僕は女の子!
雷星とひと悶着あった英星。
「敵に情けをかける必要性が解らないっ!!」(英星談)
戻ってみると、クラリスの姿はもうなかった。
お兄ちゃんたちが逃がしたらしい。
みんなホントに甘いんだから……!
――――しばしの沈黙の後、お兄ちゃんが口を開く。
「解らないだろうが、とりあえず進もうか!」
ホントに解らない。
死神族は憎き敵。その敵に情けをかけるなんて。
解らないまま、お兄ちゃんが進み出したため、僕らも歩を合わせる。
紫電がチラチラと僕の顔を見てくるなあ。そんなに僕が心配か?
なんとなく険悪なムードで歩いていると、なにやら涼し気な音が聞こえてきた。
「ねえ、なんか水の流れる音しない?」
紫電が草むらを掻き分けて進む。
――沢だ。穏やかな清流が海を目指して流れている。
そういえばさっき粋が沢で水浴びしたいとか言ってたっけ。
「やったあ――――っ! やっぱり沢は人生に必要だって天の神様が言ってるんだよ!」
「……天の神様ならここにいるんだけど?」
僕の突っ込みが聞こえたのか聞こえなかったのか。
紫電は沢の水を嬉しそうにちゃぷちゃぷと手で触っている。
「じゃ、あたし水浴びするから!」
「えっ! えっ! ほっ、本当にっ?」
「言ったじゃない。有言実行!」
「そっ! そうだよねっ! 有言実行だよねっ!」
紫電の鼻からまた鼻血が垂れている。
その粋を見る目つきのなんてやらしいこと!
「紫電……!! 紫電――――――んっ!!」
僕の渾身の叫びも、紫電には全く聞こえていないようだった。
もはや半泣きの僕に、お兄ちゃんは「まあまあ」と声をかける。
こんなの「まあまあ」で済むもんか!
僕の……僕の紫電が…………!!
こんな……こんな女にっ!!
「でも……ちょっと恥ずかしいかなあ……」
「はっ、恥ずかしがることないよ粋っ! 一緒に入ろっ!」
「紫電が3回回って『きゅーん、くーんくーん、わおーん』って鳴いてくれたら入れるかも♪」
「――お安い御用だよっ!」
「待てい! すっかり調教されとるがな!」
「なんだよ、英星だって粋と一緒に入りたいクセに!」
「僕はそんなの興味の欠片もない」
「あんたは紫電と違ってまだ発情期が来てないみたいだもんね。お子ちゃまだから」
僕の頭のどこかで「ぶちっ」と音がした。
「なんだよ……なんだよなんだよ! 僕だって……僕だってええええええ!!」
僕は宙にダルボワ文字で綴りを刻む。
「ちょっ……、英星! こんな所で!」
「落ち着け英星!!」
紫電とお兄ちゃんが何か喚いているけど関係ない!
紫電をたぶらかしたこの女をすり潰す!
「《アースドリル》!!」
「きゃあああああああ!!」 「英星――――――っ!」
天空より飛来したドリルが大地を深々と抉る。
ちっ! あの女は間一髪、側転してかわしたようだな。……にしても運動神経いいなあ。
そことスタイルは羨ましい。
「し、死ぬかと思ったわ」
ドリルで抉られた大地は水浸しだ。あれ? なんか湯気が……。
それに気付いたお兄ちゃんが飛んできた。
……ん? ショベルを持って穴の深さを整えて……土木作業員か?
今度はタオルを頭に乗せて……お盆をお湯に浮かせて……? その上にとっくりとおちょこを乗っけたぞ。これは……?
「お兄ちゃん、何してんの?」
「温泉が湧いた」
――マジか! 最初のは湯船作ってたんかい!
お湯は濁っているが、この匂いは間違いなく温泉だ。
「お酒飲もうとしてるけど雷星は未成年じゃないの?」
「あー、あれは成人済み」
「いっ、粋っ! そんなことどうでもいいよっ! 一緒に入らないっ? こっ、混浴ってことでっ!」
この身体は子供、頭脳はスケベ親父のエロガキを誰かなんとかしてくれ。
でも、雰囲気がよくはなったな。
「お兄ちゃん、僕たちもお風呂に入りたいんだけど?」
「ああ、いいぜ。入れよ」
「やった! 丁度近くに沢もあるから水風呂にも入れるよね!」
「でもあれだ。混浴は禁止。教育上よろしくない」
「ちぇっ……」
紫電が実に残念そうに呟く。
「沢で遊ぶのと温泉に入るのと、代わる代わるにすりゃいいだろ」
「教育上よろしくないんだったらしょうがないわね。じゃああたし、着替えてくるから」
「着替えてくるって……何に?」
僕の疑問に粋は、
「水着。見ないでよ、アホ男子」
と言いながら、持っていたショルダーバッグとともに茂みに入っていった。
水着持って来てたの? なんと準備のいい奴!
「そしたらボクも着替えようかなあ」
今度は紫電がリュックから海パンを取り出す。
どいつもこいつも準備がよすぎるぅ!
「実は英星のも持って来たよ! はい、ボクのスク水」
あのなあ! 僕は女の子なの! ガールなの!!
てめえの男物のスク水なんざ穿けるかあ!
「じゃあ、私はそろそろあがるわ。英星頑張れよ!」
ああっ! 妹のピンチにこの裏切り者おおおおお!
お兄ちゃんは沢のほうにふよふよと飛んで行ってしまった。なんと薄情な兄!
「どこで着替えようかなあ。……まあいいや! 粋は今茂みだし、ここで着替えちゃえ!」
「きゃああああああああ!!」
衝撃的なセリフに、思わず尻もちをついた。
「どしたの? 前から思ってたけど英星ってたまに女の子みたいな声出すよね」
だから女の子なの! アイアム ア ガール!
「英星も早く着替えなよ。……もう、誰も見てないってば~!」
お前が見てるだろ。
……僕は腹を決めた。女の子だって正直に言おう。
それしかないじゃないか。
これ以上紫電に誤解されたくない。
ここは女の子の僕を好きになってもらって、ようやく僕らは結ばれるんだ。
――意を決して、口を開く。
「ねえ紫電。紫電って女の子好きだよね。じゃあさ、女の子の僕も好き? 僕、ホントは女の子なんだけど」
英星の告白に紫電は……?
次回もお楽しみに!




