もう! 怒ったぞぉ~!
王児が隠している物はひょっとして……アレか?
自らの学習机の前で両手を広げる王児。
必死な顔をして「見ないで」と眼で訴える。
しかしその動きと表情で何かを隠しているのは一目瞭然。
こういうところはまだまだ子供だな。……カワユス。
「……王児。解るよ。隠したくなるよね」
お、紫電。お前も王児が隠している物の正体が解ったのか。
さすが僕の未来のお婿さん。
――紫電はゆっくりと王児に歩み寄る。
「ひっ……! く、来るな! 来るなああああああ!」
王児が必死に叫ぶ。
すると紫電はこれでもかと口角を上げて言った。
「エロ本隠してるんでしょ~?」
「は? え、えろ? ほ……?」
王児の目が点になり、うろたえる。
やはりな。僕も紫電とおんなじ見解だったんだ。
「ち、違う! 違うぞ! オレがそんな卑猥なものに興味を持つ訳がない!」
「う・そ・つ・け~! このむっつりさん!」
お前もむっつりさんだろうがよ。
しっかしなんで男の子の会話ってこんなにいやらしいんだ。
粋は赤面して顔を両手で覆っている。
あの粋が赤面するとは、よほど「エロ本」の響きは強烈だったらしい。
「いいから見せてみなって君のエロ本を! ボクがエロ度を採点してあげよう!」
「いいぞ紫電。その調子!」
「あ、英星やっぱりー?」
お兄ちゃんは呆れてバルコニーのプランターで栽培されているチューリップを眺めていた。
「だからやめて! やめて……よっ、うっううっ……!」
「あれ? 泣いちゃった?」
「うわああああああああああん! あああああんっ!」
「あーあ、紫電、泣かしちゃった。泣ーかした、泣ーかした。せーんせいに言ってやろ♪」
「よくそんな懐かしい唄覚えてたわね……」
紫電はめそめそと泣く王児に回り込み、「ごめんねー!」と言って上棚とシェルフを電光石火で物色。そしてインサイドワゴンの引手に手をかけ、片っ端から開けていく。
こいつ案外容赦ないんだな。
インサイドワゴンの一番下の引手を思いっ切り引いた時、紫電が「あっ」と声を出した。
ついにブツが見つかったか?
「ナイフが1本入ってるー。変な紋章が描いてあるなあ。それとなんかメモみたいなものが…………!」
ナイフの鞘には、数多の剣が宙に浮き、まるで躍っているような紋章が描かれている。
これはなんだ…………?
「てんめえええええええ!!」
叫んだのはプライバシーをズタボロにされた王児だった。
怒りのあまり猿みたいに顔が真っ赤になっている。
「この赤髪! よくもオレの自尊心とプライバシーを踏みにじりやがったなあ!」
「げはっ!」
グーで思いっ切り殴られた紫電は0度の角度で真横に吹き飛んだ。
襖が真っ二つに割れ、派手な音を立ててリビングまで転がる。
ナイフはポロリとその場に落ちた。
続いて王児は僕の髪を摑み、引っ張る。
「いだだだだだ! いだいいだい! 僕は直接的には何もしてな……!」
「聞いたことねえか……? この出来損ない! いじめはただ見てる奴も同罪なんだよお!」
「ふげえっ!」
僕はアッパーカットを顎に食らい、90度の角度で宙に舞い上がる。
神界まで飛んで行ったかと思ったわ。
王児が粋にゆっくりと近づく。
「いや……いやあああああ!! あたしなんにも……! なんにも…………!!」
「おい! ひまわりの髪飾り!」
「た……助けて…………!」
もはやヤクザ映画のワンシーンである。
必死で命乞いをする粋だったが、王児の手がその胸ぐらを捉えた。
「……なんでお前は存在してるんだ?」
「へ……?」
「消えろおっ!!」
「ぎゃああああああああああっ!!」
もはや意味不明なセリフを吐かれ王児にぶん投げられた粋は、スチール製の玄関ドアを軽々と突き破り、場外へと飛んで行った。
一番何もしてなかった粋が一番酷かったのは気のせいか。
ひしゃげた玄関ドアの上でぴくぴくと痙攣しながら白目を剝いている。
泣いたら強くなるタイプは聞いたことがあったが、こいつは強くなりすぎだろう。
もはやラスボス……いや、隠しボス。
僕らは今とんでもない強敵と相対している。
こういう敵って倒せばいいアイテムをドロップするんだよね。……そんな場合じゃないけどさ。
「雑魚どもが!」
そう言うと王児はむすっとして椅子に座り、ワゴンの引き出しをバンバンと音を立てて閉めていく。
……うん、怖い。
「あ……あのさ王児、暴力はよくないよ。暴力で物事を解決するのは弱い人だって母上が言ってた」
紫電が左頬をさすって上体を起こしながら話しかける。
「オレはやり返したまでです」
「いや、やり返しすぎでしょ……」
その時サッシが開き、お兄ちゃんがバルコニーから現れた。
「王児は泣かせると怖い……か。お前らもいい学習ができてよかったな!」
お兄ちゃんは一斉に非難の視線を浴びる。
こいつさてはバルコニーに緊急避難してやがったな。
「いたたた……ところで王児、紫電が見つけたあのカッコいい紋章が入ったナイフは何だったの?」
玄関ドアが無くなり、僕らの靴を残すのみとなった寂しい玄関先から粋が訊いてきた。
「どうでもいいでしょう」
「どうでもよくないよっ! あんな大きなナイフ……それも小学生が持つなんて銃刀法違反だよ! 王児解ってる?」
……紫電くん、それでは今あなたが腰から下げている荒波の剣はどうなるのでしょうねえ。
みんなで紫電を穴が開きそうなほど見つめる。
「――痛い痛い! 視線が痛いって! 何どうしたのみんな!?」
「いや……あんたの剣はどうなんのかなと思って」
「これはいいの! 特別だよ!」
なんだその謎ルールは。
「それより少し気になることがある」
考えごとをしていたお兄ちゃんがまたいいところで会話に割り込んでくる。
どうせこういう場合は大体どうでもいいことなんだけど。
「さっきナイフに紋章が入ってたって言ってたな。それ剣がたくさん描かれてなかったか?」
「そうだよ雷星。バルコニーに行ってたのによく解ったね」
「やはりか!」
お兄ちゃんが急に大きな声を出した。
……あのさあ馬鹿兄貴。いい加減に空気を読むことを覚えろよ。
「恐らくそれは『ダンシング・ソーズ』と呼ばれる紋章。死神族のワイズマン派のシンボルマークだ!」
再びワイズマンの名前が出てきた!
次回もお楽しみに!




