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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第14章》 紫電の戦い
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今度こそ一騎打ち!

さあ! 今度こそ紫電しでん隆彦たかひこの一騎打ちだ!

 クレーターの中で一騎打ちをしている荒波あらなみ親子。紫電しでんの頭と右肩からは血が。

 一体何が起こったんだ? 全然見てなかったから解らんかった!


「遠くから見てましたけど、時おり隆彦たかひこの身体が微妙に隆起しているようなのデス。神族が身体を乗っ取っている可能性が高いデスね。あるいは……」


 デシューが解説してくれた。そ、そうだよなあ。僕もそうだと思っていたんだよね。


「でも紫電くんは1人で倒したいんでしょう? どうやって教えたら……」


 クラリスの問いに、さっき僕らに襲われかけていた王児おうじが。


「ふふふ。皆さん本当に頭の中身が詰まってないですねえ。そんなの簡単じゃないですか」

「さすがあたしの王児! このことを紫電に伝える方法を思い付いたのね?」


 王児は視線をきらりと閃かせた。


「ズバリ! カンペです!」

「……カンペ?」


 僕らは目が点になる。


「見ていて下さい!」


 王児はどこから取り出したのかダンボールをバラすと、マジックペンできゅっきゅっきゅ~っと文字を書く。そして紫電から見て正面に走り出し、それを掲げる。そこには「隆彦の身体に隆起が!!」とでっかく書かれていた。

 隆彦の攻撃を受け止めて紫電の視線がズレるたび、王児はダンボールを掲げたまま微妙に立つ位置を変える。

 これは――アホだ。王児がすっかりドアホキャラに。


「何してんの王児! 目障り!!」


 しまいには紫電から目障りと怒声を浴びせられる始末。


「うわあああああん! いきお姉さーん!!」

「よしよし。一生懸命やったのね。偉いよ王児。偉い偉い」


 粋に頭を撫でてもらい、抱きしめられて王児クソガキはようやく泣き止んだ。

 昔の自分を見ているようで恥ずかしい。


「そんなことしなくても、紫電くんはおかしいと思っているはずデスがねえ」

「え?」


 僕らは一斉にデシューに視線を集めた。


 隆彦の太刀筋には寸分の無駄もない。

 紫電は圧倒的に押されていた。


「ぐぅっ! 父上ぇ……!」

「どうした紫電! 大人しく俺に斬られろ!」


 防戦一方の紫電に、僕は。


「紫電! 守るだけじゃ勝てないよ! ほら、攻めろー!」


 黄色い声援を送る。紫電がちらとこっちを見た。

 果敢に踏み込みをかける。


「やあああああああああっ!!」


 大きく剣を振りかぶる。だが紫電にできた隙を隆彦は見逃さなかった。


「げへっ?」


 紫電が変な声を出す。隆彦の刀が紫電の右目を貫いていた。


「ぎゃああああああああ!!」

紫電しで――ん!!」


 僕らはたまらずクレーターの中に駆け下りる。

 隆彦はそんな僕らに構わず、刀を愛息あいそくの右目から抜き放つ。切っ先に眼窩がんかから飛び出した目玉がくっついていた。

 薄笑いとともに我が子を見下ろす。


「弱者は哀しいなあ紫電。お前の弱さの証がこれだ」

「あう……ぁう……助けて……助けて英星えいせい……」

「……助けないよ」


 僕は右目があった・・・場所を押さえる紫電に言い放った。右目の痕からはどくどくと血液が流れ出ている。


「姫様!!」

「紫電さぁ。あんた言ったよね? 今日こそそいつを超えるって。ウソだったの? もう負けたの?」

「……う……うぅ……!」

「僕が大好きな紫電は右目を失くしたくらいで弱音吐いたりしない! 右目の一つくらい奪い返せっ!!」

「…………っ!!」


 よろめきながら紫電が立ち上がる。

 その光景を隆彦は鼻でわらった。


「どれくらい強くなったかと思ったらこの程度か。期待外れだ」


 隆彦が紫電にすり足で間合いを詰める。


「ちょっと姫様! 紫電くん殺されちゃいますよ!?」

「英星お姉さん!」

「うるさい! 黙って見てろ! 2人の戦いが続く限りは……たとえ殺されても僕は紫電を助けない!」

「英星……あんた……」


 僕は両手を口に当てて広げ、声を張る。


「紫電! そんなろくでなしの糞親父でもあんたのお父さんでしょ!? 今日こそそいつを超えてみせなさいよっ!! そいつも僕らも、あっと驚かせてみせて!!」


 紫電の剣先が上がった。歯を食いしばり、恐らくは最後の力を振り絞って隆彦に突撃する。


「うおおおおおおおおお! あっ……!」


 紫電が隆彦の目の前でこけた。


「愚か者めが!」


 隆彦が転んだ紫電を両断するべく剣を振り下ろした。

 紫電は首筋に斬り傷を受けながらも隆彦の一撃をいなす。鮮血が散った。転がりながら矮躯わいくを隆彦の間合いの内側に押し込む。

 隆彦は紫電の転倒が意図したものだったことを悟っただろう。加えて紫電に振り下ろした刀が湿った粘土質の地面に深々と埋まり、取り出せない。

 荒波の剣が隆彦の胸を斬り上げた。


「「「「「ぃやったあああああああっ!!」」」」」


 隆彦は信じられないといった表情でゆっくりと後方に倒れていく。

 やった! 勝ったよ! 紫電の勝ちだ!!

 紫電は片膝をついて隆彦を斬り上げた格好のまま、放心状態になっていた。

 あまりに劇的な勝利に、僕は込み上げるものを抑えられない。

 ホントは紫電が死んでしまわないか心配で心配で震えていたんだ。


「紫電! 紫電! あんなこといってごめんなひゃい!! うわああああああああん!!」


 紫電の体温を確かめるように強く抱きしめる。勢い余って僕らは湿った粘土質にごろごろと転がった。

 紫電は失った右目を閉じながらけらけらと笑う。


「あはは……英星……勝ったよ……!」

「レイチェル様! 危ない!」


 デシューの声。倒れた隆彦の胸の裂け目からはねのようなものが飛び出してきた。続いて腹部。飾毛かざりげが生えている。

 これは……か?

 振り返ればデシューを除くみんなが腰を抜かして言葉を失っていた(粋と王児は抱き合っていた)。

 巨大蛾の羽化は止まらない。べりべりと隆彦の皮膚を突き破り、誕生・・した。

 隆彦の皮は抜け殻になっている。


「ギチィィィィ!!」


 巨大蛾からそんな鳴き声が聞こえた。



隆彦から巨大な蛾が飛び出した!

昆虫採集はこいつでなんとかなる……いや、でかすぎる!


次回もお楽しみに!

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