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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第13章》 広瀬と武久
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精神崩壊

しっかりするんだいき

 いき哄笑こうしょうが響き渡った。

 刹那、粋は紫電しでんに足払いをかけ、その口元を殴打する。


「ぶわっ! どうしたの粋!」


 殴られた口元を押さえ、紫電が何か言おうとするが、粋の殴打は止まらない。

 僕が羽交はがい締めにして引きがし、やっと止まった。

 紫電は派手に後頭部を強打したらしく、白目をいて間抜け面でおねんねしてしまう。

 粋の錯乱は止まる気配がない。


「粋! どうしちゃったのよおっ!?」

「粋! 悪い子! 粋は悪い子おおおおおぉぉぉぉぉっ!!」


 粋は僕の足を踏みつける。


「あんぎゃああああぁぁす!」


 悲鳴とともに腕の力が緩み、羽交い締めを無理矢理解かれてしまった。


「粋はー! 悪い子っ♪ 粋は悪い子っ♪」


 四つんいになり、笑いながら犬のようにぺろりと舌を出した。


「粋お姉さん! 精神崩壊したんですか!? 心を強く持って下さい!」


 王児おうじが粋を押し倒してがくがくと揺するが、廃人と化した粋は自らの彼氏に平手打ちを食らわす。

 横なりに吹き飛んだ王児はごろごろと転がり、がれきにぶつかってようやく回転を止めた。


「うっ……ぅぅぅぅぅぅぅ……!」


 あ、泣いたなこれ。

 と思いきや。王児は腕で目元を拭うと、キッと目を見開いた。

 頬は真っ赤にれ始めている。


「泣きたいのは……粋お姉さんなんだ!」

「へあ……?」


 今一瞬粋が元に戻った気がする。

 気のせいじゃない。


「えへっ。えへへっ。えへへへへっ?」


 また戻った。

 粋の心を揺さぶれば戻るのか……?

 クラリスはみぞおちを押さえ、苦しそうな顔をしている。


「粋。ママたちとは一緒に来ないのね? 解ったわ」

「行く! 行く! 粋行く!!」

「行っちゃダメ! 粋お姉さん!」


 粋は《カオスレーザー》を放った。

 王児の頬を暗黒光線がかすめる。

 2人のやりとりに圧倒されて固まっていた両足を叱咤しったし、僕も駆け出す。

 王児は粋に果敢かかんに体当たりした。2人はアスファルトの上に転がり、


「粋お姉さんごめんなさい!」


 王児が粋の二の腕にみ付いた。


「キャアアアアアアアアアン!?」


 粋が悲痛な声を上げる。

 あまりに鼓膜に刺さる鳴き声に僕らは耳を塞いだ。


「……お……うじ……?」

「粋お姉さ……ん……?」


 粋と王児が見つめ合う。……近い。僕もあれくらいの距離で紫電と見つめ合いたい。


「あなたは王児っていうの?」


 槍を逆手に持ったじゅんが王児の背後に迫っていた。


「え」

「私たちの娘によくも」


 抑揚よくようのない冷ややかな声が発せられ、王児の背中に槍が突き立てられた。


「げぼっ……?」


 王児の口から血塊けっかいが吐き出され、純は王児を突き刺したその槍を掲げる。

 びくりびくりと不気味に痙攣けいれんしながら、王児の身体は逆U字に反った。

 どす黒い王児の血に染められた粋は、呆然と地面に寝そべっていて。


「ぁ……あ……王……児……!?」


 王児はなおもうごめく。必死に生きようとする。

 意識を集中させていた僕は、コウモリの紋章を額に輝かせた。

 これで回復を……!


「うるさいはえね。串刺しにしても死なないなんて。娘から離れなさい……永久に!」


 言って純は藻搔もがく王児が刺さった槍を素早く下方向に下げたかと思うと、自らの頭上へと一気に突き上げた。


「ぐぎゃあああああぁぅうううううっ!?」


 王児の小さな身体が更に大きく反った。


「うげっ、げぇっ、ぐぇっ……?」


 王児の赤黒い四肢がだらりと槍の途中から垂れ下がる。

 再生の光の波動を王児に送るが間に合うのか?


「うふふ。血祭りにあげちゃった。ダメよ粋。付き合う男の子は選ばなきゃ」

「ママの言う通りだ。粋。来なさい。お仕置きだ」


 粋のベルトをつかみ、優人ゆうとが娘を身体の横で抱きかかえた。


英星えいせい! 助けて英星っ!」


 今僕は手が離せないんだよおおおおぉぉぉ!

 優人が粋のスニーカーと靴下を脱がす。何をしようとしているんだ?

 粋の父は《ファイア》のスペルを唱え、指先に炎を宿すと。粋の素足にそれを押し付けた。


「ぎゃああああああああああっ!!」

「ククククク……悪い子だ」

「我が子ながらいい声で鳴くわ……釘も打ち付けましょうね」


 粋は必死に助けを乞う。僕からはじたばたとした粋の足の動きだけが見える。


「熱い! 熱いよお! 王児ぃ! 英星ぃ!」

「――はぁっ!!」


 剣閃。

 真一文字に放たれた斬撃が優人の首をぎ。

 邪悪なる父親の首が跳んだ。


「粋を……放せ」


 僕はコウモリの紋章の力を何も王児だけに送っていた訳ではなかった。

 優人の首をねたのは――紫電。


「パ……パパぁ!!」


 足裏を焼かれたからだろう。粋は赤ん坊のように地を這うと首を無くした優人の身体を揺する。

 優人の首がぼとりと地に落ちた。

 あんなのでも父親なんだ。紫電。ありがとう・・・・・


「ゆ……許さない! 絶対に許さない!」

「……許さなくていいよ」


 紫電の口から声が漏れる。

 復讐に燃える粋は立ち上がって紫電に何かスペルを放とうとして――足裏の痛みに耐えきれずにアスファルトの上に転倒。上体だけ起こし、紫電をにらんで悔し涙を流す。


「う……うぅぅぅ……ぅう~!!」


 粋の歯のきしむ音がこっちにまで聞こえてくる。

 しかし粋の背後に、粋以上に憤怒ふんぬに燃える女がいた。


「……優人……!!」



色々エグい粋の本物の両親!


次回もお楽しみに!

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