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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第4章》 本の少年

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僕は女の子!

雷星らいせいとひと悶着あった英星えいせい


「敵に情けをかける必要性が解らないっ!!」(英星談)

 戻ってみると、クラリスの姿はもうなかった。

 お兄ちゃんたちが逃がしたらしい。

 みんなホントに甘いんだから……!


 ――――しばしの沈黙の後、お兄ちゃんが口を開く。


「解らないだろうが、とりあえず進もうか!」


 ホントに解らない。

 死神族は憎き敵。その敵に情けをかけるなんて。

 解らないまま、お兄ちゃんが進み出したため、僕らも歩を合わせる。

 紫電しでんがチラチラと僕の顔を見てくるなあ。そんなに僕が心配か?

 なんとなく険悪なムードで歩いていると、なにやら涼し気な音が聞こえてきた。


「ねえ、なんか水の流れる音しない?」


 紫電が草むらを掻き分けて進む。

 ――沢だ。穏やかな清流が海を目指して流れている。

 そういえばさっきいきが沢で水浴びしたいとか言ってたっけ。


「やったあ――――っ! やっぱり沢は人生に必要だって天の神様が言ってるんだよ!」

「……天の神様ならここにいるんだけど?」


 僕の突っ込みが聞こえたのか聞こえなかったのか。

 紫電は沢の水を嬉しそうにちゃぷちゃぷと手で触っている。


「じゃ、あたし水浴びするから!」

「えっ! えっ! ほっ、本当にっ?」

「言ったじゃない。有言実行!」

「そっ! そうだよねっ! 有言実行だよねっ!」


 紫電の鼻からまた鼻血が垂れている。

 その粋を見る目つきのなんてやらしいこと!


「紫電……!! 紫電しで――――――んっ!!」


 僕の渾身の叫びも、紫電には全く聞こえていないようだった。

 もはや半泣きの僕に、お兄ちゃんは「まあまあ」と声をかける。

 こんなの「まあまあ」で済むもんか!

 僕の……僕の紫電が…………!!

 こんな……こんな女にっ!!


「でも……ちょっと恥ずかしいかなあ……」

「はっ、恥ずかしがることないよ粋っ! 一緒に入ろっ!」

「紫電が3回まわって『きゅーん、くーんくーん、わおーん』って鳴いてくれたら入れるかも♪」

「――お安い御用だよっ!」

「待てい! すっかり調教されとるがな!」

「なんだよ、英星えいせいだって粋と一緒に入りたいクセに!」

「僕はそんなの興味の欠片かけらもない」

「あんたは紫電と違ってまだ発情期が来てないみたいだもんね。お子ちゃまだから」


 僕の頭のどこかで「ぶちっ」と音がした。


「なんだよ……なんだよなんだよ! 僕だって……僕だってええええええ!!」

 

 僕は宙にダルボワ文字で綴りを刻む。


「ちょっ……、英星! こんな所で!」

「落ち着け英星!!」


 紫電とお兄ちゃんが何かわめいているけど関係ない!

 紫電をたぶらかしたこの女をすり潰す!


「《アースドリル》!!」

「きゃあああああああ!!」 「英星――――――っ!」


 天空より飛来したドリルが大地を深々とえぐる。

 ちっ! あの女は間一髪、側転してかわしたようだな。……にしても運動神経いいなあ。

 そことスタイルは羨ましい。


「し、死ぬかと思ったわ」


 ドリルで抉られた大地は水浸しだ。あれ? なんか湯気が……。

 それに気付いたお兄ちゃんが飛んできた。

 ……ん? ショベルを持って穴の深さを整えて……土木作業員か?

 今度はタオルを頭に乗せて……お盆をお湯に浮かせて……? その上にとっくりとおちょこを乗っけたぞ。これは……?


「お兄ちゃん、何してんの?」

「温泉が湧いた」


 ――マジか! 最初のは湯船作ってたんかい!

 お湯は濁っているが、この匂いは間違いなく温泉だ。


「お酒飲もうとしてるけど雷星らいせいは未成年じゃないの?」

「あー、あれは成人済み」

「いっ、粋っ! そんなことどうでもいいよっ! 一緒に入らないっ? こっ、混浴ってことでっ!」


 この身体は子供、頭脳はスケベ親父のエロガキを誰かなんとかしてくれ。

 でも、雰囲気がよくはなったな。


「お兄ちゃん、僕たちもお風呂に入りたいんだけど?」

「ああ、いいぜ。入れよ」

「やった! 丁度近くに沢もあるから水風呂にも入れるよね!」

「でもあれだ。混浴は禁止。教育上よろしくない」

「ちぇっ……」


 紫電が実に残念そうにつぶやく。


「沢で遊ぶのと温泉に入るのと、わるわるにすりゃいいだろ」

「教育上よろしくないんだったらしょうがないわね。じゃああたし、着替えてくるから」

「着替えてくるって……何に?」


 僕の疑問に粋は、


「水着。見ないでよ、アホ男子」


 と言いながら、持っていたショルダーバッグとともに茂みに入っていった。

 水着持って来てたの? なんと準備のいい奴!


「そしたらボクも着替えようかなあ」


 今度は紫電がリュックから海パンを取り出す。

 どいつもこいつも準備がよすぎるぅ!


「実は英星のも持って来たよ! はい、ボクのスク水」


 あのなあ! 僕は女の子なの! ガールなの!!

 てめえの男物のスク水なんざ穿けるかあ!


「じゃあ、私はそろそろあがるわ。英星頑張れよ!」


 ああっ! 妹のピンチにこの裏切り者おおおおお!

 お兄ちゃんは沢のほうにふよふよと飛んで行ってしまった。なんと薄情な兄!


「どこで着替えようかなあ。……まあいいや! 粋は今茂みだし、ここで着替えちゃえ!」

「きゃああああああああ!!」


 衝撃的なセリフに、思わず尻もちをついた。


「どしたの? 前から思ってたけど英星ってたまに女の子みたいな声出すよね」


 だから女の子なの! アイアム ア ガール!

 

「英星も早く着替えなよ。……もう、誰も見てないってば~!」


 お前が見てるだろ。

 ……僕は腹を決めた。女の子だって正直に言おう。

 それしかないじゃないか。

 これ以上紫電に誤解されたくない。

 ここは女の子の僕を好きになってもらって、ようやく僕らは結ばれるんだ。


 ――意を決して、口を開く。


「ねえ紫電。紫電って女の子好きだよね。じゃあさ、女の子の僕も好き? 僕、ホントは女の子なんだけど」



英星の告白に紫電は……?


次回もお楽しみに!

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