくれてよかったよかった!
―――
次の日の朝、隣で寝ていた紫電が起きた。
「うぅぅ……よく寝た……」
「おはよう紫電」
「おふぁよう英星……ってどうしたのその顔!」
どうもこうもない。夢の中とはいえ、漫才コンテストで優勝した興奮で眠れなかったのだ。
僕の目元にはくっきりとクマができていた。ああ、世界が歪んで見える。
「枕が合わなかったのかなあ……?」
違うよ! 僕は神界ではオタクな生活をしてて(ゲームとかゲームとかゲームとか)、こんなコンテストで優勝できるなんて思ってなかったんだもん!
これはきっと神様が(僕も神様だけど)出来の悪い僕にくれた数少ないご褒美!
うう……まだ余韻が残っている……!
「なに涙ぐんでんだお前は。大体想像つくけどな」
……なんかこの鳥、たまに僕の心を見透かしたようなことを言ってくるなあ。
出会ってまだ数か月しか経っていないのに。……まあいいや。
「ところで、紫電は昨日楽しい夢を見てたみたいだね」
「え……?」
「ぷぷーッ! めちゃくちゃうなされてたぞ」
僕とソラが少し意地悪な顔をすると紫電は、
「えー、ボクなんか変なこと言ってなかった?」
と頬を染める。
「あはは、内緒!」
「…………」
……紫電がいつもの調子に見えたのはここまでだった。
凪のような表情を作ったかと思うと、床の拭き掃除を始め、窓も拭く。ずいぶん念入りに拭くなあ。
同時に、大きな浅葱色のリュックサックもクローゼットから引っ張り出して、荷物を詰めていった。今日は学校で遠足でもあるんか?
「あんた、何してるの?」
「英星にずっとついて行こうと思ってさ」
ずっと……ついて行く?
「あー……大丈夫! 実は僕、人間界の見学に来ただけだし。そんな冒険とかじゃないよ」
「じゃあその見学について行く」
「うーん、それはココを拠点にしてくれればありがたいんだけど? そのこととその丁寧な掃除に何か関連性はあるの?」
「ある」
「どんな?」
「出ていくんだ」
――僕の眠気と目の下のクマが吹き飛んだ。
「え? え? 出ていくって……本気⁉」
「本気の本気」
だから丁寧に掃除して、でかいリュックに荷物を詰め詰めしてたんか。
「な、なんでまた急に?」
「昨日……見たでしょ? 最近、父上がいつもあんな感じで……」
「いやいや、だからって――」
「だからだよ」
紫電は僕の言葉に自分の言葉をかぶせると、続けた。
「ボクは……初めから……初めから……愛されて……」
声がどんどん小さくなる。
「……最近……すぐに叩かれるようになって……さ……」
「……紫電が後悔しないのなら」
少年は目を赤くして、こくりと頷いた。
紫電、英星に反撃完了!
次回も乞うご期待!