陽キャ現る!
無事にハイキングも終了!
あのねえ! どこが無事なんだよ!(紫電談)
ハプニング続きだったハイキングもやっとこさ終わり、僕らは街に戻ってきた。
山頂では遠鳴りにしか聞こえていなかった喧騒に再び飛び込む。
――飛び込んだ先のファミレスで、僕は紫電にランチを奢らせていた。
「このチーズインハンバーグおいしい――っ!」
「ありがとう英星! 喜んでくれて嬉しいや!」
なんでご馳走になるこちらがありがとうと言われるのか。
紫電の人の好さが心配だ。悪い奴にコロッと騙されなければいいんだけど……。
しかしこのチーズインハンバーグはチーズが濃厚でいくらでも食べられるぞ。
ああ、舌の上でチーズがとろける……。
こんなおいしい物を奢ってくれる紫電はホントにいい子だ。
お兄ちゃんはピザを1枚頼んでいた。
僕は紫電のスマホをいじらせてもらい、次に買うべきマンガをサーチする。
あーあ、スマホ持ってくればよかった。
自分のスマホは神界に置きっぱなしだもんなあ。
一体誰だ、こんな準備で人間界の見学計画を決行した奴は。
「……この『穴だらけの一家』って漫画面白そうだなー。紫電はどう思う?」
「うん、その漫画面白かったよ! 家にはあるんだけどなあ……。電子書籍で今買ってもいいけど。お金なら腐るほどあるし」
「ええっと、それは嬉しいんだけど、僕は紙の本の『買った感』が好きだから。それに電子書籍に帯とかついてないじゃん?」
「ワガママだなー…………じゃあさあ」
「で、これからどうひまふ?」
お兄ちゃんがピザを頬張りながら会話に割り込んできた。これからどうするかを訊きたいらしい。
せっかく人がお喋りに花を咲かせていたのに、この鳥とことん空気が読めぬなあ。
未来のことなんて、なるようになるじゃないか。
「ヌンの奴が落としたダルボワ文字のスペルも試せてないしなあ」
お兄ちゃんがクッチャクッチャとピザを咀嚼しながら続ける。
きったねえな。
……でもそういえばそんなのあったな。すっかり失念しとったわ。
「英星お前まさか忘れてたとか言わないだろうな」
――どきり。
「はいへい、ほっひへもひいひゃん。わふれへはにひへもへいへいはひいよ」
ナポリタンを限界まで頬張った紫電が答える。こいつ今なんつったんだ?
これはさすがに解読不能。お前またハムスターみたいになっているぞ。
「……んぐっ……雷星、どっちでもいいじゃん。忘れてたにしても英星らしくて……という旨のことを」
こいつあれだけの量のナポリタンを一瞬で丸呑みに……?
ハムスターからアナコンダに突然変異しよった。恐ろしや。
―――
舌と胃袋を満たした僕らは、ファミレスのガラス扉を出た。
膨れたお腹と、春の柔らかいそよ風がちょっぴり眠気を誘う。
――――その時。
「ふんふんふーん♪」
ピンクのランドセルを背負った碧い髪の少女が、ハミングしながら歩いてきた。
何かいいことがあったんだろうな……って、これは。
――魔力か?
というのも紫電とどこか同じ、波動のようなものを感じたんだ。
「ね、ねえ!」
すれ違う瞬間、すかさず声をかける。
「なーに?」
碧い髪の少女はこちらを振り返った。綺麗なミディアムストレートの髪。長い手足に、160センチいっているんじゃないかという程の高い身長。ランドセルを背負っているのが不思議に思えるぐらいだ。僕よりも紫電よりもずっと高い。何より……胸。そう、胸だよ! 小学生とは思えないぐらい突き出ているんだ。きーっ! 呪ってやるう!
それに加えて、アクアマリンのペンダントをしていた。……多分これはガラスか何かで作られているんだろうな。
「どうしたの英星? この子に用事?」
「え……あ、うん。少し」
「……待って! ボクも用事がある」
お、紫電もこの子の魔力に気づいたか。だんだん冴えてきたな!
「スマホスマホ」
そう言うと紫電はおもむろに碧い髪の子の正面に回り込み、はーい笑って、とスマホカメラのシャッターを切りだした。碧い髪の子もピースサインで応じる。
「……紫電くん何やってるんだい?」
「小学生ボンキュッボン萌え~。これは写真撮っとかなきゃ。しかも可愛いって最強!」
――――紫電のスマホにはアルバムアプリの画像消去の沙汰が下った。他の画像も全消去だ!
「ああっ! 何するのお!」
「何するのお、じゃねえこのナチュラルすけべ! 人を堂々と撮る奴があるか! 時代を考えろ時代をッ!」
「けち」
「君も君だよ? 個人情報が思いっきり搾取されてんのに嬉しそうにピースしないの」
「えへへ、後で訴えようかなーってね。ポーズさせられて写真まで撮られましたーって。慰謝料たんまりーっ!」
ミラクルスーパーヘビーワードに、紫電が凍った。
「ウソだよ~! 本気にするなんてカワイイ!」
「え、ホ……ホント?」
紫電のバカ! なに照れてんだ!
まあこの碧い髪の子はかなりの陽キャなんだろう。
その陽キャに紫電が訊く。
「ところでさあ、何かいいことあったの? ハミングしてたけど」
「今日ね、学校を仮病で早退できたの! だからゴッキゲーン!」
「うーん、学校の先生には明日正直に言おうね……」
「それと通りすがりの人に本もらったんだ!」
「へえー、本を?」
紫電と陽キャは取り留めのないことばかりを話す。
早くキルンベルガーを倒さにゃならんのにこいつら――――ッ!
「ねーえ? 僕ともお話しないー?」
「いいわよー? で、何話すの?」
業を煮やして会話に割って入ると、陽キャはしれっと答えた。
「……ここじゃ目立つから……ちょっとこっち来て?」
……いよいよ陽キャの中に眠る魔力の存在を話す。
紫電みたいにすんなり受け入れてくれるといいんだけど――――。
気になるキャラが登場!
次回もお楽しみに!