死を司る王
今回はお兄ちゃん成分が多めらしい……?
僕は紫電に話した。ソラが実は雷星お兄ちゃんだったこと。
そのお兄ちゃんがデューク・フィレゾーを丁か半かで何とか追い払ったこと。
そして、紫電の大怪我もスペルで治してくれたこと――――――――。
「…………てなことが紫電が死にかけてた間に起こったの。解った?」
「いてててて……さっき星を通り越して銀河が見えたよ……」
「こらー! 先生の話はちゃんと聴く!」
「あてっ!」
紫電に英星先生の投げたチョークが命中し、のけ反る。これを起点に連続コンボに繋いでやろうか。
「英星! いつの間に学校の教師の職を得てるんだよ! てか、ここどこの学校?」
「焦げて丸禿げの森小学校」
「……うーん、もっとマシな名前を付けてやろうよ。あれ? ひょっとして英星、この森のこと……」
「うふふ、吹っ切れちゃった」
「………………」
お兄ちゃんは僕を瞬き1つせずにじっと凝視する。
うん……そうなんだよね。ホントは想い出の森がこんなにズタボロになって、まだ結構引きずっているんだよ……。
お兄ちゃんにはすぐバレる。生まれた頃から付き合いが長いからなあ。
――ま、紫電にはバレなかっただろう。
「……英星、悲しい時は無理しないで。大丈夫だよ。ボクも想い出の森がこんなになってまだ悲しいし。悲しい時は無理しない。……約束ね!」
……まるで爆弾でも爆発したかのように。「ぼんっ!」と音を立ててときめきが一気に沸点に達した。
僕は頬、耳、首……全身を真っ赤に染めて、目をゆっくりと閉じる。
一面に広がるコスモスのお花畑の中、僕と紫電が笑いながら追いかけっこしている。
待ってよー英星ーっ!
あはははっ! 紫電! こっちにいらっしゃい! きゃっ!
英星っ! 危ない!
あ……ありがとう紫電……躓いちゃった。
いいんだよ英星。ボクは……英星、君が欲しい。
ああ……紫電……ずっとその言葉を待ってたよお…………。
「ぶっ!!」
「わああっ! 英星が鼻血を!」
「マセてんなこの神は……」
「え、英星どうしたの? 大丈夫?」
「紫電~、こんな所で告白なんてえ~……大胆なんだからあ~……」
「英星。お前血まみれだぞ」
「こ、こくはく……? 英星、ボクたち男同士だよ? ねえ雷星どうしよう! 英星がおかしくなっちゃった!」
「こいつはもとから色々おかしいんだよ」
「だ、だめえ……僕らまだ子供だよお……紫電……」
「英星? 目を覚まして英星!」
「し、紫電! こんな所で! ぼ、僕まだ心の準備が……! あんっ! 何するの!」
「しょうがないな……。紫電、お前の木刀貸せ」
「い、いいけど……?」
木魚を叩いたような音と、後頭部に走る激痛で僕は我に返った。
「あいったぁ――――――ッ! なんてことすんの馬鹿兄貴!」
なんか遠い世界で夢のような気分に浸っていた気がする。
「大丈夫……英星?」
「いたい……いたいよお紫電……お兄ちゃんがいじめるよお……」
「安心しろ。お前の頭は頑丈にできとる。ちょっとやそっとでは壊れん!」
「それどういう意味ー? って、あれ? なんで僕こんなに鼻血出てるの?」
「いやいやいや! 本当に覚えてないの? 英星……」
紫電が半ば呆れ顔で尋ねる。
「うん。ま、まさか死神族がまだどこかに潜んでて、そいつらの攻撃かも!」
「じゃあそういうことにしといてやるよ」
死神族に身構える僕に、お兄ちゃんは面倒臭そうに溜息をついた。
―――
……気を取り直して。
「ねえ、お兄ちゃんはなんで僕の使い魔に化けようと思ったの?」
鼻にティッシュペーパーを詰めてお兄ちゃんに訊く。
「そりゃあ、お前が心配だからに決まってるだろう。最愛のいもう……弟が人間界をたった1人で見学するんだ。竜化の秘薬を飲んで、使い魔に志願した」
「へえー、竜化の秘薬ねえ。あれ結構いいお値段したような」
「そう。竜化すると声も変化するんだよ。英星も気付かなかったようだな」
「お兄ちゃん」
「なんだい?」
「今しがた僕の疑問が華麗にスルーされたけど、以前僕の部屋の貯金箱が勝手に割られてたんだよね。で、中身が竜化の秘薬分ぐらい無くなっちゃってた」
「ありゃりゃ……そんなことが」
「その犯人が今すごく近くにいる気がするんだ」
「はっはっは。気のせいだろ」
「ひょっとすると目の前かも」
「明日も早いんだ。早く寝るぞ」
「この泥棒鳥――――――――ッ!」
「ギャ――――――――――ッ!!」
「英星! ストップストップ――――――ッ!」
紫電が僕の腕を押さえて《ブラッディキャノン》の発動をなんとか止めたおかげで、僕は実兄を手にかけずにすんだ。
「だってあれ高いんだもん! 私の安月給じゃ家賃食費、それから光熱費で全部無くなるんだぜ!」
「知るかっ! 日頃から散財しすぎなんだよっ! てか、あのデススライム戦ではどうして逃げたの! あれぐらいお兄ちゃんなら……!」
「初めて見る死神族にビビったの! さっきはお前の危機でなんとか勇気を振り絞った」
「シスコ……じゃない、ブラコンかよ……」
「しかもだな……」
「えっ! まだなんかやらかしたの?」
「元の姿に戻る薬買い忘れた」
「………………愚か者」
「まあ神界に帰るまではこの姿だな! でも、死神族に関する少し気になる情報も仕入れて来たんだぞ? 死神族が多すぎると思わんか? 最近」
確かにそれは僕も気になるところだった。人間界がこんなに物騒だったなんて聞いてない。デススライムといい、ヌン・ヌヌヌンの間抜けといい、存在自体がおかしすぎる。デューク・フィレゾーきゅんなんて、冒険序盤でラスボスが出てきたような場違いな強さだったし。
「いいか? これは私がある使い魔から聞いた話なんだが……死神族の王、アクセル・キルンベルガーが復活したのを見た奴がいるらしいんだ」
またスゴそうな名前が出てきた!
次回もお楽しみに!