見ててね! お兄ちゃん!
ダルボワ文字の石畳の前に集合した英星たち!
これから最後の戦いへ……!!
紫電にワープで連れてきてもらい、僕らはダルボワ文字の石畳の前に集合した。
ホントのところはパパたち死神族に援軍に来てもらいたかったけど、まだ民衆の反乱を制圧できていないらしい。待っていればいいんだけど、あいにく僕はそこまで気が長くないんだ。
ふと。回想する。
僕はお兄ちゃんとともにこの階段を下りてきて……あの時は何も知らなかったな。神族のこと、死神族のこと。お兄ちゃんももういない。お兄ちゃん……。
しばし目を瞑って――見開く。
「見ててね! お兄ちゃん! みんな行くよ!」
僕は竜槍ラースを手にし、ダルボワ文字の石畳を踏み込むと、3色の神の宝玉を天にかざした。
3色の宝玉が輝き、宙に浮く。竜巻みたいに回転しだした。
ひときわ宝玉が輝いた時、僕らの身体が青白い光に包まれ、チーズのように伸びる。
すごい勢いで空が迫って来た。
「ひえっ! なんなんだよこんなの初めて!」
「前にも一回やっただろ! こら! 抱きつくなー!」
「粋お姉さんの腋、いい匂いがします!」
「王児のうなじ、おいしいわ!」
王児と粋は一方が腋の匂いを嗅ぎ、もう一方がうなじを舐め……マジモンの変態だ。こんなヤバい小学生どもがいたのか。
クラリスとデシューは目を点にして僕らを見ていた。
宝玉の回転がやんで落ちてくる頃には、僕らはボロボロの大聖堂前に尻もちをついていた。
前回とは辿り着くところが違うのね。そんな僕らを迎えるのは全方位からなる槍衾。……槍衾!?
「遅かったではないか。レイチェル・キルンベルガーとその一味よ」
厳星が槍衾の向こうから腕を組んでこっちを見ている。
「残念ながら貴様ら死神どもが神界に到達する軌道はこちらでコントロールできるからな。あらかじめ包囲させてもらった。後は頼むぞジャスティン。儂はリーネに用事がある」
――リーネお母様! 無事なんだ!
厳星は指をぱちりと鳴らし、以前は美しかった大聖堂へと入って行った。
上空から瞳を赤く光らせた1羽の黒い鳥が現れたのを合図に、次々と黒い鳥が姿を見せた。黒い鳥たちは空中でぐるぐると旋回し――
「《アメジストゲイル》!」
王児の掌から紫紺の突風が巻き起こる。
周囲で槍衾していた兵士たちも、黒い鳥たちもみんな彼方へ飛んでいった。
王児は鼻の下を人差し指でこすりながら、
「へへん! オレは何も考えずに腋を嗅いでいたのではありませんよ! 密かに禁呪のダルボワ文字を綴りながら腋を嗅いでいたのです!」
「さすがあたしの王児! カッコよくて頭がいいわ!」
こいつら絶対まともな頭してねえな。
それに僕が咄嗟に障壁を張ってなかったら僕らまですっ飛んでってたぞ。
「オレのおかげで雑魚がキレイに一掃された訳ですから、オレを崇めてくれてもいいんですよ?」
「きゃーっ! 崇めちゃうーっ!」
この大バカップルめ。
確かに王児のおかげでクソスパイ神族も何もかも全部吹っ飛んでいった訳だし少しくらいは――
きらりと黒い星が朝方の空に光る。
「英星! 見て! 黒い星だよ!」
「まぁここは神界だから朝でもけっこう星が見えるんだよねー……って!」
黒い星――ジャスティン・デイビッドソンが蹴りを繰り出し、一直線に突っ込んできた。
僕の顔面を狙っている……?
「英星危ない!」 「姫様!」
紫電とクラリスが僕の顔の前でそれぞれ得物をかざしてジャスティンを受け止め、僕の顔面は砕け散らずにすんだ。
ジャスティンは反動を利用してくるりとバク宙し、10メートルほど離れた前方に着地する。
「私はそなたたちを許さん! あのパラシティックモスは私が飼育しようと思っていたのに!」
「え? あのパラシティックモスは……って紫電のお父さんに寄生してたあいつ?」
ジャスティンは地団駄を踏む。
「そうだ! 一生懸命育てていたのによくも殺してくれたな! 死して償うがいい!」
「待って下さい」
デシューが会話に割り込む。
「パラシティックモスは滅多に人間に卵を産み付けません。本当にあの蛾が紫電くんのお父さんに卵を産み付けたのは偶然なのデスか?」
「デススライム風情が神に口を利くな!」
「質問に答えて下さい。つまりあなた方があの蛾を何らかの方法で操って――」
「そうだな。……まぁ。そうしたかもな……!」
僕らは言葉を失った。
紫電のお父さんはこいつらに意図して狙われたというのだ。
目に涙を浮かべて震えだした紫電に僕は声をかける。
「紫電。冷静にいこうね」
震えながら、紫電は黙って頷いた。
「パラシティックモスの幼虫が好きなのは肉なのだよ。お前の父は豊富な人肉を持っていた。だからテキトーに狙ってテキトーに殺したまでのこと」
「うわあああああああっ!!」
叫び声を上げ、紫電が親の仇に向かって猛然と駆け出した。
荒波の剣に雷を纏わせ、斬りかかる。
ジャスティンは上空に高々と跳躍して回避した。
勢いのままに紫電も空を飛び、ジャスティンを追う。
「ジャスティン! お前っ! お前ええええええぇぇえぇぇえぇぇぇえっ!!」
紫電が剣を振りかぶるが、その隙にジャスティンの右手が紫電の脇腹に深々とめり込む。
「か……はぁ……っ!」
「隙だらけだ。親父が泣いているぞ?」
紫電が地上に落ちてくる。クラリスが駆け寄り、紫電を優しく抱いた。
本来ならばあれは僕の役割だったはずなんだが、いかんせん足が遅すぎて間に合わなかったんだ。
ジャスティンは上空にとどまる。こいつも空を飛べるのか。
その場で品定めをするように僕らに視線を巡らすと、緑色の髪の少年で視線を止める。
「ほう、お前は禁呪が使えたな」
「え? オレ?」
ジャスティンの身体がスライムのような不定形になり、一直線に王児に伸びてきた。
「王児! 危ない!」
叫んだ時には手遅れだった。王児の身体は黒く妖しい光に包まれ、びくんと大きく震える。
「ぎゃあぁあぁあああ!」
悲鳴を上げた王児が仰向けに倒れ、喉を押さえて何度も大きく身体を反らせる。
何が起きたんだ王児!
しばらくして、発作にも似た王児の震えが収まった。
「王児。大丈夫?」
粋が恐る恐る声をかける。
王児は口の片端を不気味に吊り上げた。地面に落ちていた賢者の書が光る。
「《ストームショット》」
「きゃああああああっ!?」
王児の掌から発生した風の弾が粋をズタズタに引き裂く。
王児にシュレッダーは要らなさそう。
シュレッダー代が浮いていいなあ~!
次回もお楽しみに!