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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第15章》 いざ、最終決戦へ――
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土下座

王子おうじいきが夫婦喧嘩……! これからの結婚生活が危ぶまれる(冗談です)。

「オレはもう王児おうじじゃないんだよ。いきお姉さん♪」


 血の海に沈んだ粋を王児が足で無造作に転がした。

 王児の声に誰か別の声が混じっている……!

 もしかしてジャスティン・デイビッドソン?


「私はスパイ神族、ジャスティン・デイビッドソン。特技は相手の身体を乗っ取ること」

「うぅ……じゃあひょっとして父上にパラシティックモスの卵を産み付けさせた方法は……!」


 痛めた脇腹を押さえ、苦しげにいた紫電しでんにジャスティン王児は得意げに片眉を上げた。


「ご明察。パラシティックモスを操って直接産み付けさせた」

「ゆ……許さない……絶対に許さない……!」


 紫電の眉間のシワがこれ以上ないほど深くなる。ジャスティン王児は石畳の上の賢者の書を拾うと、王児にあるまじきかわいげのない邪悪な笑みを浮かべた。


「はははははは! 神器とは便利だな! こうすればよいのか? 《カースド・ストーム》!」


 僕は反射的に障壁を張った。


「なかなかよい反応だ! しかし。この王児とやらの身体には私の魔力が上乗せされていることを教えてやろう!」


 ジャスティン王児の《カースド・ストーム》が勢いを増す。

 ぐうううぅぅぅぅ……! 障壁がどんどん割れてきた。このままでは……!

 必死で障壁を張る僕の横を、身体を折り曲げた人物がふらふらとした足取りで通り過ぎていった。

 紫電か? 脇腹を押さえながら荒波あらなみつるぎを構える。


「紫電! 無理しないで!」

「無理も何も……このままじゃみんな吹き飛んじゃうじゃない……! 荒波の剣! こんな風は吸い込んじゃえ!」


 紫電が自ら障壁の外に出た。

 荒波の剣が《カースド・ストーム》をみるみる吸収し始める。刀身に呪いの風を帯びたそれはカースド・ソードに姿を変えた。

 紫電がカースド・ソードを振るう。呪いの突風にジャスティン王児の《カースド・ストーム》が消し飛んだ。いいぞ! そのまま押し切ってやれ!

 更に紫電は荒波の剣にある《カースド・ストーム》のエネルギーを放出する。


「ぎゃあんっ!」


 耳がつんざけるような悲鳴を発し、ジャスティン王児は近くに自生していたトネリコの木の幹に叩きつけられた。

 一瞬紫電の身体が大きく反り、黒く妖しい光が宿る。これはなんの光だっけ……?

 紫電の追い打ちは止まらない。荒波の剣を逆手に持ち、薄笑いを浮かべて王児の皮膚をざくざくと斬り裂いていく。

 ちょっとちょっとそんなにやったら王児が……!

 紫電は目を鋭く輝かせ、こっちに視線を送る。顔に飛び散った血をべろりと舐めながら、


「今度はこのガキの身体を乗っ取ったぞ……!」


 えー! まさかの闇墜ち紫電! ゴーストデススライム戦以来かも!


「あぁ、やっぱり悪そうな紫電も素敵ぃ……!」

「姫様!」


 クラリスからごつんとげんこつを食らい、僕は正気に戻る。

 いってー! クラリスめ、最近打ち解けてきたと思ったら……少しは容赦しろよ!

 ジャスティン紫電が剣を構えてゆらりと立ちはだかる。少し脇腹が痛そうだ。

 そうか。痛めたところは回復するわけじゃなくそのままなんだ。

 なんとかあれを利用できれば……。

 既にこちらは粋と王児が血の海に沈み、紫電も乗っ取られている。戦えるのは僕とクラリスのみだ。

 ジャスティン紫電は剣を逆手に持ったまま顔を引きらせて笑っている。瀕死の王児の首根っこをつかみ、剣先を喉笛にわせる。


「この王児とかいうガキの命が惜しければ――レイチェル・キルンベルガー! おとなしく投降しろ……!」

「くっ……! ひ、卑怯者! 姫様! 投降なんてダメですからね!」

「……ホントに……ホントに投降したら王児を解放してくれるの……?」

「姫様!」

「そうだなあ……投降したうえで土下座してこれまでの非礼を詫びれば解放するかもなぁ……?」


 僕は竜槍ラースをその場に突き立てた。丸腰となり、ジャスティン紫電に向かってゆっくりと歩いて行く。


「ちょっ……!? ひ、姫様!」

「ついてこないでねクラリス。これは僕がすべきこと。僕さえ耐えればすむこと……」


 おずおずと両膝をつき、正座する。


「い……今まで神族にたて突いて……も……申し訳ございません……でした……」


 僕は両手を身体の前につき、頭を下げて――土下座した。


「はははははっ! これは傑作だ! 死神族の姫が土下座したぞ!」

「うっ……! 姫様……っ!」


 ジャスティン紫電のわらい声とクラリスのすすり泣く声が聞こえる。

 これで……いいんだ。

 ジャスティン紫電の歩く音が聞こえてくる。


「せっかくだがお前には」

「《ドグマブラスト》」


 伏せていた僕の額にはコウモリの紋章が輝いていた。掌にどす黒いエネルギーが満ち、それをジャスティン紫電に向けて放つ。

 ジャスティン紫電は驚愕の表情を浮かべた。


「うわああああぁああああぁあ!?」


 四本脚で走るようにして、どす黒い衝撃波からジャスティン紫電が逃げ出した。あいつは犬か。

 犬となったジャスティン紫電が、先ほどジャスティン王児がぶつかったトネリコの木の幹に首をぶつけ、その場に伸びてしまった。あららら、首の骨大丈夫だったかな?

 とりあえずターゲットの沈黙を確認した僕は《ドグマブラスト》の発動を止める。

 随分と大地が原子分解されて削れてしまった。

 僕は陥没事故が起こったように深く削れた大地を迂回して、うつ伏せに寝ている紫電をひっくり返した。なんとか生きているのか、目から星が飛び出している。しぶとい奴め。

 木から枝が伸びてきた。

――枝?

 木から伸びた枝は僕の四肢に纏わりつき、放さない。首にも伸びてきた。

 これは一体……?

 木に人面の笑い顔が現れて大地から跳躍し、土煙とともに地下に隠れていた根がすべて露出する。尋常外の動き。


「だはははははっ! レイチェル・キルンベルガー捕えたりーっ!」



きゃー! 木から枝が伸びてきたー!

英星えいせいモテモテ!


次回もお楽しみに!

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