デューク・フィレゾー
神族始末屋ことデューク・フィレゾーと遭遇した英星たち!
いかにも強そうな相手だが……?
「ど、どうしよう。ヌンと違って強そうだよ……!」
紫電が弱気になるのも無理はない。
デュークの容姿を一言で言い表すならば、大悪魔といったところだろうか。筋骨隆々とした黒光りする肉体に、体中に生えた大きな棘。尾骨から伸びた長い尻尾を、縦の長さだけでも人間の大人3人分はあろうかと思われる巨大な翼が覆っている。何よりも眼が怖い。何日徹夜したのかと突っ込みたくなるほど、その両の眼は深い紅に染まっている。明らかに上位の死神族……!
「神界を追放になった哀れな神族がいるようだったからな。通りすがりに首を取っておこうと考えた。お前かな……?」
「なん……だって……! 英星を! 英星を侮辱するなあッ!!」
紫電がデュークに向かって駆け出した。いつもながら速い!
「ふん!」
デュークの掌から炎の弾がバルカンのように連続で発射された。
紫電はそれらを右に左にかわしながら、デュークめがけて疾走する。
「うおおぉおおぉおぉおぉ!」
紫電がデュークの懐に飛び込んだ。先ほど入手した荒波の剣を唸らせる。
「やああああああああっ!」
がきんっ!
……無情にも帰ってきたのは鈍い金属音。刃が通らなかったのだ。
なまくらというわけではなさそうな刀だったが……。
「えっ……?」
紫電から驚愕の声が漏れた。
そんな彼を無骨な手が襲う。
「わああああああああっ!」
デュークが紫電を鷲摑みにし、高々と掲げた。
「見ていろ見習い神族。こいつが内臓をまき散らし四散する様を……!」
紫電の小さな身体にぎりぎりと圧力がかかる。
「う……ぐ……あ…………!」
更にデュークの長い指爪が、紫電に深々と食い込む。皮膚が破け、身体の至る所から血が噴き出し始めた。
「ぎゃああああああああ!!」
「いいぞ小僧。もっと叫べ! もっと! もっとだ!」
焦土に血の海が形作られていく。
デュークと遭遇してから、ここまでかかった時間はまだ1分ほどしか経っていないだろう。
あまりに絶望的な状況に、僕は両手をついてへたりとその場に崩れた。
「やめて! もうやめてえ! 僕を……僕を好きにしていいから! お願い……紫電だけは……紫電だけは……!」
「だ……め……だ……! え…………いせ…………い……!」
「黙れ」
「…………っ!」
まるでボロ雑巾か何かのように地面に叩きつけられる紫電。
……もう悲鳴を上げない。
力が違いすぎる。順調に強くなっているつもりだった。でも、それは僕らの勝手な自惚れだったのだ。
血まみれの紫電はぐったりとして、動かない。
僕はその紫電を直視できず、顔を俯かせてなんとか正気を保っている。
デュークの気配が近づいてきた。……顔をゆっくりと上げる。
……大悪魔が嗤っていた。
「あ……ああ…………」
「雑魚が……お前の首から下だけ吹き飛ばすとしよう。俺が欲しているのは首だけなのでね」
デュークの掌が赤く光る。
「情けない奴め! 絶望に支配されるなッ! 戦い抜けッ!」
スペルによる障壁が眼前に出現し……デュークのカースから僕を護った。
デュークのカースは一瞬にして消滅する。
「なんだと……?」
「《スペルシールド》。神聖系補助スペルさね」
デュークの驚きの声に答えたのはソラだった。ずけずけと僕とデュークの間に入って来る。
「こ、このコウモリ! 邪魔しよって!」
「コウモリではない! ついでに言うと竜でもない……! ソラでもない!」
「え……!?」
「我が名は川上雷星! ここにいる英星の兄! 中級神族の雷星だ!」
そう叫んだソラの背中には、小さく十字のアザがあった。お兄ちゃんと同じような位置に。
「ウソ……お兄ちゃん……なの……? ホントに……?」
「話は後だ。さてデュークん、取引をしよう。私は今しがた《セイントクロス》の綴りを書き終わった。あの上級神聖系スペルの《セイントクロス》だ。無論君も反撃するだろうが、私は刺し違える覚悟だ。ここで私と果てるか? それとも逃げるか? 選びたまえ」
お兄ちゃんがかざした小さな手の先には、確かに神聖系スペルの綴りが刻まれていた。
「くっ……! 今日のところは見逃してやろう……!」
デュークは悔しげにそう言い残すと、闇に包まれ消えていった。
ソラの正体はまさかのお兄ちゃん!
次回もお楽しみに!