禁断の書物
呼ばれ方が「ゆでだこ」になってしまった陽キャ。
一方の英星たちは仲違い気味?
雷星刑事による荒波容疑者の取り調べが続く。
「とっとと荷物を見せろエロガキ!」
「やめてったら!! 人の荷物勝手に見ないでっ!」
紫電がお兄ちゃんを突き飛ばした。アスファルトの黒い絨毯にお兄ちゃんが転がる。
あの温厚な紫電がどうしたんだ?
「お兄ちゃん!」
「ッてー! このエロガキ!」
「なんてことすんの紫電!」
「それはこっちのセリフ!」
「今日のあんた少しおかしいよ!」
「おかしいのはそっちでしょ! 特に英星! あの子につっかかってばっか!」
「おかしくなんかない! あんなゆでだこ、ラップに包んで冷凍庫に放り込んどきゃいいのよ!」
「いやいや、そういうところがおかしいんだよ……」
「きゃあああああああああ!!」
「今の声は…………?」
「……ゆ、ゆでだこ……?」
2階の両開き窓を見上げると、ガラスから黒い光がレーザーのように飛び出し、稲光がほとばしっていた。
窓枠だけ残してガラスが木っ端微塵に砕ける。
「危ない英星!」
紫電が左手で剣を数閃、僕らに降りかかったガラスの涙と金属片を残らず切り払った。
「あ……ありがと……」
「気を付けて!」
――紫電の勇姿に少し見とれちゃったけど、そんな場合ではない。
粋のもとへ急がなくちゃ!
しかし僕の身長より高いアルミ鋳物製の門扉が立ち塞がる。
「これ鍵がかかってるううう! 開かないっ!」
すると紫電がひょいとアルミ野郎の上に跳び乗った。
「英星! 手を!」
右手を出してくる。
あんさんこんな薄いアルミ野郎の上で立てるなんてすんごいバランス感覚してはりまんなあ。
「あ……ありがと……」
「お前さっきから『あ……ありがと……』ばっかりだな」
「しょ、しょうがないじゃん……! カッコいいんだもん」
紫電に引っ張り上げてもらい、アルミ野郎をなんとか乗り越えた。
……が、鈍臭くて運動神経が皆無の僕は、下りる時に顎から大理石のタイルに落っこちてしまう。
「ふぎゅうっ!!」
「大丈夫!? もう、ドジなんだからあ……」
紫電が駆け寄り、至近距離で顎をさすってくれた。ああ……幸せ……。
気を取り直していよいよゆでだこの家に突入……かと思いきや、今度は玄関の鍵が開かないじゃん!
「下がってろ!」
お兄ちゃんが風を巻き起こし、行く手を阻んだデッドボルトを扉もろとも吹き飛ばした。
基本のスペルはこんな感じでスペルの綴り無しで撃てるのだが、お兄ちゃんのは威力が凄いな。
……いつもひょうきんで結構迷惑だが非常事態では頼りになる。それが雷星お兄ちゃん!
玄関扉を突き破り、靴も脱がずにドタバタと無駄にでかい階段を駆け上がる。
途中何人かのメイド服からすれ違いざまに声をかけられたが、事情を説明している余裕はない。
ゆでだこの部屋と思われるドアが吹き飛んだドア枠の前に、人だかりができていた。
「な、なんですかあなたたちは!」
「粋お嬢様! どこですか?」
女たちは口々に言う。
ゆでだこはどうやら『粋』という名前のようだ。
……ゆでだこはいくらなんでも可哀想だし、これからは粋と呼んでやるか。
「ちょっとごめんね!」
肉壁を強引に突破すると、部屋は禍々しい瘴気に満ちていた。
どうやらインテリアが室内をぐちゃぐちゃに乱れ飛んだらしい。
「うわっ! 怖い……!」
紫電が思わずそう叫ぶ。
「あのねえ紫電、この期に及んで何言ってるのよ。ほら、お兄ちゃんを見なさい。武者震いしてるじゃない」
「いや、これは怖いだけ」
僕は思わずその場でずっこけた。
所詮は我が兄よ……。
――ん?
「ねえ、あの本なんかおかしくない?」
「……あの本って?」
ずっこけて床に突っ伏した時、落下したシャンデリアの隙間に見えたんだ。1冊の本が。
「……あ、この本のこと? 確かに周りのインテリアは吹き飛んでいるのに、これだけ部屋の真ん中に置いてあるね。動かなかったみたいに」
紫電がシャンデリアを回り込んで、本に気付いた。
「これは……『幸せになれる本』って書いてある。粋ちゃん……の本?」
「待って!」
本を開こうとした紫電を慌てて制止する。
「メイドさんたち! ちょっと離れてて!」
「ええっ!」
「メイドさんたちー、これは神様の命令だよ? 離れて離れて!」
「おっ! 紫電ノリがいいね!」
「えええええっ!」
「じゃ、この本開けまーす! ほい、よっこら!」
開いた右のページには磔にされた血みどろの粋の裸体が描いてあり、
「はわわわわわっ! 粋ちゃんの……粋ちゃんの……裸っ!」
左のページにはだだっ広い部屋のようなものが描いてあるだけだった。
ナチュラルすけべボーイ日本代表こと紫電が顔を真っ赤にして鼻血を噴射する。
「紫電! 覚悟おおおおおおお!!」
「待って待って! 英星だって見たいでしょ!?」
紫電の胸ぐらを摑み、顔面を粉砕しようとした刹那。
凄まじい勢いで僕らは本に吸い込まれていく。
「きゃああああああああっ!?」「わああああああああっ!?」
「……うわー、なんだ今の風と閃光は。まるで禁断の書物でも開いたかのよう。いやー、怖くて怖くてトイレが近くなってな。さあ粋とかいう娘はどこだ! ってあれ……? 英星? 紫電?」
本に吸い込まれてしまった英星たち!
次回もお楽しみに!




