英星らしい即決!
何やら話し合う英星たち。
英星は頭を使えるのか?
「……キルンベルガーが!?」
「誰その人偉いの?」
「紫電お前なあ、『なにそれおいしいの?』みたく言うなよ……」
「まあまあ。アクセル・キルンベルガーは死神族の王。かつて神界を壊滅寸前にまで追い詰めた騒乱を起こした張本人よ。お兄ちゃん、それで?」
「確かにそのキルンベルガーが復活したという噂を聞いた辺りから、死神族が出た、っていう人間界の警備担当の報告がちらほら出始めて、我々神族が討伐に駆り出されるようになったんだ。私は神界で事務してたんだけど」
「でも……噂でしょ?」
「それがな、たかが噂と切って捨てるのもどうかと思う。神界じゃなくて人間界を狙ってるのが不可解だが、奴らにとって敵はどちらでもいいのかもしれん」
「それ何年前の噂?」
「私が聞いたのは3か月前だが、噂自体はかなり前からあったらしい」
「へえー、神族って人間界にもいるの? ほら、報告って言ってたけど」
「うん。その辺の空を監視員が飛んでるのよ。人間界に介入することは滅多にないけど」
「ロマンチック――――っ!」
瞳を輝かせてのロマンチック発言に驚きながら、僕はこの先のことを考えていた。
これからどうする?
神界への帰り道のゲートも閉じられたし……行き当たりばったりで進んできたけど、う~ん……。
「そのキルンベルガーさんを倒しに行こうよ」
「……はあ!?」
僕とお兄ちゃんは、ほぼ同時に胡乱っ気全開の返事をしていた。
「だってそうすれば英星目立つよ! きっと神界へのゲートも開けてくれるって! その辺の空を神族がふーよふよふーよふよ風船みたいに飛んでるんなら尚更! 『あ、神族が地上にいるのに取り残しとったわ~、てへっ☆』みたいな感じで!」
――色々突っ込みたいところがあったが、面倒臭そうだったのでやめといた。
しかし紫電はポジティブだなあ。
でも、もし……もし、キルンベルガーを倒せたら……。お兄ちゃんもいるし、少しはまともに戦えるかな?
…………よし!
「目指すはキルンベルガーの首ただ1つ!」
「お――――――――っ!!」
「お、おいお前ら! キルンベルガーがどれだけ強いか知らないだろう! 伝承によると……!」
「大丈夫! いきなりそんな大ボスが出てくるわけないし。それに旅をする間にゲートがまた開くかも知れないじゃない? 紫電みたいにスペルの素養がある仲間も増えるかも! どのみちキルンベルガーを倒さないと平和にならないんでしょ?」
「そんなにうまく、」
「いくいく! 絶対うまくいく!」
お兄ちゃんは、その自信はどこから湧いてくるんだあ~、と妄言を吐いていたが、僕は本気の本気だった。
神界に帰るには旅を続け、死神族を倒していくしか考えつかなかったからだ。
「まあ……旅をしてれば私が元の姿に戻る薬が見つからんとも限らんか……」
「そーそー!」
「……ふぁ……ねむ…………」
「あら紫電。もう寝る?」
「うん……だって夜の12時過ぎてるんだよ?」
紫電はそう言うと、スマホの時刻を見せてきた。ホントだ。時が経つのはあっという間だ。
今日も色んなことがあったなあ。
さて……問題が1つ。
毛布が1枚しかないんだよね。
紫電は死にかけたし、傷は塞がっても出血の痕が色濃く残っている。消耗しているだろうからここは紫電に毛布を……。
すると紫電は毛布を広げ、
「はい、英星。一緒に入ろう」
と自らはその片方に包まり、もう片方のスペースを差し出してきた。
「え、えええ、え?」
「い、嫌だった……?」
「め、滅相もないですうううぅ! 入らせて頂きますうううぅぅ!」
「コラコラ紫電、お前! 2日連続で私の妹に手を出す気か!」
「え? 弟でしょ?」
「そうだった! 弟!」
「昨日の夜だって英星とは一緒に寝たよ?」
「あんまり一緒に寝たとか言わんでくれ」
「なんで?」
「なんででも! この世には不文律というものがあるのだよ」
「もう! お兄ちゃんったら! 僕なら大丈夫だってば。紫電が僕を襲ったりするわけないでしょ? むしろ僕は襲う側だし」
「お前まで襲うとかいう言葉を遣うなあッ! あ~いかん! 変な想像が……!」
――もうその辺の虫は寝ている時間だ。安眠妨害で訴えられないか心配だよ。
「じゃ、英星一緒に寝よ!」
「はーい! じゃ、お兄ちゃんは1人寂しくおやすみなさーい!」
「うう……最愛の弟を返せえ……!」
まだなんか言っているけど、無視無視!
紫電が開けてくれているもう半分に包まる。顔を見ると、もう既にウトウトしていた。瞼が半分しか開いていない。
紫電の眠たそうな顔……カワイイなあ。
間もなく紫電は眠りに落ち、すうすうと無防備な寝息をたて始めた。
よし、今なら紫電は無抵抗! さっそく襲ってやろ……う…………?
――あれ? なんか……僕も眠たい……続きは……また……今度…………。
―――
どれぐらい寝ただろうか。
僕は紫電のうなされる声で目を覚ました。スマホの時刻を見ると、4時を回っている。
「パパぁ……待ってよパパぁ……! 独りに……しないで……よぉ…………!」
――――あの糞親父の夢……か。
ああ……紫電も帰る所が無くなっちゃったのに、ずっと励ましてくれていたんだね……。
僕、自分が帰ることしか考えてなかったな……。
「大丈夫だよ、紫電」
語りかけて、額の汗を優しく拭う。
春の肌寒い夜が明けようとしていた。
心優しい英星。
次回もお楽しみに!