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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第14章》 紫電の戦い
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一騎打ち!

英星えいせい「神の宝玉が欲しいかーっ!?」

一同「おーっ!!」

「宝玉ならあるけれど」


 マジで! 話が早すぎて助かる!

 じゃあ神族が来る前にとっとと宝玉を回収してしまおう!

 紫電しでんのお母さんは玄関ドアに顔を挟んだ。一体何をなさっているのかしら。


「ちょっと待っててねみんな。あなたー? 紫電ちゃんが帰って来てるわよー?」


 ぃぃぃぃいらんことすんじゃぬぇぇぇぇぇえええええええ! あの糞親父をいちいち召喚するなあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!

 僕の顔がよほど常軌を逸していたのか、紫電の親父の糞加減を知らないほとんどの仲間が心配そうに覗き込んできた。


「レイチェル様。何かマズいことでも? パブロ・ピカソの『泣く女』のような顔をしていますけど」

「いや、あの。もう……終わった」

「ぎゃあああああ!!」


――悲鳴。紫電のお母さんの……!

 ほらまたよからぬことが起きたんじゃないのか?

 紫電のお母さんが玄関ドアから転がるように飛び出して来た。


「紫電くんのお母様! どうされましたか!?」


 いち早く駆け付けたクラリスが開いた玄関ドアの中を見て、目を見張る。

 僕も怖いもの見たさで玄関ドアの中をちらりと見てみた。

 両のまなこを赤く光らせ、腕に刀を持った細身の男がこっちをうかがっていた。

 これは……まさか紫電の糞親父? 一体何があったよ? 馬券でも外したか?

 何よりも驚いているのは紫電だった。


「父上……?」

「あれが紫電お兄さんのお父さんなんですね! なかなか個性的です!」


 デリカシーゼロの王児おうじの発言を、いきのげんこつが戒める。

 紫電の糞親父は眼を更に赤く光らせた。


「ヴオオォォォォオオオ!!」


 びりびりと身を切り刻むような冷たい咆哮に耳を塞ぐ。デシューは飛んでいった。


「あなた……あな……た……」


 紫電のお母さんは気を失ってしまう。

 このままじゃ危ない。僕は額にコウモリの紋章を輝かせ、流星を降らせて攻撃する。

 特大の1発を食らえ!

 空に特大の流星が姿を現す。……ちょっと大きすぎたかも。

 小さなビル1棟ほどはあろうかという流星が大気を切り裂き、紫電の糞親父の背後に落下した。ちょっと外したか。

 糞親父の後方に巨大なクレーターができ、粘土質の地面が剝きだしとなった。味方には障壁を張っておいたから大丈夫だな。

 流星の衝撃波を間近で受けた紫電の糞親父は……ぴんぴんしていた。吹っ飛んだのは紫電の家だけだ。また後で怒られそう。


「紫電……来い……!」


 糞親父がクレーターの中に滑り落ち、紫電を誘う。紫電はぴくんと震えた。


「この俺がお前を斬り刻み。その後でお前の仲間も全員始末してやる。一騎打ちだ」

「紫電! あんなのの言うこと聞くことない! みんなで倒そう!」

「そうですよ! いつものように謀略の限りを尽くして倒しましょう!」

「……ありがとうみんな。でも。ボクはあえて一騎打ちを受けたい。今日こそ父上を超えるんだ!」


 糞親父を超えるって……どういうこと?


「父上は……荒波隆彦あらなみたかひこ一刀流いっとうりゅう荒波派あらなみはの宗家なんだ。ボクの剣術の師匠。大丈夫。ボクは負けない!」

「そうけー? 頑張ってねー紫電。お土産シクヨロ♪」

「……テキトーに受け答えしてるでしょ」


 言い残して、紫電はクレーターの中に滑り落ちていった。


 クレーターの中央に荒波親子が対峙する。


「紫電。お前がどれほど強くなったのか。この俺自ら確かめてやる」

「望むところです。今日こそ父上を倒してみせますよ」


 刀を構え合い、お互いの隙を伺う。

 紫電は正眼せいがん、対する隆彦は八相はっそうの構えだ。

 先に仕掛けたのは隆彦だった。踏み込みと同時に鉄砲玉のような勢いで紫電に突進し、紫電の頭に神速の切っ先を浴びせる。紫電は紙一重でそれを受け、しのいだ。

――見えない。そもそも僕には動体視力という概念が無いんだ。以前神界のバッティングセンターに行ったら時速70キロの球が銃弾と見まがうスピードに感じられたくらいだから。

 おまけにバットを振ったら腰を痛めて、バットを突いて痛みに耐えていたら脇腹に次のボールがぶち当たって病院送りになった。

 だからスポーツができる紫電はホントに憧れる。あぁ~キュンキュンしてきた~!


「紫電くんカッコいいですね! 私も姫様みたいに狙っちゃおうかな!」

「クラリス! あんたみたいな下賤げせんな女に紫電は振り向かないよ? 紫電は僕のような高貴な才女に振り向くの。第一、紫電は既に僕の物。後は童貞を奪うだけだよ」

「なんか私のこと散々に言ってないですかー? ってか童貞を奪うだけって……紫電くんまだ11歳くらいだったような」


 僕はぐふふ、と笑った。


「それがいいんじゃないか。11歳にして童貞喪失なんて最近のおねショタエロ漫画ではよくある展開だよ」


 クラリスは顔を火照ほてらせながらもにやける。ふふふ。クラリスもなかなか業がふこうござる。


「まだまだだなー。あのね。おに・・ショタエロ漫画を読んでから『最近の』っていうワードは使いなさい」


 粋が会話に乱入してきた。顔がいやらしい。

 ぐふふふふ。僕らはみんな痴女ちじょらしいな。


「あーあー。滅茶苦茶におっしゃってますが皆さんの痴女発言は録音していますので」

「「「べうぅぅっ!?」」」


 3人揃って変な声出ちゃった!

 まさか録音されていたとは……。王児の奴め。

 王児はスマホの録音アプリをかざしてにやりと笑う。


「王児はショタに興味はないの?」

「なんでですかっ! ある訳ないでしょっ!!」

「いやいや姫様。王児くんがショタじゃないですか」


 クラリスの言葉に僕ら痴女連合軍は顔を見合わせる。


「紫電がいない間に襲っちゃえ!」

「いいですね! 身ぐるみいじゃいましょう!」

「えっ!? ちょっと! やめて! やだやだぁっ!!」

「うほー! あたしこういうの興奮するわ!」


 高い金属音が響き、荒波のつるぎが僕の足元に刺さった。

 クレーターの中を見ると、紫電が頭と右肩から血を流し、ふらついている。苦戦しているらしい。

 すっかり忘れさられているとも露知らず、紫電は懸命に戦っていたのだ。

 僕は何食わぬ顔で荒波の剣を紫電に放り投げる。


「紫電! ずっと応援してたけど踏み込みが甘くない?」

「紫電! あたしもずっと応援してたけど手首の使い方がイマイチだわ!」

「紫電くん! 私もずっと応援してましたけどみんなついてますからね!」


 紫電はちらりとこっちを見ると、苦しそうにしながら笑顔をみせた。


「皆さん大ウソつきデスねえ……」


 いつの間にか戻って来ていたデシューがぽつりとつぶやく。



この痴女どもは本当に懲りない!!


次回もお楽しみに!

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