優しすぎる紫電
英星、まさかの神界追放……?
どうなるこの女神!?
「……え…………せ……い……! い……せい……! えいせい……! 英星!」
僕を呼ぶ声がする…………誰……?
目をうっすらと開ける。どこかで見た赤髪の美少年の顔が、ぼんやりと視界に浮かんできた。
え……と……、紫電……だっけか。なんでそんなに青い顔しているの……?
「う……」
「英星! よかった! 英星!」
紫電が抱きついてきたのが解った。いつもこういう時どうしていたんだっけ……? 解らないや……身体に力が入らない。
「英星ぃぃぃぃぃ! 英星がっ! 英星がいきなり倒れるからっ! ボク……っ! ボク――っ!」
僕……倒れたんだ……なんで……? 何も考えられない……もう……全部どうでもいい……。
闇夜の中、ひとしきり僕を抱きしめて泣いた後、紫電は僕を抱きかかえて移動し始めた。
さっきから冷たいものがポツポツと足に当たっているので、どうやら雨が降ってきたらしい。紫電によって木陰に移された後、僕は身体を毛布で包んでもらった。暖かい。
紫電の優しさが身に染みる。
でも、目も口も半開きで、今の僕はさぞかし呆けた顔をしているんだろうな……。
「そうだ! 英星、ホットココア作ったげようか」
僕が力なく頷くと、紫電は「見てて!」と笑みを浮かべ、500ミリリットルのペットボトルに入った天然水を、やかんに入れる。そしてそれをスチール製の五徳の上に置き、下部にスペルで小型の火の玉を発生させた。
……紫電がスペルを習得したのはさっきだったっけ? なかなか様になっている。
あっという間に湯が沸いた。
紫電はあらかじめココアパウダーを入れておいたステンレスのカップに湯を注ぎ、
「はい、英星」
と手渡してくれる。
「あ……りがと……」
朦朧とする意識の中、僕は紫電作・ホットココアを口にした。
「ど、どう……?」
心配そうに顔を覗き込んでくる。
「おいしい……!」
「あぁ、よかった……!」
「ホ……ホントにおいしい……! うっ……ううっ……!」
おいしすぎて泣けてきた。
「そ、そんなに? あ、ありがとう……」
紫電はぽっと赤くなって、照れ臭そうに頬をぽりぽりとかいて微笑んだ。
なんだか紫電のココアを飲んだら急に頭が冴えてきたぞ。
確か僕らは洞窟で紫電の家に代々伝わる剣をゲットして、その後地上に戻って……!
戻って…………!!
「おげぇっ!! ゲホッ! げえぇえぇえ!!」
ステンレスのカップが手から滑り落ちる。紫電のココアも地面に飲み干されてしまった。
「英星! 英星……よしよし、よしよし……」
紫電が背中をさすってくれた。
「紫電……紫電……! 僕……お父様に……お父様に見捨てられちゃった……! ああ……ああああああああ……!」
「英星……」
「もう……もうお家に帰れないよう……もう…………!」
「私も同じだ。自分だけ被害者面するな」
ソラの声が聞こえてきた。
「紫電、勝手に移動するな。探したぞ。声ぐらい出してくれ」
大量の木の枝を抱えながら、少し拗ねたようにソラは言う。
「あ、そういえばお布団になりそうな物探してもらってたんだった。ゴメン」
「え? お布団って、毛布あるのに?」
「うん、毛布はあるんだけど、その1枚しかないんだよね。お布団も薄いのしかなくってさ。春の夜ってこんなに寒いと思わなかったなあ。まして山頂だもんね」
心優しい紫電のことだから、「毛布使いなよ」って言っても「具合い悪いのは英星なんだから英星が使いなよ」って言って聞いてくれないんだろうなあ……。
……ん? あれは紅い流れ星! まあ綺麗! そうだ、お願いしなきゃ! お願い!
「紫電とずっと一緒にいられますように……紫電とずっと一緒にいられますように……紫電とずっと一緒にいられますように……言えたあ!」
「どしたの? 英星もう寝た方が……」
「いやいや、あそこに流れ星がね……」
「本当だ……! って、あれこっちに向かって来てない?」
「へ? ぎゃあああああああ!」
紅い流れ星が僕らを襲った。
「きゃああああああ!」 「わああああああ!」 「ぎょええええええ!」
三者三様の悲鳴を上げて吹っ飛ぶ。
確認すると、僕らがいた木陰のすぐ後ろに大きなクレーターができ、焼けただれていた。
「み、見ろ!」
ソラが珍しく深刻な声を出す。
「ど、どうしたのソラ!?」
「わ、私が布団代わりに持って来た木の枝が1本残らず吹っ飛んだんだよ!」
「そ、それって……!」
僕らは息を呑む。
「「「布団が吹っ飛んだ――――――!!」」」
「やかましっ! 3人で言わんでええわ! 俺のカースをかわしやがって!」
聞いたことがない声が僕らに突っ込みを入れた。
「ええい! なに奴ぅ!」
突っ込みに対するソラの突っ込みに、その声の主は不敵な笑みを浮かべ答える。
「俺は死神族デューク・フィレゾー……! 神族始末屋よ」
なんかヤバそうな奴が来た!
次回もお楽しみに!