アホVS天才
英星と紫電が愛の合体!
僕は足元の芝生をスニーカーで踏みしめる。今の僕らは2人で1人。一心同体!
『ねえ英星。ボク英星と一つになれて嬉しく思うよ』
身体から紫電の声がする。ありがとう紫電。紫電の表現は少しエロいけど僕も同じ気持ちだよ。
「な、何あれひょっとして姫様と紫電くん?」
クラリスが信じられないといった様子で声を上げる。
僕らは自分たちの外見が気になり、すぐさまカースで氷の板を目の前に創り出し、チェック。なるほど髪は黒の短髪ながら前髪に赤のメッシュが入り、瞳は左が藍色、右が赤色のオッドアイ。年齢は12歳前後で、性別は中性的だが凛々しい顔立ち。まさしくこの世の救世主にふさわしいな。服はもともと着ていた柄を混ぜたTシャツにハーフパンツだった。
「わたしを舐めるな!」
スペルの気配を感じ、僕は空中に飛翔した。あっさりとスペルをかわされたダルボワの目が驚愕に見開かれる。ダルボワが放った雷の弾は無事パパに命中し、死神族の王を真っ黒に焼く。
ふふふ、今の僕は紫電の飛翔能力も使えるのだ! パパはちょっと心配だけども。パパのもとにはデュークやワイズマンが集まり、救護班を呼んでいた。
『終わりだダルボワ! お前の攻撃はこの川上英電には通用しない!』
『ちょっとちょっと! 川上英電じゃなくてこの身体は荒波紫星でしょ? 間違えないで!』
自分の身体から突っ込みが返って来た。僕はすぐさま反論する。
『川上英電だって! 荒波紫星なんて僕の名前4分の1しかないじゃん!』
『違うよ荒波紫星だよ! 英星なんて4分の1で十分だ!』
不毛な言い争いが始まった。
『じゃあもう川上英星でいいじゃん!』
『そんなの嫌だよ! 荒波紫電がいい!』
はっと思って前方を見ると、ダルボワが空中に浮かび上がって来ていた。僕と同じ高度だ。ダルボワは――さすがに激昂していた。逆立った髪が真紅に染まっていく。高速でダルボワ文字の綴りを刻んでいた。
「わたしをここまで怒らせたのはお前らが初めてだよ。せめてもの慈悲だ。痛みを感じるまでもないよう瞬殺してやろう。《ディストーション》!」
空間が紅く歪み、そこに生じた重力波が僕を吸い込む。
『川上英星だよ!』
『荒波紫電だってば!』
依然として口喧嘩は続く。
「せっかく合体したのに……心を一つにして下さい! レイチェル様たちがやられたらみんな死んじゃいますよ!」
デシューが地上からメガホンで檄を飛ばした。
僕は腰に差していた竜剣デストロイアを抜いた。性能は竜槍ラースと荒波の剣を合体させた感じ。
『はぁっ!』
僕は歪みを縦に断ち斬った。魔力エネルギーの紅い残滓が血飛沫のように中空を舞う。
「面白い。わたしの禁呪を斬るか……ならばこれならどうだ!」
ダルボワは華麗に1回転すると、杖を突き出してこっちに突っ込んで来た。――速い! そして杖に施された何らかの封印を解く。ダルボワの神器はみるみるうちに変形し、白く輝く槍へと姿を変える。
「我が聖槍アブソリュートによる一撃を食らえ!」
ダルボワが変形させた槍もろとも突っ込んで来た。
僕は身体を貫かれる寸前でかろうじてダルボワの攻撃を受け流す。あんなの食らったら身体に大穴が開いてしまう。
ダルボワは勢いをそのままに空中で身体を反転させると、またこっちに突撃してくる。
『このままじゃそのうちやられちゃうよお!』
紫電の泣き言が僕の身体から聞こえてきた。
『うるっせえぇぇぇぇぇぇ! んなこと解ってんだよちょっと黙ってろ!』
紫電を黙らせてからの3合目。僕はダルボワの攻撃を真正面から受け止めた。……が、圧倒的な力の差に押し込まれる。
「ふふふふ、わたしと力勝負か……愚かな! 所詮お前のようなクズにわたしのような天才様は倒せん!」
『ぅうううううっ! 確かに僕は少しばかりアホかもしれない。……でも! 負けない! 負けないぃぃぃぃぃぃぃっ!』
僕は圧倒的に鍔迫り合いで押し負けていた。《ブラックフュージョン》を使ってもなおダルボワと僕とではこんなに力の差があったなんて。ダメだ、このままじゃやられる……! みんなごめんよー!
「少しばかり? お前は十分すぎるほどにアホだよ! 自分を俯瞰して見ることもできない大馬鹿者が!」
これがダルボワの致命的な失言だった。
「ぐほおおおおおぉおぉっ!?」
《クリスタルガード》に開いた穴を通り、ダルボワのみぞおちに私の剛拳が突き刺さる。
『そなた。今私に馬鹿、それも大馬鹿者と申したな?』
硬質化した腕の筋肉で《クリスタルガード》もろともダルボワを殴り落とした。愚かな神が地上に大の字になって跳ね上がる。
「げふぅっ……!?」
私は「馬鹿」と呼ばれることで死と殺戮の女神として覚醒するのだ。私はすぐさま愚かな神を追う。
「ひえええ! 姫様がとんでもないことに! でも……今はこれでいいかも?」
少女クラリスが瞠目しながら叫んだ。ふん! 私は川上英星。死と殺戮の女神。世界の平和など知ったことか! 今は私を大馬鹿呼ばわりした真の大馬鹿を滅すのみ! 勢いにまかせてダルボワの胴体を叩き斬ろうとして……できなかった。ダルボワがすんでのところで聖槍アブソリュートを構えて受け止める。
せいぜい楽しませてくれよ天才様とやら。
「面白い。わたしをここまで追い詰めたのはお前が初めてだよ」
私はくつくつと嗤う。
『くくく……その減らず口……どこまで持つかのう?』
「英星……あたしどっちを応援したらいいのか解んなくなってきたんだけど」
少女粋が寝言を抜かした。我が父風に言えば《そういう寝言は死んでから言え》だ。
「よし! ダルボワが弱っておる! 《アクセル・キルンベルガー様の激おこぷんぷん乱舞》をもう一度!」
「やめて下さい恥ずかしい!」
少女クラリスにそう怒鳴られ、父はひどく落ち込んだ。
ダルボワは形勢不利とみたらしく、鍔迫り合いの体勢から光に包まれ姿を消す。おのれ逃げよって。どこに行ったのか……。
「人間界の紫電お兄さんの街です……! 賢者の書がそう指し示しています」
これは誰の声だったか……?
私が声の主に振り向けば、そこには王児少年が立っていた。……そうか。ダルボワに火だるまにされてしまったが、生き延びたのだな。
「王児……王児――っ!」
少女粋が王児少年に抱きついた。私の治療のおかげだな。少女粋め、鼻水をだらだらと垂らしおってからに。
「王児の馬鹿! 心配したんだから……!」
私に馬鹿と言った訳ではないのでよしとしよう。
「すみません……粋お姉さん……」
私は少しばかり微笑んだ。……しまった、私は死と殺戮の女神。これではまるで別物ではないか。
死神どもを眺めまわした私は声を張り上げる。
『よく聞け死神の配下ども! 私はこれより愚神ダルボワを追って人間界へと行く! お前たちはここで待っていろ! ついてくるだけ邪魔なのでな!』
瞬間移動するのもお手の物だ。私は光に包まれ姿を消した。
人間界の紫電少年の街に降りると、黒い煙が真っ昼間のビル街を炎に包んでいた。ダルボワがいるのは明白。なんと解りやすい。私は更に接近するべくもう一度、瞬間移動する。
『わあぁ、ボクの街があ!』
身体から紫電少年の声が聞こえた。いいから今は黙っていろ!
「あれ、もう来たの!?」
炎の中でひときわ紅く輝くダルボワが目を見張る。
『もう来て悪いかこの愚神めが!』
『そうだよ! ボクの街を元に戻せ!』
足元では大通りの交差点で蜂の巣をつついたように逃げ惑う無数の人々がいた。あちらこちらから悲鳴が聞こえ、煤が舞う。電線が閃光を発して切れた。
「お前の街を元に戻せって? や・だ!」
ダルボワは憎たらしい顔を作って舌を出した。どこまでも私を侮りおってからに。
一方で地上から私を見た人々が口々に驚嘆の声を上げる。
「なんだあの黒髪の少年と紅い髪の女は!?」「破壊神みたい……!」「少年のほうも女のほうも綺麗だな」
言っとくがこの身体は少年ではなく少女の身体だ! まあよい。最後の「綺麗」という褒め言葉に免じて人間どもには危害を加えないでおこう。
ダルボワが槍の穂先を輝かせた。杖から槍に変わっても神器は神器らしいな。
「こいつらの相手でもしておきな!」
穂先の光から現れたのは――神族の弓兵だった。弓を引き絞り、矢を射てくる。私は驚いた。こやつ……命を創造している。それも望まれぬ命。なんと驕り深いことよ。
私の剣閃で矢など好きに落とせるが、生まれてくる命は止められぬ。止める手段はただ一つ。あの驕慢の愚神を討ち果たすこと。
私は弓兵の背後に瞬間移動して首を飛ばすと、ダルボワを睨めつけた。不遜にも奴は次の命を生み出していた。次生み出されたのはゴーストデススライム。当時は苦戦したがもう私の敵ではない。私は正面から叩き斬った。
「ならばこいつを斬れるかな?」
次に生まれてきたのは――ワイズマン!?
「ひ、姫!?」
「ただ生まれてきただけではないよ? 記憶、行動パターンがすべて同じワイズマンそのものだ! はたしてお前に斬れるかな?」
『そんなの卑怯じゃないかあ!』
身体から紫電少年が喚いた。ええい、だから少し黙っておれ!
「姫といえども立ち塞がるのであれば容赦はしません!」
――違うな。
逡巡するまでもなかった。私はワイズマンの形をした人形を斬り伏せる。ワイズマンは真っ二つに斬り裂かれ、消滅。ダルボワが信じられないものを見たといわんばかりに目を丸くしていた。
「お、お前正気か!? そいつはお前の配下だぞ! 血も涙もないのか!」
やれやれ。どの口が言っておるのだ。
『ワイズマンなら……本物のワイズマンなら大人しく道を開けるか一緒に協力してお前を打ち倒すだろう。私たち死神族の絆を甘く見るな!』
ダルボワに斬りかかるが、またしても思わぬ敵が行く手を阻んだ。赤いマントを翻し、甲冑を身に纏った死神の巨人。手には大剣を携えている。
――父か!?
思わず目を疑った。あれは紛れもなく私の父、アクセル・キルンベルガーの形をしている……!
「レイチェルか……。叩き斬ってくれる」
……ふっ。またか。私は竜剣デストロイアで父もどきを軽く薙ぎ払った。赤々と燃える交差点で、私は死神族の王もどきをさくっと成敗する。
『さあそろそろ終わりにしたいものよ』
「あはは、そうだね!」
ダルボワの不穏な一言とともに視界が暗くなっているのに気付いた。こ、これは……?
『英星! 上だ!』
紫電少年の言葉に従い上空に目を向ける。
そこには大きな紫色のエネルギーの塊が浮いていた。ダルボワが密かに創っていたのか。おのれ猪口才な!
「さようなら。楽しかったよ? 馬・鹿♪」
私の脳内で血管が切れる音がした。直後、猛烈な勢いでエネルギーの塊がこちらに降って来る。こんなもの瞬間移動で……! そこに黒い影が正面から這い出てきて、抱きつかれた。闇の力が私の身体を蝕む。何故だ? 瞬間移動ができない……!?
「補助スペル《シャドウ・オブストラクション》。お前たちの瞬間移動は封じさせてもらった。……成仏しろよ?」
ダルボワの勝ち誇った笑み。その魔性の微笑みを見ながら、私の意識は闇へと落ちていった――
――せい……えい……い……えいせ……い……えい……せい……えいせい……英……星……英星……英星!
誰の……声……? 全身が痛い……痛いよう……。僕は瞼を開ける。赤い髪の人が僕の顔を覗き込んでいた。……紫電!
「紫電っ!」
「言いたいことはそれだけか?」
「えっ?」
声を上げると、ダルボワが僕の喉元に槍を宛がっていた。真紅に染まったダルボワの髪。MI・MA・CHI・GA・E・TA! 今までで一番恥ずかしいし気まずい。
馬鹿の一言による殺戮モードも解けてしまっているし、《ブラックフュージョン》も解けている。絶体絶命じゃん! 眼球だけで辺りを見回すと、僕は大きなクレーターの中心にいるようだった。きっとあのエネルギーの塊が直撃した衝撃でできたクレーターだろう。まあ服はちゃんと着てるしよかった……かな?
「これからお前はわたしにさんざんいたぶられ、まず臓腑を引きずり出される。その後眼球をくりぬかれ、手足をもがれ……あーあ、かわいそうに」
全然よくない! ダルボワも肩で息をしているから消耗しているみたいだけど……まだ《クリスタルガード》もうっすらと残っている。
「そうだなぁ。まずはその肌を裂こう。あははははははははっ!」
ダルボワが聖槍アブソリュートを逆手に持って振りかぶった。
「――英星っ!」
身体がふわりと浮いた。空を飛んでいる。顔を上げると紫電が僕の両腋を持って飛んでいた。どうでもいいけどくすぐったい。
「英星! 大丈夫?」
「し、紫電……怖かったよお~!」
紫電は鞘に荒波の剣を差していた。僕はある焦燥に駆られる。
「竜槍ラースは!? 竜槍ラースは!?」
「竜槍ラースなら……竜剣デストロイアから分離した時、ボクの剣は無事だったんだけど、その……見てないんだ。ごめん……」
「なんで紫電が謝るの? 紫電は悪くないよ! 全部あいつが……!」
爆発音とともに視界が激しく揺れた。紫電が呻き声を上げ、僕らの高度がみるみる下がっていく。
「紫電っ!?」
「ぐぅっ……背中に被弾した……!」
正面に目を向ければ、大量の紫色の弾が僕らをものすごい勢いで追い越していく。
ダルボワが撃ってきているのか……!
僕らはアスファルトの上に墜落した。アスファルトを高速で滑って転がり、全身を覆う皮膚が削られていく。
涙を滲ませて立ち上がった僕の左腕を、紫色の弾の1つが直撃し――焼けちぎれた僕の左腕が地面に転がった。
――負けない! 腕1本どうってことない!
僕は涙をこらえて歯を食いしばる。
視線を正面に向ければ、ダルボワの膝が僕に迫っていた。みぞおちにダルボワの膝が食い込み、僕は悲鳴も上げられずに吹っ飛んだ。アスファルトを転がった末、みぞおちを押さえてうずくまりながら考える。
僕……やっぱり馬鹿だ……! 余裕ぶっこいてみんなを神界に置き去りにして……結果もう勝ち目がないところまで追い詰められてるじゃん……! 僕の頭脳は穴だらけだ……!
「いたぶるって言ったけど前言撤回。いい加減飽きてきちゃったな。お前ら結構頑張ってくれたけど、もうそろそろ限界っぽいね」
涼しい声でそう言いながら、ダルボワは高速でダルボワ文字を刻み始めた。つまり――禁呪だ。これで決めるつもりらしい。紫電がそれを凝視していた。何してるんだよ、ダメもとで止めろよ。
何故かダルボワが綴りを書き終わろうかというタイミングに、紫電は脇に垂れ下がっていた電線を持って突撃する。
「うおおおおおおおおおお!」
紫電はダルボワの《クリスタルガード》に開いた穴へと垂れ下がった電線を持って突撃。ダルボワに電線を押し付けた。ダルボワの全身がびくりと震え、感電する。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅっ! こんな小賢しい攻撃でわたしを止められるものかぁっ!」
ダルボワに蹴ったくられた紫電がこっちに飛んで来た。ダルボワは少し痺れて体勢を立て直そうとしているようだ。紫電……大丈夫?
紫電は噎せ返りながら起き上がり、僕の残った右腕を取る。
「……英星。最後のチャンスだ」
「な……何が?」
戸惑う僕に紫電は優しく告げる。
「君がスペルの禁呪を使うんだ。そうすれば勝てるかも知れない……!」
「僕が……スペルの禁呪を……?」
紫電は両手で僕の右手を持つ。
「さっき……ダルボワの綴りを覚えた……ボクが君の腕を動かすから君は思念を込めるだけでいい」
「ちょっと待って! 僕スペルなんて嫌だよ! そんな穢れた術は二度と使わないって決めたんだもん!」
紫電は澄んだ藍色の目で僕の両目を見つめる。
「英星。君のその意地と。世界と。……どっちが大事かな?」
紫電はにっこり微笑んだ。ダルボワは体勢を立て直そうと必死になっている。
「ボク。鳥頭なんだ。3歩歩いたら綴りを忘れちゃう」
僕は覚悟を決めた。
「――紫電。……お願い!」
「りょーかい姫様!」
紫電が僕の右手を持ち、ダルボワ文字を刻んでいく。ダルボワは麻痺から回復したらしい。
「――! お前ら! 何をしている!」
ダルボワの紫色の弾が僕らを襲うが、紫電が飛んで回避してくれた。間もなくして僕は綴りを書き終わる。これは別格の禁呪な気が……! 書き終えた綴りから赤い稲妻がバチバチと音を立てて迸っていた。
「行くよ紫電!」
「いいよ英星!」
「「――《グランドクロス》!」」
黒煙で暗く覆われた空が光った。直後、出現した十字の重力波がダルボワを《クリスタルガード》もろとも無慈悲に押し潰す。紅い愚神は声を上げることもできなかった。
眼前に出現した巨大な穴と白線が引かれたアスファルトの境目からダルボワの左腕だけが見えていた――
「やった……?」
「多分……」
「「……やったあああああっ!」」
僕と紫電は抱きしめ合い、飛びあがって喜んだ。瓦礫の隙間から人々も姿を現し始める。
終わったんだ――やっと!
「やった……」「やったぞ……!」「味方っぽい男の子たちが勝った!」「すごーい! でもボク左腕は大丈夫~?」
「やったね。英星」
「あはは。みんな勝手なこと言うなあ……!」
僕は右手で涙を拭いながら不安に思っていることを紫電に尋ねる。
「あの……あのね紫電。その……竜槍ラースが心配で……探しに行きたいんだけど……」
紫電は視線を落とした。
「ああ……実は竜槍ラースなんだけどね……これ……」
紫電が法衣の胸元から……折れた槍の穂先を取り出した。
そんな! 僕の竜槍ラースが!
視界が涙で滲む。足がふらつく。
「英星お姉さ~ん!」「英星ーっ!」
王児や粋も到着したようだ。でも……意識が遠のいて……。
「きゃあああああああああああっ!」
歓喜を切り裂く女性の悲鳴が遠くなった僕の意識を引き戻した。
僕はバランスを崩し、その場に倒れる。
どういうこと……? 足に力が入らない……! まさかと思って先ほど開けた大穴の方を見る。
「勝ち逃げは……させないよ……!」
ダルボワが……上半身だけのダルボワが浮いていた。
あれで生き残っていたのか……!
ダルボワは真空の刃を飛ばし、殺戮を開始する。
僕はいつの間にか右足の膝から下を真空の刃に斬り飛ばされていた。それでバランスを崩したのか。
「英星っ!」
覆いかぶさった紫電の手に竜槍ラースが握られていた。僕は紫電の手から竜槍ラースを奪い取ると、紫電をどけて目の前に構える。
「紫電お願い!」「姫様が大怪我してる!」
クラリスうるせえ!
紫電は一瞬で意図を察した。素早く僕に駆け寄って抱きかかえ、僕を正面に据えてダルボワに飛ぶ。
ダルボワが無数の紫色の弾を展開し、弾幕を張った。紫電は構わず一直線に飛んで行く。
「多少の被弾は我慢してよね英星!」
「ダルボワ――ッ!」
身体のあちこちに被弾し肉が弾けるが、痛がっている場合ではない。弾幕を強引に突破し、ダルボワに迫った。
愚神の唇が動く。
「久しぶりに楽しかったぞ――」
「ダルボワ!?」
次の瞬間。
僕らはダルボワの心臓を貫いた。
――次回もお楽しみに!