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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第14章》 紫電の戦い
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あまりに残酷な現実

巨大を見た英星えいせいたちの心境は……蛾々蛾――ン! といったところか?

「あ……ぁぁ……父上……?」


 紫電しでんの驚愕の声が荒野に虚しく響く。

 隆彦たかひこから誕生した巨大は敵意に満ちた赤い目でこっちを見ている。


「これはパラシティックモス!? 寄生蛾デスよ!」

「紫電! ワープ!!」


 固まった紫電に、僕はほぼ反射的に叫んでいた。紫電は動かない。


「姫様っ!」


 クラリスが声を裏返しながら僕らとパラシティックモスの間に割って入った。突如闖入ちんにゅうしたクラリスにパラシティックモスは長い口吻こうふんを伸ばす。


「あぎゅうっ!?」


 パラシティックモスの口吻がクラリスをぐるぐる巻きに捉えた。クラリスをゆっくりと持ち上げる。


「い、いや! 誰か! 誰かあああああ!」


 宙に浮きながら悲鳴を上げるクラリスを救うべく、いきが極太の《カオスレーザー》を放った。

 パラシティックモスを暗黒光線が包み込み――舞ったのは大量の鱗粉。


「わああああああ! 前が見えません! 迷惑です! 害悪です!」


 王児おうじがクレームをつけた。更に悪いことに鋭利な鱗粉が僕らに突き刺さる。


「あいたたたた! これ何!? あたしの麗しい美肌に刺さるんだけど!」

「皆さん目をつぶって息を止めるのデス! 吸い込んで肺に刺さったら大変デスよ!」


 言いながらデシューはゴーグルとマスクを着ける。どこから取り出したんだ。前線の味方に渡しやがれ。


「王児! あんたの風スペルでこの鱗粉吹き飛ばせないの!?」

「や、やってみます! 《カースド・ストーム》!」


 王児が賢者の書を光らせ、呪われし風が針のような鱗粉を一掃する。ようやく視界が開けた。さて、クラリスは――

 パラシティックモスの口吻の先端がクラリスの頭に迫っていた。


「……やだ……私まだ死にたくない」

「クラリス!」


 僕はクラリスを助けるべく閃光のカースをパラシティックモスに放つ。パラシティックモスは空に飛んでかわした。空中で羽ばたき、口吻の先端を死神族の少女の頭に密着させる。

 信じられないほどゆっくりと。クラリスは口吻の中に吸い込まれていった。足をじたばたと必死に動かし、吸い込まれまいと抵抗するが無駄だった。


「クラリスさん……!」


 王児が立ち尽くす。

 ……まだだ! まだ間に合う!

 僕は流星を呼び寄せた。これでクラリスを完全に吸い込む前に潰れてしまえ!

 空中の巨大蛾は当たり前のように旋回し、かわした。無駄にクレーターを増やしただけか――

 辺りを重たい空気が包む。

 まだクラリスの形に盛り上がっている部分の口吻はびくびくと震えていた。

 クラリスはなんとか生きている――そう思った矢先に口吻がねじりパンのようにねじれた。

 肉が裂け骨が砕けるむごい音がしてクラリスの形になっている部分は動くのをやめる。

 動かなくなったクラリスはつるりと吸い込まれて見えなくなった。口吻の先からはクラリスのものと思われる血液がしたたり落ちる。


「ああああああああああああっ!」


 粋が顔を覆って泣き崩れた。

 僕らと一緒に来なければこんなことにはならなかったのだろう。

 あまりにもあっけない少女の最期。

 僕はこれ以上ないほど強く唇をんだ。

 忌々しい蛾が土煙を巻き上げ着地する。

 僕は竜槍ラースを握りしめ、駆け出した。


「クラリスを返せ! クラリスをっ!!」


 竜槍ラースで斬りかかる。パラシティックモスははねだけ動かし、新たに鱗粉を撒き散らした。すぐに王児が風のスペルで掃除するが、少し吸い込んでしまったようだ。喉や肺に突き刺さった鱗粉にせ返る。

 動きが止まった僕は恰好の的だった。

 口吻が勢いよく伸びてきて――


英星えいせい!」


 紫電が僕を背後から抱きかかえ、空に飛び立つ。右手に何か握っているようだった。

 紫電は右手に握っていた何かをパラシティックモスに投げつける。

 あれは……紫電の右目玉!?


おとりだよ。それよりも考えなしに突っ込んじゃダメ」


 パラシティックモスは地面にゴムボールのようにバウンドした紫電の目玉を吸い込んだ。

 紫電は鱗粉を吸わないよう口元を法衣で押さえながら僕にささやく。


「ここはボクに任せて大人しくしてて」


 何かこいつを倒す策でもあるのか。紫電はぐるりと僕を抱えたまま旋回し、泣いている粋のもとへ僕を届ける。紫電がパラシティックモスに向き直った。


「デシュー。こいつが父上に寄生してたってことは? 寄生されてたら他にどんなことが考えられるの?」

「……正常な思考を奪い……意識を侵食していたものと思われます」

「解ってた。あんな冷たい太刀筋は父上の太刀筋じゃない。ひょっとして最近ボクに怒りっぽくなったのも……?」

「きっと……寄生された影響デス」

「父上の仇。優しい優しい……父上の仇」


 紫電の横顔に僕の鼓動がどきりと跳ね上がる。

 紫電はパチリと荒波あらなみつるぎを鞘に納めた。つかを持ったまま走り出す。


「うぉおおおおおおおおおおっ!!」


 紫電に口吻が伸びる。

 少年は赤い髪をなびかせたまま光に包まれ――消えた。

 お得意のワープだ。紫電はどこに――

 巨大な蛾の腹の中から稲妻が弧を描いて閃いた。

 紫色の体液まみれとなった紫電が、何かを抱えて蛾の腹部から飛び出す。

 まさか。紫電。

 吸い込まれた自分の目玉にワープして内部からあいつを斬ったのか?

 そんな戦法が。……しかし状況からしてそうとしか考えられない。

 体内から魔法剣で焼かれたパラシティックモスはさすがにひとたまりもなかったのだろう。情けない断末魔の悲鳴を残して焼けていく。

 今ちらりと金髪のようなものが見えた。じゃあ抱えているのはクラリス――!


「紫電!」

「ボクのことはいいから! 早くクラリスちゃんを!」


 僕はコウモリの紋章を輝かせ、再生の光の波動を送る。

 紫色の体液に染まり、身体中の関節があらぬ方向を向いたクラリス。

 身に着けていた物は繊維一本残らず溶けてしまっている。

 死ぬな。死ぬなよクラリス!

 クラリスの右手の小指がぴくりと動いた。


「げほっ! ごほっ! ごほっ!」


 口からパラシティックモスの体液が吐き出される。


「ふぃめ……ひめ……さま……」

「クラリス……! 守ってくれてありがとう。おかえりなさい」

「あはは……お手を煩わせてしまいました……すみません……ごほっ……」


 紫電が法衣を脱いでクラリスの身体にかぶせる。

 腹を裂かれた巨大蛾の生臭さがいつまでも漂っていた。



紫電あんな奴を倒すなんてすごい!

だが昆虫虐待との声が!

紫電は昆虫虐待の罪を背負って歩き出す……! ウソです。


次回もお楽しみに!

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