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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第14章》 紫電の戦い
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最後の宝玉

ところで最後の宝玉はいずこにあるんだ?

 紫電しでんの右目に再生の光の波動を送ると、徐々に白い塊が形作られて眼球が再生した。

 とことん便利だわこの力。

 紫電は「ありがと」と手短にお礼を言うと、隆彦たかひこ死体ぬけがらへと駆け寄っていく。


「パパ……あんな奴に寄生されてたなんて。あいつは倒したよ? ねえ、パパ……」


 紫電がわあっと泣き出した。

 僕は不謹慎ながらもパラシティックモスの体液まみれの紫電って生臭いなー、早く風呂に入って欲しいなー、なんて思っていたんだけど。


「紫電くんには申し訳ないデスけど、気掛かりなのは神の宝玉のありかデス。一体どこにあるんでしょうね……」

「ああ、これは一体どういうこと……?」


 クレーターの上から紫電のお母さんの声が聞こえた。

 目を覚ましたら豪邸がクレーターに変わっていたんだから無理もない。


「紫電のお母さーん、あの、お尋ねしにくいことなのですが。神の宝玉ってどこにありますか?」


 僕は紫電のお母さんに不躾ぶしつけを承知でいてみた。

 紫電のお母さんはよく聞こえない、といった素振りをみせた。そりゃこんだけ離れていたら聞こえないよな。

 すると王児おうじがカンペに何やら書きだす。今度は何を書いているんだ……?

 王児がカンペを掲げると、「先刻話していた宝玉はどこにありますか?」とでっかく書いてあった。

 王児ってもっとインテリだった気がするんだが。


「ああ、宝玉なら私の部屋に大切に保管していたんだけど、いかんせん灰になっちゃったかも」


 この状況で怒らないとか異常だろ。脳の回路がいかれている。

 結局夜を徹した探索が行われた。その間紫電のお母さんは変わり果てた夫の姿に涙し、簡素な白い紙袋に遺体を包んでいた。

――夜が明けても神の宝玉は見つからない。僕は土まみれになってスコップを放り出した。


「ダメだよー! 見つかんないじゃん! お風呂入りたいーっ!」

「ボク身体中が筋肉痛だよ……」

「あたしもー。英星えいせい一緒にお風呂入ろー」

いきお姉さん! オレと一緒にお風呂に入りましょうよっ!」

「王児くん! そういうスケベ発言はやめなさい!」


 クラリスもすっかり元気になってなにより。今は紫電の法衣を着ていた。

 デシューは仮眠をとっており、枕元にはデシュー用の小さなつるはし。

 紫電が大の字になって地面に寝そべった。


「これ……英星詰んだんじゃあ……? 見つかんないよぉ」


 僕は紙パックのオレンジジュースを飲みながら、


「こら! 喋ってないで手を動かす!」

「あんたが動かしてないでしょうが!」

「僕はいいの! お姫様なんだから! 下僕どもはしっかり働け!」

「なんだよそれー!?」

「どうしたんデスか皆さん……?」


 あ、かわいいかわいいデシューが起きてきた。枕元に置いてあった小さなつるはしを肩に担いでいる。


「デシュー聞いてよ! こいつらが言うこと聞かなくて!」

「なんでだよ! 英星の言ってることとやってることが矛盾してるからでしょ!?」

「あのね下僕ども! そもそもこんな広大なクレーターを探せっていうのが無理なの!」

「このクレーターを造ったのは英星よ!」


 まさに侃々諤々かんかんがくがく、混沌とした議論を続けている僕らにデシューはふわぁと大きなあくびを一つ。


「ところで……賢者の書で場所の検索はしたんデスか?」

「「「「「…………」」」」」

「検索検索ーっ! 姫様が検索してくれようぞ!」

「あたし解らない問題は答えを見て丸写しするタイプなのよねーっ!」

「デシューもっと早く起きてよ!」

「け、賢者の書! オレも提案しようと思っていたんですよ~、あはははは!」

「王児くんそれはなんか怪しいですよ?」


 賢者の書で検索した結果、神の宝玉があるのは……紫電のお母さんのバッグの中。


「あの……紫電のお母さん。バッグの中身を拝見しても?」

「え? 私のバッグの中? いいけど……」


 僕は紫電につかまってクレーターの上までワープすると、お母さんのバッグの中を調べる。

 すると――あった。赤い宝玉がバッグの中に入っていた。

 赤い宝玉を取り出した僕を見て、お母さんは目を丸くする。


「あ~、昨日質に入れようと思っていたのよ! よかったわね、見つかって!」


 よかったわね、じゃぬぇぇぇぇぇぇぇええええええ!

 宝玉の裏には小難しいダルボワ文字が書いてあった。

 まあいい。これで神界への扉が開くのか。


 僕らは海沿いのホテルを取った。

 いよいよ明日最終決戦だ。

 厳星まきぐそに引導を渡し、死神族の天下を決める。

 ……僕は何をしたいんだろう。ホントにそれでいいのだろうか。

 水平線を眺めながら、ふとそんな疑問が湧いてきた。


「英星?」


 アヒルの浮き輪を身に着けた紫電が話しかけてきた。

 アヒルの首の飾りが浮き輪に付いている。


「紫電……」


 紫電が僕を抱きしめる。

 ぶぅと音がしてアヒルの浮き輪が肌にこすれた。


「紫電。これでよかったのかな」

「何が?」


 僕は目を伏せる。

 紫電はきょとんとした表情でこっちを見ていた。


「自分がしようとしていることが……ホントに正しいのか……解んなくて」

「そうだね……」


 僕は紫電と無言で見つめ合う。

 しばらくの沈黙の後、紫電が口を開いた。


「正しさってなんだろう?」

「え?」


 紫電は僕の顔を覗き込む。


「どうしたら正しいのかな。何か絶対的な基準があるの……? ないでしょ」

「…………」


 紫電がぽんぽんと僕の頭を撫でた。


「心配しなくても大丈夫。英星のことはいつもボクが見てるから。今回ばかりは間違えてないよ」

「――――」


 あぁ、紫電。その唇を――少しの間僕にちょうだいっ!

 僕はぶっちゅう~っと紫電の唇を襲った。

 紫電の唇はなんというかキチキチしていた。ああこれが紫電の唇。はむん。久しぶりに奪ったけどゴムみたいな味がする。


「むふん。紫電。しゅき。だいしゅき。ふむん」

「英星。それアヒルの飾りなんだけど」


 僕が真っ赤になって紫電をしばき倒すのに1秒もかからなかった。



「平和ですね」


 夜になってプールサイドのデッキチェアでくつろいでいるとクラリスが声をかけてきた。

 周りでは王児が粋に水鉄砲をかけて走り回っている。


「ねえ。クラリスはどんな人生を歩んできたの?」

「え? わ、私ですか? 私はそんな大した人生歩んできてないですけど……」


 僕の問いかけが意外だったのか、クラリスは返答に窮した。

 しばらくあたふたとしていたが呼吸を整えて、


「そうですね。すごく大変な人生でした。私は孤児みなしごだったんです」

「そう……なんだ」


 クラリスは遠い目をして夜空を見上げる。


「私はもともと死神族と人間のバイレイシャルだったんですけど」

「へえ。僕と一緒じゃん」

「はい。両親を神族に殺されて……戦地をさ迷っている時にアクセル・キルンベルガー様に拾われたんです。それからは毎日勉強と武術ばっかりで」

「そっか。クラリスも色々あったんだね」

「……はい。そうですね」


 クラリスは控えめに笑った。


「……ぃた……いな……」

「ふえ? クラリス今なんて?」

「パパとママに……会いたいな……うっ……ひくっ……」


 プールで泳いでいた紫電がクラリスの異変に気付き、プールから上がる。


「クラリスちゃん……? 英星! クラリスちゃんに何言ったの!?」

「誤解だよ誤解! 何もヤバいことは言ってないって!」

「ウソつけ! 何もないのにクラリスちゃんが泣くもんか!」

「……このわからず屋!」


 僕は紫電の股ぐらを蹴り上げた。清々すがすがしいりんが夜の静寂を切り裂く。


「はぅぅんっ……あぅんっ! あぅん……っ!」


 プールサイドに倒れて股間を押さえる紫電。やらしい声を発してぴくつき始めた。蹴り転がしてプールに沈める。これで音がでることもあるまい。


「英星お姉さん! 困ったら股間を蹴り上げるなんてひどいです! 男性蔑視ですよ!」

「へ~? そういう王児には付いてんのかな?」


 またしても清々しい音が月夜に響き渡った。今度はちょっと小さめ。

 なるほど、これでおおよそのサイズを測ることができるのか。

 王児は股間を押さえて僕の足元に無様に倒れている。


「あふっ……あぁんっ……ふにゃぁぁんっ……!」


 王児も蹴り転がされてプールに沈められた。

 さてと。野郎2人が沈んだところで……なんだったっけ?


「くすっ……! あははははっ……!」


 クラリスがお腹を押さえて笑っていた。

 ……そっか。よかった。


「デシューには性別はないデスけど、デシューも男だったら蹴られてたっぽいデスね!」


 こうして決戦前最後の夜は更けていった。



決戦前の夜空に野郎どものりんが鳴り響く……!

ロマンチックの真逆を行く展開。


次回もお楽しみに!

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