ゆでだこ
碧い髪の少女はとんでもない陽キャ!
スタイルもバツグン!
裏路地に移動した僕らは、陽キャにようやく魔力について話した。
「……てなわけで、君から魔力を感じたんだけど?」
「へえー、あたしが魔力をねえ……」
「へえー、この子が魔力をねえ……」
紫電お前全く同じ文脈で納得するなよ。
お前は気付かんといかん側なの! そこ解ってる? と、とりあえず精神的フォローを。
「い、いきなり言われてびっくりしたかも知んないけど……解ってくれたかな?」
「そんなくだらないウソ解りたいとも思わない」
わー、辛辣ぅ。
「魔法なんてもう信じてないし。これ何のドッキリ? あんたら何者なの?」
「え、えーっと、ボクたちは……」
「学校どこよ? 言えないなら警察呼ぶわよ?」
「僕は神様だよ? 君みたいな人間どもの学校なんて通うわけないじゃん」
「……呼ぶわ」
「ちょっと英星!」
僕は構わず続ける。
「大体ねえ、君に魔力なんてあるわけないじゃない。ちょっと顔とスタイルがいいからって調子乗んないでよね。魔法少女になれなくて残念でした~っ!」
「なっ……!」
「ぷぷーっ! なんのアニメよ! 小学校の? 高学年で? 魔法!!」
「あっ、あっあんたがあたしに魔力があるって言ったんでしょうが!」
「言ってねーよこのクソババア!」
すると陽キャはゆでだこのように顔を真っ赤にして、
「二度とあたしに関わらないで!! このアホ男子ども!!」
と言い残し、走り去っていった。
「じゃあなー、ゆでだこ~!」
「……英星」
聞いたことがない低いトーンの紫電の声が背後から聞こえ、思わず身をすくめる。
「今日の英星おかしいよ! さすがにボクも怒ったからね。ちょっと君、待ってよー!」
「あ、し、紫電! 行かないで……よ…………」
その時、近くにあったボロボロのポリバケツの蓋が1つ開き、生臭い悪臭を漂わせてお兄ちゃんが現れた。
「言い争いが怖くて隠れとったら……英星今日のお前どうしたんだ。頭を冷やせ。エイセイ、レイセイになれ! ぷぷーッ!」
「……………………」
「い、いかん、スベッたか? 私の渾身のギャグが……!」
「うわーん! お兄ちゃーん! うわあああん!」
僕はお兄ちゃんに泣きついた。
「え? そんなに面白かった?」
「ああーん! うわああああああん!」
「どうした英星……そんなに抱きしめてくれたらお兄ちゃん嬉しいじゃないか」
「悔しいよー!」
「そうか、私のギャグが面白すぎて悔しかったのか。英星だって面白いぞ」
「あの子っスタイルよくてっ……顔もよくてっ……紫電もっ……紫電もあの子に鼻の下伸ばしてっ……!」
「そんなあ! 私のギャグが面白くて泣いてくれてたんじゃなかったんかい!」
僕は自分の身体に生臭さが移るのも構わず、しばらくの間泣き続けた。
――お兄ちゃんも何故か、ほろりと泣いていた。
「うっ! ううっ……!」
「英星、もっと泣け。もっと私を抱きしめておくれ。今日は2人で泣き明かそう」
「お兄ちゃん……」
「どうした?」
「胸が大きくなるスペルかけて」
「さすがにそんなスペルねーわ!」
「わーん! お兄ちゃんの無能ーッ!」
「痛い痛い! そんなポカポカ殴るな! とにかく、紫電を追ったほうがよくないか?」
「……う、うんっ! そうだった!」
――僕らは紫電を追って駆け出した。
スペルを使う者――すなわちスぺラー――は、体内にある魔力の流れをコントロールできないうちは常に微少な魔力が身体から溢れており、これを魔力残滓という。その魔力残滓を辿ることで追跡が可能となるのだ。
紫電の魔力残滓はコンビニに向かっていた。
「このコンビニの中にいんのかな?」
「解んない。とりあえず入るよ!」
自動ドアが開き、アイスクリームの冷凍ショーケースを通り過ぎた僕らが目にしたものは。
「え、えーっとここは……あれだ。成人向けのコーナーだな」
「あんにゃろー! 人がしくしく泣いてる時にこんなモノを!! なんてやらしい!」
ご丁寧にも、紫電の魔力残滓はレジの前に向かっている。
「き――――っ! 紫電! 最っ低! もうキスしない!」
「そうしてくれないとお兄ちゃん心臓がもたないわー」
紫電の魔力残滓はそのままコンビニのもう一つの出入り口に向かっていた。そこからアスファルトに出てしばらく走り、公園の金網を横目に通って……。
「いたあ! 紫電!!」
「え、英星?」
こちらに気付き、鬼か妖怪でも見たような青い顔をする紫電。ベージュのレンガが印象的な、大きな家の前に立っている。さっきのゆでだこの家か? 紫電の家には負けるけど、なかなかの豪邸だ。やるな、ゆでだこ。
「あんたの魔力をたどって来たよ!」
「……そうなんだ。そんなことできるんだね……。でも、言っとくけどボクはまだ英星のこと許してないから!」
「あら奇遇。僕も紫電のこと怒ってるよ?」
「え……?」
「お前途中でナニ買った?」
「あえあ? あーっと……書籍を1冊」
途端に思いっきり声が上擦る紫電くん。
「ふう~ん?」
「ホ、ホントだよ! お、面白い本買ったんだよ!」
「へえ~? 面白い本ねえ~?」
「ガキ、ちょっとリュックの中身見せろ」
「ちょ、ちょっと雷星! やめてよお!」
「おおーっと、雷星刑事の取り調べに荒波容疑者、早くも音を上げましたあ!」
英星にかかれば陽キャもゆでだこに変化する!
次回もお楽しみに!




