ほぼほぼ心肺停止
突如現れたお兄ちゃんによって窮地を脱した英星たちだが……?
「お兄ちゃん!」
「よかった、うまくいった。本当は時間がなくて中級神聖系スペルの《ホーリーブラスト》の綴りしか書けなかったのよね」
「お兄ちゃーんッ! 怖かったよーッ!」
僕は目に涙を溜めに溜めて、目の前の兄に抱きつき、泣きじゃくる。
「ははッ! お前が突っ込まないなんて珍しいな英星!」
「だって……、だってぇぇぇ――――――ッ!」
「……そういえば紫電のガキは?」
「そうだ! 紫電!!」
僕らは紫電に駆け寄ったが……重傷を通り越して心肺停止に近かった。
右側頭部がぱっくり裂けて出血しており、開きっぱなしの両目は虚ろで光がない。身体中青あざだらけで、深く痛々しい切り傷がそこかしこに見られた。更に、右足が折れているのか、脛が途中から身体の前方に曲がっている。荒波紫電は今まさに黄泉へと旅立とうとしていた。
「紫電! 紫電!」
僕の呼びかけにぴくりとも反応しない。
身体に触れて、思わず「ひっ!」と怯えた声を出してしまった。
身体が……身体が冷たい!
「辛うじて……まだ息はあるようだな……」
「お兄ちゃんどうしよう! 紫電が死んじゃう!」
「まかせろ。綴りを書く!」
綴りを書いたお兄ちゃんの体から眩い光が発せられる。神聖系回復スペル《キュアライト》だ。
――――しかし瀕死なためか、なかなか傷が塞がらない。
「お兄ちゃんもっと頑張って!」
「……頑張っとる!!」
お兄ちゃんがありったけの魔力を注ぎ込み、更に体から光を発する。
「これでどうだ――――――――ッ!」
「もっと! もーっと頑張って!」
お兄ちゃんは最後の力を振り絞ると、くるりと回ってその場に伸びた。
「もうすっからかんどすえ……!」
「紫電!」
「……あ………………う…………」
光が戻らぬ瞳のまま、紫電が呻いた。
「……これで危機は脱した。後は……時間が経てば……ゼエ……ゼエ…………」
「よかった……! よかった……!」
ぎゅっと紫電を抱きしめる。
「……えい……せ……い…………? いい……にお……い…………」
ぶっ飛ばしたくなったが、なんとか堪えた。相手は重傷者だ。
「英星……あいつは……? さっきの……敵……」
「大丈夫よ紫電! 話すと長くなるんだけど、なんとか追い返した!」
「ほらね……英星は強いんだから……どんな時も諦めちゃダメだよ……」
その言葉を聴いた時、何故か涙がぶわわっと溢れてきた。
「う……うんっ! そだね……ぐすっ。うっ……うっ……!」
「英星、神であるお前が諦めたら奇跡も何も起きないからな! そこだけは言っておくぞ!」
紫電の顔色もだいぶ良くなってきた。僕の胸に顔をうずめて、すんすんと鼻を鳴らしている。
あれ? 紫電も泣いている……?
「うーん……英星……やっぱりいい匂いだ……」
「ぎゃ――――――――――ッ! 変態――――――――――ッ!」
「ふごぉっ!?」
しまった。とうとうぶっ飛ばしてしまった。紫電はバトル漫画のように何度か派手に転げたのち、近くにあった岩に頭から思いっ切り激突。岩に大きなヒビ入っちゃったけど大丈夫だったかな。
ま、いいや。僕は悪くない。
「ぃい痛ったあ――――――――ッ! ちょっとやめてよ! ボク死にかけ……て、あれ? 立てる……」
「紫電! 我が妹に手を出すなど100年早いわ――――――――ッ!」
「わ、我が妹って?」
「あ、いや、弟」
「英星がソラの弟……?」
「ま、紫電も元気になったみたいだし。……あ、やっと雨降ってきたね。話の続きは木陰ででも」
「ヌンの奴にだいぶ燃やされちまったけどな。紫電! 行くぞ!」
「もー、なんなんだよーっ!」
なんとか回復した紫電!
次回もお楽しみに!